僕のことを話そう~千葉ジェッツ 富樫勇樹
大男たちをかいくぐって決める技ありのフローターシュート、鮮やかにゴールを射抜く長距離砲、高速ドリブルでコートを駆け抜ける富樫勇樹はスピードとテクニックを併せ持つB.LEAGUEのスター的存在だ。15歳で単身アメリカに渡り、積み重ねた経験が彼をどう育てたのか?『僕のことを話そう』~6番目に登場した富樫が語る話は興味深い。
取材・構成◎Takami Matsubara
■ チームとして成長できたシーズン
B.LEAGUEが開幕して前半戦途中から13連勝しました。それで波に乗ったというか、チームが勢いづいた状態で天皇杯を迎えたんですね。一発勝負のトーナメントでは勢いがあるチームが強い。今、振り返っても天皇杯で優勝できた最大の勝因は完全に『勢い』だったと思います。だけど、そのあとのリーグ戦を戦いながら徐々に勢いだけではないチームとしての安定感が出てきたのを感じました。終盤に9連勝してレギュラーシーズンを終えられたのもチームとして成長できた証じゃないでしょうか。僕個人としては昨シーズンは良い年とは言えませんでした。アメリカのDリーグやイタリアのセリエAでプレーした経験を経て、それなりに自信を持って日本に帰ってきたんですが、(千葉ジェッツでは)なかなかプレータイムがもらえず、すごく悔しかったし、正直イライラが募ったシーズンでした。でも、そんな1年があったからこそ今シーズンはプレーできることがうれしくて仕方ないというか、倍楽しいというか(笑)。それがいい結果につながっているように思います。
■ 普通の23歳より経験値は高い
僕は大学を卒業してプロデビューした、いわゆるB.LEAGUEのルーキーと呼ばれる選手たちと同い年です。もし、日本の大学を卒業していたら僕もルーキーだったわけですね。そんな自分が歩いてきた道を振り返って思うのは、僕は多分同い年の彼らの何倍もの経験をしてきたに違いないということです。15歳でアメリカに渡ったこともそうですし、バスケット選手としてはDリーグやサマーリーグの舞台にも立ったこともそうです。日本代表に初めて選んでもらったのは10代のときでした。バスケットをやってきた場所、環境が大きく違うのだから経験することが違うのも当然ですが、なんていうか、僕は1人で乗り越えなくちゃならない経験をいっぱいしてきたと思うんです。ほんとにそういう経験をいっぱいいっぱいしてきました。だから、コートに立つと「ふてぶてしい」なんて言われる。ま、確かにコートの上では普通の23歳よりふてぶてしいかな?と自分でも思いますけど(笑)
■ ターニングポイント
まだ人生23年生きてきただけですけど、その23年間の中で最初のターニングポイントとなったのはやっぱり中学を卒業してアメリカの高校に進んだことでしょうね。その決断がまず1つの人生の分かれ目だったかなと思います。2つ目のターニングポイントは奨学金を得られなかったことでアメリカの大学に進学できなかったこと。今でも正直、進学したかったなという気持ちはありますが、実際に行ってたらどうだったんだろうということも考えます。もしかすると、まったく出場時間もらえなくて、自分にとってプラスにはならなかったかもしれないし。そう思うと、あのときアメリカでの大学進学をあきらめて日本に帰りbjリーグに入る決断をしたのも大きなターニングポイントだったと思います。
■ 好きなもの、苦手なもの
好きな食べ物は肉かな。寿司とか海鮮系があまり好きじゃないので、外食するときも自然と焼肉とかになりますね。好きな色は白と黒。服もシンプルなものが好きだし、モノトーンを選ぶことが多いですね。その代わりにピンクのバッシュを履くとか、1点だけ派手にして楽しみます(笑)。好きな季節は春。だんだん暖かくなってきたなって感じる気候も好きですし、バスケ的には「ああ長かったレギュラーシーズンもそろそろ終わりが見えてきたなあ」っていう季節ですから、ちょっとホッとするというか。1日の中でホッとする時間はのんびりテレビを見てるときですね。僕はテレビが大好きなんです。バラエティ、ドラマ、映画、なんでも見ますよ。