3Pシュートは1.5倍の価値がある!? アナリスト視点でB.LEAGUEを見よう(2)
編集◎スポーツナビ(元記事)
リーグ戦も佳境に入り、5月13日の準々決勝からはじまるBリーグチャンピオンシップ(CS)がいよいよ迫ってきた。スポーツナビではBリーグ初代王者が決まるCSに向けて、大会ナビゲーターに就任したバスケットボール解説者・NBAアナリストの佐々木クリス氏協力のもと、プレーデータを活用したCSの楽しみ方を連載形式でご紹介する。
本記事で扱うデータは、Bリーグが競技力向上のためにB1に導入したバスケットボール専用の分析ツール「Synergy」の数値を元にしている。Bリーグ初年度のクライマックスを、データとともに楽しんでいただきたい。
文◎佐々木クリス
■ シュート成功率に3Pシュートの価値も上乗せすると・・・・・・
みなさん、唐突ですが3Pシュートは2Pシュートの1.5倍の価値があるのをご存知ですか?何を当たり前のことを・・・・・・と、あきれてページを飛ぶ前に、フィールドゴール(=フリースロー以外による得点、以降FG)成功率をキャリアで50%以上残してきた選手と40%の選手、どちらの方が優秀なプレーヤーかをぜひ考えてみてください。
バスケットボールはどちらが多くシュートを決めるのか、得点を相手よりも上回るのかを競うスポーツです。当然、キャリアFG50%の選手が高評価の選手と考えたくなります。しかし、まだ「キャリアFG50%の選手の方が優秀だ」と決めつけることはできません。なぜならバスケットボールにはFGに2点として加算されるものと、3点として加算されるシュートがあるためです。
2人のチームメートが1試合でみせたパフォーマンスを例えにして、その理由を説明させていただきます。25分間試合に出場した選手AはFGを全て2Pエリアから10本シュートを放ち5本成功、10得点を挙げました。同じチームの選手Bは2Pエリアから4本放ち2本成功、3Pエリアから6本放ち2本成功させました。FG全体の成功率は4/10=40%ですが、それでも選手Aと同じく10得点挙げることに成功しました。
この2選手を比較すると、得点での貢献度は同じになります。つまり3Pシュートには1.5倍の価値があることを加味すれば、共にFG成功率50%の価値を有しており、野球に例えるならば共に3割バッター級の選手なのです。
ちょっと数字が苦手でも、長くバスケットボールを観戦してきた方ならお気付きかもしれませんが、選手Aはインサイドを主戦場とするビッグマンに多く当てはまるでしょう。選手Bは外角も得意な点取り屋です。そしてどちらも優秀です。
このように、3Pシュートが決まる確率に3Pシュートの価値も上乗せした考え方をeFG%(エフェクティブ・フィールドゴール成功率)と呼びます。計算方法を公式にすると、eFG%={FG成功数+(0.5×3Pシュート成功数)}÷FG試投数となります。
※eFG%={2Pシュートの成功数+(1.5×3Pシュート成功数)}÷FG試投数
Bリーグ選手のシュート力をeFG%であらためて見ていくと意外な発見がありそうですね。
■ 1回のシュートを効率よく決める重要性
Bリーグ各クラブのeFG%が高いチームをご紹介すると、トップ5のチームが上から川崎ブレイブサンダース、千葉ジェッツ、シーホース三河、三遠ネオフェニックス、アルバルク東京(B1第29節終了時点)となります。このランキングをご覧になって、どのような印象をお持ちいただいたでしょうか。eFG%のトップ5チームはしっかりと勝率でもトップ6に入ってきているチームです。いかにバスケットボールにおいては1回のシュートを効率よく決めることが大事なのかがうかがえます。
その他の考察として、eFG%がリーグ9位の栃木ブレックスは前回のコラムで紹介した通り守備で勝ってきたと言えます。逆にeFG%では8位の横浜ビー・コルセアーズは守備の立て直しがB1・B2入替戦回避の為には急務と考えていいでしょう。
さらに詳しく各クラブを分析すると、eFG%とFG%の開きの最も大きい5チームは1試合あたりの得点に占める3Pシュートで挙げた得点比率でもトップ7に入ってきています。
また3Pシュートの効果を使って効率を上げるためには、質と量のバランスも無視できません。リーグで3番目に多く3Pシュートを放つサンロッカーズ渋谷は成功率では14位とその効果が相殺され、eFG%が効率の良いシュートの目安である50%を超えてきません。32.8%という3P成功率は選手達の決定力不足なのか、それともチームとして完全なノーマークを作れないままたくさん放っているのか……、こういったことをファンの方は注目するとおもしろいかもしれません。
ここで、前回チームの効率性を紹介した記事を思い出していただければと思います。
チームの真の実力を表すデータが存在!?
