いよいよセミファイナル! 2024-25横浜エクセレンスを前進させるチーム内の信頼関係
2019-20シーズン以来のB2復帰を目指す横浜エクセレンスが、B3の2024-25レギュラーシーズンを全体首位で終えた。今季は新たに河合竜児HCと大橋大空キャプテンを迎え、新体制での戦いだったが、開幕初戦で湘南ユナイテッドBCに黒星を喫した後は破竹の18連勝と一気にギアを上げ、最終的に45勝7敗(勝率.865)の好成績でフィニッシュした。
現GMの石田剛規がヘッドコーチを兼任した一昨季は、クォーターファイナルで上位だった鹿児島レブナイズを破ってセミファイナル進出を果たしたが、そこで岩手ビッグブルズに屈した。ロスターとコーチングスタッフにテコ入れを図り、石田がGM専任となって臨んだ昨季は、シーズン半ばのコーチ交代劇で最終的には石田が指揮官を兼任する流となり、その中で戦力が最後までかみ合わずクォーターファイナル敗退に終わった。
転じて今季、強さには複数の理由があるだろう。B3得点王となる平均26.0得点を記録してリーグMVPにも輝いたトレイ・ボイドIIIや、若き司令塔の大橋とともにペリメーターディフェンスで奮起を見せリーグ3位の2.1スティールを記録した杉山祐介ら新加入のプレーヤーたちの活躍が一つであり、さらには経験面でまだまだ伸びしろのある大橋をバックアップした西山達哉らベテランの存在もモノを言っていた。ロスターの特徴として、帰化枠のソウ・シェリフ(201cmのパワーフォワード)を含むビッグラインナップを組めることも強みだった。そのラインナップでもスピード感は落ちず、逆に増子匠やボイドIIIらの機動力が一層強度を増して発揮されていた。
しかし最大の要因は、石田GMのビジョンを河合竜児HCの下でチームがしっかり体現できたことではないだろうか。今季の「新緑軍団」は、個々のプレーヤーたちが互いに対する信頼の下で全力プレーを徹底したというのがシーズンを通じての印象だ。
4月29日の山口戦でのトレイ・ボイドIIIは27得点の活躍で横浜EXをけん引した(©Yokohama Exellencxe)
チームとしての成熟を示したレギュラーシーズン
3月23日にクラブの“マザータウン(かつてのホームタウン)”東京都板橋区の小豆沢体育館で行われた香川ファイブアローズ戦で、今季のチームを象徴するような出来事があった。
前日、横浜EXが87-65と点差をつけて勝った後、この日は必勝を期して臨んだ香川が2Qから攻勢をかけリードを奪う展開。4Q残り1分3秒の時点でも、65-62と3点リードしていたのは香川だった。河合HCはタイムアウトを要求し、勝負をかける。
この時、考えどころの一つにはボイドIIIの使い方があっただろう。ボイドIIIは前日、3Pショット5本中3本を沈めて31得点を挙げて勝利の立役者となっていたが、この日は得点こそできていたものの、最終スタッツを見るとフィールドゴールが24本中成功7本のみ。タッチが今一つだった(得点は最終的に24得点)。
タイムアウト明け、インバウンドからのオフェンスではボイドIIIがトップから得点機を狙った。やはり最大の得点源で行くか? しかし、ここでボイドIIIは1対1の一連のムーブで相手ディフェンスを揺さぶった後、右ウイングの増子匠にパスを送り、このポゼッションは増子の3Pショットで終わった。
増子の一撃はゴールをとらえられなかった。しかしボイドIIIがこの日4本目のオフェンスリバウンドをつかみ横浜EXのチャンスが続く。すかさず3Pアテンプト。これもミス。しかし今度は増子がリバウンドをつなぎ、もう一度。
ゲームクロックは残り37秒になっていた。ボールは再びボイドIIIの手に。3Pショットはここでも入らない。しかし、身長211cmのローガン・ロートがアレックス・デイビスと競いながらそのこぼれ球に懸命に飛びついた。このプレーでファウルを受けたロートはフリースローの機会を得たが、コンタクトで負傷してプレーを続行できない状態だった(顔のどこかを切ったようだった)。横浜EXは西山をフリースローワーとして投入。ベテランがしっかり2本決めて、残り35秒で横浜EXは64-65の1点差に詰め寄った。