オフの日はソファーに座ってずっとテレビを見てます。その時間が幸せ(笑)。あと、髪型についてよく聞かれるんですが、この髪型にしたのはプロ選手になったときです。実家がある新潟の行きつけの美容院で「プロになるなら少し派手目にしましょう」と言われ、それじゃあお願いしますって美容師さんにお任せしたんでよ。僕はバスケットをするとき前髪がふわふわ動くのが好きじゃないので、乱れないようにキチッと固めたこのスタイルは結構気に入ってます。けど、固めなければサラサラですから。オデコが前髪で隠れたサラサラヘアの僕を見ても、一瞬誰だかわからないかもしれませんね。オフの日はそんな誰だかわからないサラサラ髪のままソファーに座ってテレビを見てるわけです(笑)
嫌いな食べ物は結構多いですよ。まず野菜が苦手。中でもピーマンとか人参とかナスとかいわゆる子どもが嫌いだと思うような野菜が嫌いです。そこは丸っきり子どもです。苦手なものは人間以外の生き物全般ですね。犬だけは5年ぐらい前にアメリカで触れ合う機会があったのでちょっと好きになったけど、あとはどんな動物も触れません。触りたくもありません。交流を持つのは人間だけで十分です(笑)
■ それほど負けず嫌いじゃない性格
試合で緊張するかどうかは自信があるかないかで違ってくると思うんですよ。僕はサマーリーグの一戦目でめちゃくちゃ緊張したんですが、やっぱりそのときは自分がどのぐらいできるかどうか自信がなかったからでしょうね。そういう経験をしたこともあって日本に帰って来てからはどんな大きな試合でも緊張することはありません。もちろんいい意味での緊張感はありますが、ガチガチになるようなことはないです。bjリーグのファイナルで一万人のお客さんが集まった有明でも、今年の天皇杯決勝でも、楽しんでやろうと思ってコートに立ちました。そういう面でのメンタルはアメリカで鍛えられてきたのかもしれません。ただ、強気でバスケをするというのと負けず嫌いというのはまた違うものであって、周りを見ると自分より負けず嫌いだなあと思う選手は結構いるし、そういう選手と比べると「僕は負けず嫌いです」と言えない自分がいます。案外自分はスポーツ選手に向いていない性格なのかも…なんて考えちゃうときもありますね。でも、バスケットに関してネガティブになることはありません。試合に負ければもちろん悔しいですけど、引きずることもないし。なんだろう、うまく言えないんですけど、自分はこの身長(167cm)でやってるんだからその時点でオーケーでしょ!みたいにポジティブに捉えちゃうんですね。アメリカにいたとき僕は一度も泣きませんでした。こんなすごいヤツらに交じって、こんな環境でバスケをやるんだと驚いたことはあったけど、練習がつらいとか逃げたいとか思ったことはないし、ホームシックにかかったこともない。本当に一度も泣いたことがないんです。それは多分この身長じゃ無理でしょ、負けてもしょうがないでしょっていうところからスタートしているからだと思います。そこにはネガティブになる要素がないんですよ。負けてもまた次頑張ろうとポジティブに切り替えられる。今だってリーグの中で僕は小さい方から2番目、日本代表の中では1番小さい。そういう中でずっと戦ってきているから、それだけでもすごいじゃんと思えるんです。そこは自分の強みでもあるのかなあ。
■ B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2016-2017に向けて
いよいよチャンピオンシップが始まります。クォーターファイナルの相手は同じ東地区で戦って優勝した栃木ブレックス、強敵ですね。でも、ここまでくればどのチームも強敵なわけですから、自分たちの力を信じて、自分たちのバスケットをやり抜くだけです。9連勝でレギュラーシーズンを終えたことは実力がついたという自信にもなったし、チームとしてはいい波に乗れていると感じています。その波も味方にして、天皇杯に続く2冠目を勝ち取りに行きますよ。敵地(栃木のホーム、ブレックスアリーナ宇都宮)での戦いになりますが、いつもどおり楽しんでやろうととい気持ちでコートに立つつもりです。