アナリスト視点でB.LEAGUEを見よう(1)
2Pシュートなら2回に1回、3Pシュートならば3回に1回入れば効率の良いシュートとなりますから、3Pシュートは33.3%さえ超えてくれば良いシュートになるのです。なぜかというと、34%で決めることができる選手がシュートを放てば0.34×3点=1.04点の期待が持てるシュートとなるからです。
■ 効果的なシューターの存在
ここまでの説明を聞くと、「3Pシュートしか打つ必要ないじゃん!?」となりますよね。場合によってはそれも間違いではないかもしれません。そのくらい3Pシュートには威力があるということです。
NBAにはヒューストン・ロケッツという1試合に40本以上の3Pシュートを放つチームがあります。実に全FGの46%を占めており、3Pシュートの成功数や試投数などのNBA記録を2016-17シーズンに軒並み更新してしまいました。
これはスタイルや戦術面での信念、そして成功率の高い選手がそろっているかどうかにも大きく左右されます。先ほどのSR渋谷ではありませんが、20%の確率でしか決められない選手が延々と3Pを放っていては勝つ見込みがありませんし、60%で決まる2Pシュートを1試合中に量産できるチームは、3Pを多用せずとも試合を支配できるのは間違いありません。
1試合平均27.5点とリーグ戦得点王への道をひた走る川崎のニック・ファジーカス。彼について対戦相手となった選手が「ニックが打ったら落ちるのを祈るしかない」というコメントを残したことがあります。彼のFG成功率は54.7%、3Pシュートも41.6%でeFG%に換算すると57.63%と、もはや彼にとって質の悪いシュートは無いと言えるレベルになっています。対戦相手の感覚は正しかったということです。
日本人トップとなる17.4もの平均得点をたたき出す三河の金丸晃輔も、シーズンを通じて3Pシュートを98本、42.2%で成功させいます。FGでは45%となっていますが、eFG%は52.1%と素晴らしい数字です。
しかし、そんなリーグ筆頭のスコアラー2人を超える効率性を有する選手が千葉の石井講祐で、eFG%が60.35%という数字(50試合以上出場し、全FG数も396本と十分なサンプル数)を記録しています。3Pシュートはシーズンで104本成功、42.1%で決めているシューターです。当然エーススコアラーの役割を担う選手と3Pシュート、2Pシュートの比重が違いますが、決定力、シュートセレクション共に申し分なくチームの躍進に貢献しています。
■ ピック&ロールと3Pの相関関係
現代のバスケットボールにおいて3Pシュートの重要性が再認識されているのは、単に1.5倍の得点が入るからだけではありません。実は石井のような効率の良いシューターがもたらす、見落とされがちな効果があります。それは特定のスコアラーに対してダブルチームを送る、またはピック&ロールに代表されるボールスクリーンという攻撃のアクションに対応しようとするディフェンスに「代償」を払わせることです。
バスケットボール選手はリングを守りなさいと教えられています。そんな中、ボールスクリーンはドリブルをする選手のマークマンが見事に引っかかると、そのまま中央突破でレイアップ。これを止めようとスクリーナーのディフェンスが安易にボールを止めにいけば、狭いエリアながら攻撃選手2人、守備1人の数的優位を突かれて今度はダンクなどを許してしまいます。
ピック&ロールで生じる数的優位、この数的優位という言葉は一瞬にして守備側が攻撃に転じた際に速攻での2対1、3対2などがバスケ経験者には最もなじみがある表現だと思います。そんな攻撃の効率が一気に高まる状況をハーフコートでも作ることこそ、ボールスクリーンの神髄と考えられます。
噛み砕くと、プロレベルの得点力を有するせめぎ合いの中、ピック&ロールなどを守備側2人で完璧に守るのはほぼ不可能と考えていいということです(スイッチやアンダーという対応策もありますが割愛いたします)。
守備側にもヘルプやローテーションと呼ばれるさまざまな対策が存在しますが、もし攻撃側にシュート力がなかった場合、インサイドに人数をかけた守備側は「相手の侵入は阻止した。最も恐ろしい攻撃は回避したから脇役のシュートは捨てておけ」と考えます。万が一シューターとして知られていない選手が1本決めたところで、精神的なダメージも少ないでしょう。
だからこそ、自分たちの最も効果的な攻撃に人数をかけて守ってくる守備には代償を払わせなければなりません。PF(パワーフォワード)を含めた多くの選手に3Pシュートの成功率が高い選手がそろっていれば、守備に迷いが生じます。「レイアップやダンクはされたくない。でも中に集まると3Pラインの外にパスを出されてノーマークを難なく決められてしまう」と考えるからです。
3Pシュートを安定して決めることができる、つまりそれは2Pシュートの成功率をさらに高めてくれる潤滑剤でもあります。そして、一見2対2のプレーに見えるピック&ロールなどのボールスクリーンも、実は激しい5対5のせめぎ合いであることが分かります。
フルコートのように広いスペースではなく、限られたハーフコートの中で5人が連携し作り出す数的優位の最大効果を発揮するためには、ディフェンス網を最大限広げるしかありません。固まっていても守備が2人のオフェンスを1人で守れてしまうからです。このスペースを生み出すことこそ、3Pシュートには1.5倍の価値があるという脅威につながっているのです。
■ 安定的な3Pシュートの先にある相乗効果
このような発想から近年のバスケット界は3Pシュートの価値にあらためて気付き、世界的に3Pシュートが増えています。これはピック&ロールが攻撃の主軸であることとも相関関係にあると言えそうです。
事実、先ほどもご紹介したNBAのロケッツ、そして希代のシューター2人(ステフィン・カリー、クレイ・トンプソン)を擁し、さらにケビン・デュラントも加えて時代を席巻するゴールデンステイト・ウォリアーズ。この2チームは3Pシュートを量産します。しかしながら、ペイント内での得点もここ3シーズン続けてトップ10入りしており、ここからも3Pシュートの持っている期待値の高さ、スペースを生み出す力の最大化に成功していることが分かります。
さらに、NBA過去4年の優勝チームは必ず3Pシュートの投数もしくは成功率でリーグトップ3に入っており、その脅威を活用しているのです。
攻撃に効果的に3Pシュートを組み込み、チームの相乗効果を図ることでBリーグのクラブも3Pシュートの価値を1.5倍どころか3倍や4倍にもできるはずです。みなさんが応援するクラブの攻撃力を示す新たな指標、eFG%にもぜひ注目してみてください。
(データ提供:B.LEAGUE、グラフィックデザイン:相河俊介)