西山は次のディフェンスで値千金のスティールを記録し、そこからボイドIIIと増子による速攻が決まって残り26秒に66-65とついに逆転に成功。会場を大歓声が包む中、香川は残り22秒、ブレコット・チャップマンがペイントで1本決めて再び67-66とリードを奪い返したが、最後はボイドIIIが勝負を決めた。カウンターの速攻でファウルを受け、冷静にフリースローを2本とも成功。残り7秒で68-67と再逆転した横浜EXは、そのまま逃げ切った。
河合HCは試合後、総評の中で、緊張感のある試合をプレーオフも近づいた時期にできたことを喜びながら、「プレーオフでは絶対負けられないという気持ちが勢いをこちらに持ってくる。何が起きるかわからない。ジャンプスタートされたくないけれど、される可能性もある。40分後に1点勝つことを考えろ。そんな声掛けをして臨みました」と話した。最後の局面については、いくつかのコメントを聞かせてくれている。その言葉から、コーチ陣とプレーヤーの関係性やプレーヤー間の信頼関係を重視していることが十分感じられた。
☆西山の活躍について
「西山があそこで(フリースローを)2本決めたのも大きいですね。ずっとベンチに座っていて突然、「頼むわ」と言われて出ていって。決して簡単ではないですよ。しかも入れた後でスティール。すごい! やっぱりベテランですね。経験がモノを言うのかなと思いながら見ていました。こんなゲームを拾えたのはすごく大きいです」
☆ボイドIIIと増子の連係について
「ボイドIIIはタイムアウト明けで出ていくとき、タクミ(増子)に託そうという考えがありました。ビッグマンに『俺が打てなかったら匠にチャンスを作ってくれ』と言っていましたから。TB(ボイドIIIのニックネーム)は性格的に、どんどん自分で攻めていくタイプ。でも今日は『なんで入ってくれないんだろう?』と思っていたはずです。先に周囲に振っておいて最後に自分で攻める流れは、相手が的を絞りやすいところもありますけど、今日はとにかく自分で攻め続けて、最後に振ってくれた。彼は勝たせるのが仕事と考える責任感の強いプレーヤーなので、僕は試合中、彼にパスをするようにとは言わず彼の判断に任せていました。彼も“サヨナラホームラン”を打ちたい気持ちもあったでしょうけど、最後に勝って終わるための正しい判断をしてくれていました」
同じ局面について増子は、「あれはチームオフェンスでした。TBとも話して狙っていこうと言っていたんです。欲を言えば決めたかったですけどね。でも、いつもだったらTBが『オレに任せろ』というところを僕に回してくれたのは、後半戦になって信頼関係が築けてきているから。普段のコミュニケーションの賜物だと思います」と話しており、やはりこれも河合HCのコメントを裏打ちするような内容として解釈できた。
3月23日の香川戦ファイブアローズでの増子匠(©月刊バスケットボール)
さて、いよいよ本番のプレーオフが始まっている。本稿執筆時点で横浜EXは、山口パッツファイブとのクォーターファイナルに2-0で勝利してセミファイナル進出を決めたところだ。ゲーム1では序盤勢いに乗り切れずハーフタイム時点では39-42と3点ビハインド。しかし後半はボイドIIIが21得点を挙げる爆発ぶり(試合を通じては36得点)でチームをけん引し、最終的に91-75と点差をつけての快勝だった。ゲーム2は接戦から4Qに一時64-72と8点ビハインドという難しい戦いになったが、その時点から10-0のランで逆転。さらに、76-76の同点で迎えた4Q残り1分16秒にキャプテンの大橋が決勝点となる3Pショットを沈め、最終スコア79-77で逃げ切った。クォーターファイナルの勝ちっぷりは2試合とも、エースとしてのボイドIIIやここぞの一撃を仕留めた大橋の存在感とともに、チーム内の和が強く印象付けられる内容だった。
果たしてセミファイナルはどんな展開になるだろうか? 横浜EXは平均得点が86.7でリーグ1位、対する岩手ビッグブルズは平均失点69.3がリーグ1位(最少)と数字上は好対照なチーム同士だ。岩手は当然、ボイドIII封じの対策も用意してくるだろう。先に触れた香川との一戦のように、チームプレーを徹底する必要があるのは言うまでもない。
岩手は横浜EXにとって、2022-23シーズンのセミファイナルで敗れた因縁の相手でもある。雪辱を期して臨むビッグゲームで、あらゆる苦難を乗り越え念願のB2昇格、B3制覇なるか? 新緑軍団のチーム内に芽生えた信頼関係が試される時がやってくる。