前進! 神戸ストークス、2025-26「新本拠地フルシーズン元年」へ
チームが目指す「トップクラブ」入りを果たすには、過去を振り返っている時間も惜しまれる——シーズン最終第32節、鹿児島レブナイズを迎え撃つコートに入る前の選手たちの表情が、一様にそう語っているようだった。プレーオフ進出の望みが断たれていたからこそ、神戸ストークスにとってはチームスローガンの「一意専心」が問われる2試合だった。
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信じられない逆転劇で、ジーライオンアリーナ神戸でのこけら落としゲームに勝利。しかし、続く2試合目に敗れた。その後、首の皮一枚でつながっていたプレーオフ出場の可能性は途絶えたが、最後の2試合とも白星で飾れば、新本拠地での全4試合を勝ち越して終えられる。状況的なモチベーションに加えて、東頭俊典HCは前もって選手に「目標と目的をもう1回整理してほしい」と求めていた。仮に、個人やチームとしての目標を失くしたとしても「なぜバスケットをやっているのか」の目的に立ち返れば、全ての試合とプレーが意味を持つ。「ファンのため、家族のためという人がいれば、バスケットが好きで楽しいから」など、それぞれが原点を思い出せば消火試合になるはずはなかった。
そうして迎えた4月20日の1試合目は、西地区2位の鹿児島に87-67の大差で勝利した。攻守に貢献した地元っ子の中西良太は「いろんな感情が選手一人ひとりあったと思いますが、チームとしての方向性は間違わずにしっかり戦い抜けたと思う」。ベテランと呼ばれる立場だけに「この先、何年プレーできるかもわからない」という思いも背負っていた。新アリーナ2勝目を見届けたブースターの数は1万62人で、立ち見ができたほど。日曜日開催で近隣では他プロリーグの試合が複数行われていたにもかかわらず、5日のこけら落としゲームで樹立したB2最多動員記録を塗り替えた。
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だが、翌日の試合はオーバータイムまでもつれた末に89-95で落とす。シーズン最終戦に敗れ、ジーライオンアリーナ神戸での4試合は2勝2敗にとどまった。新本拠地での戦績は、勝ち切れなかった今季を象徴しているようにも映る。チームは開幕直後に連勝を続けたが、波に乗れず大型連敗も繰り返した。新アリーナの話題が随時伝えられる中、プレーオフ進出へ薄氷を踏み続けた。新しい本拠地のお披露目試合で弾みをつけたかに思えたが、翌週の第31節ではワイルドカードを争うバンビシャス奈良との直接対決で勝ち越せず。結果として25勝35敗で得失点差-134、西地区6位で目標のプレーオフ出場はかなわなかった。
それでも、2月18日から東頭HCが新たに指揮を任されると風向きが変わり、以降は13勝6敗の猛追を見せている。チームが息を吹き返したのは「戦術も選手起用も変え続けて、その実験についてきて伸びた選手がいたから(東頭HC)」。出場時間の増えた若手がのびのびとプレーすれば、勝負どころの厳しい場面での投入が増えたベテランも集中力を発揮した。予想を上回るシナジーが生まれ、試行錯誤の采配を続けた指揮官は「最後の最後まで(メンバーを)決め切れなかった」とうれしい悲鳴も上げている。プレーオフの望みがなくなった際はロッカールームが意気消沈したが、それも「行けると思っていた証拠」。最後まで戦い続けた選手たちを「負けていたら悪口や不平が交わるものですけど、このチームにはなかった。足の引っ張り合いのようなものが1回も起きなかった」と誇らしく評する。
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今季の神戸が手にした収穫と課題の総量はどこのチームにも引けを取らないはず。持ち帰った宿題を糧にするために必要な要素として、東頭HCは「自信」を挙げる。選手個々の成長や勝ち星の上積みは当然、ブースターが伴走してのジーライオンアリーナ神戸の成熟も不可欠だ。今季開催の4試合はバスケットボールの観戦に馴染みのない層も集客できたようで、それだけに現段階では「大観衆」ではあってもチームカラーの緑はスタンドにまばら、応援もまだ浸透し切っていない印象を受ける。こうした目に見えての一体感はチームが強くなるほどに醸成され、またアリーナ全体が結束すればチームも強くなるはず。東頭HCも「ロケーション、経済圏、人口を考えると、このアリーナはB2はもちろん、Bリーグ全体でも日本一のアリーナになれる」と力を込める。新本拠地での試合が大きく増える来季からは、選手へもたらされるエネルギーと刺激が比較にならないほど増す。そうした力も前進への武器に変えたい。
3年連続で勝率5割に届かなかったチームが「トップクラブ」の話題を持ち出すには、時期尚早かもしれない。しかし、1万人以上を収容する規模のジーライオンアリーナ神戸で「スタッフや選手、フロント、運営の総力」(東頭HC)が作る空気を直に感じれば、壮大な話も夢物語ではなく現実味を帯びて聞こえてくる。
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先述のように、新体制下での勝率は地区首位の水準に匹敵するが、シーズンを総括した東頭HCは「勝率6割か7割で満足していたら日本一のクラブにはなれない」とすでに前を向いていた。来季は、翌2026年秋に控える「Bプレミア」参入に見合うだけの成績が望まれる。
祝祭は終わっただけに、ファンも自力で呼び込まなければならない。チームは出港したばかり。得がたい経験を積み、今季以上に見どころ満載の2025-26「新本拠地フルシーズン元年」へと向かう。