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2025.04.08

守備職人から姉のような2ウェイプレーヤーへ、内尾聡理の挑戦「今の自分のできる精一杯出せるように」

  • 月刊バスケットボール
B1リーグ第29節で川崎ブレイブサンダースに連勝したファイティングイーグルス名古屋は、通算成績を23勝26敗とし、逆転でのチャンピオンシップ進出の望みをつないだ。

ゲーム1、2ともに1Qは川崎のハイペースなバスケの前に後手を踏み、前者は14-20、後者は12-29と劣勢を強いられた。しかし、いずれも後半にビッグクォーターを作って逆転勝ちする、対応力の光るシリーズとなった。

筆者が取材に伺ったのはゲーム1。この試合は序盤から川崎の3Pシュートがリズムよく決まり、セカンドユニットのアリゼ・ジョンソンと米須玲音が入ってからはさらにペースアップ。彼らのアグレッシブなプッシュから先頭を走るロスコ・アレンが豪快なダンクをたたき込み、2Q残り8分34秒には一時13点差(14-27)。FE名古屋はこの時点で前半の2つのタイムアウトを使い切らざるを得なかった。

川辺泰三HCは「川崎はリーグ3位のトランジションチーム(※川崎の平均ポゼッション数はこのシリーズ前の時点でリーグ3位の平均74.4)なので、イージーレイアップを許すとか、リバウンドを取られてそのままやられるというのは危険です。まずはトランジションをファウルを使ってでも止めないといけないとは話していました。アレン選手やジョンソン選手、篠山(竜青)選手などのボールプッシュしていく選手にしっかりとタグアップ(ミドルライン側からオフェンスリバウンドを狙うプレー)をしないと、ゴール側にリバウンドに入ってしまった瞬間から、速攻に持ち込まれたときにはアウトナンバーができてしまいます」と、警戒していた部分をやられてしまったことを認めた。

逆に、追い上げを見せた後半は「ディフェンスリバウンド、タグアップ、ファウルの使い方、それからピックに対してのスイッチをしっかりと遂行し始めました。それによって向こうがシンドいロングツーを打って、それをチームとして取り切れました」と、アジャストメントが功を奏したと話した。

特に圧巻だったのは4Qで、結果だけを見ても27-15と圧倒したが、さらに特筆すべきは残り4分43秒までの5分強で16-2のビッグランを作ったことだ。その要因が前述したアジャストメントなのだが、この時間帯に光る仕事をした選手の一人が、内尾聡理である。





ディフェンスはピカイチ
課題はオフェンスの向上

内尾の名を聞いてパッと思い付くのは福岡第一高時代の、そして昨季のチャンピオンシップで宇都宮ブレックスのDJ・ニュービルに好守を見せた“守備職人”としての印象だ。

この試合では3Qまでは出番がなかったが、4Q頭から出場すると、持ち前のディフェンス力を発揮。スコアリング面で川崎の起点となるマシュー・ライトと米須玲音に自由を与えず孤立させることに成功し、オフェンスでもトランジションに走ってアレンのゴールデンディングを引き出し初得点。さらに、残り2分8秒には勝利を決定付ける3Pを沈めてみせた。結果的に4Q丸々10分出場した内尾は、同クォーターでのチームハイ7得点と、アシスト、リバウンドも1本ずつ記録。プラスマイナスも中村浩睦に次ぐ+12と質の高いプレーで勝利に貢献した。

川辺HCは内尾を「相手のポイントゲッターやシューターに対してのディフェンスは、うちのチームでは1、2番目の選手です」と高く評価しつつ、序盤でなかなかプレータイムが与えられなかった要因、その中で出場機会を勝ち得た4Qをこう振り返った。「聡理はまだなかなか点が取れないところがありますが、ヤス(保岡龍斗)が今日は長めに出ていたので一度交代させました。本当は聡理を3Qの残り1、2分から出す予定だったのですが、試合の流れもあってそれができなくて4Qからの出場になりました。だけと、そこからむちゃくちゃインテンシティを高く持ってディフェンスでつき続けてくれました。(パフォーマンスが)良い選手のプレータイムを伸ばすのが僕の根底にある考えなので、その中で聡理のプレータイムを伸ばしました。3Pシュートも入ったし、良いディフェンスを何本もやって、セパレーションスイッチの遂行力も本当にすばらしかった」

昨季の強烈な印象はあるものの、フラットに見れば内尾はまだ何も成し遂げていないルーキーである。こうした積み重ねが、今後のプレータイム獲得につながってくる。一方で、シーズン序盤はスタメン起用で20分近くのプレータイムを得ていたことも事実で、そこに対して内尾は「最初の頃は手応えもあった」と話す。

だが、プレータイムが減っていく中で「考え過ぎちゃって消極的なミスなどが多かったと思います。それによって自分の持ち味のディフェンスなどが中途半端になってしまいました。そうなるとコーチも使ってくれないのは、自分でも分かっていました」と悩む時期もあったという。

特に、川辺HCが挙げたオフェンス面は、本人にとっても課題である。「挙げだしたらキリがないですが、練習ではオフェンスのときにアーロン・ヘンリーとマッチアップしていろいろチャレンジさせてもらっています。その中で1対1のやり方を学んだり、状況判断の仕方はガード陣を見ながら学んだり。オフボールでも動き過ぎてしまっていることがあるので、そういうところも課題です」と内尾。今は消極的な時期から吹っ切れて「与えられた時間で今の自分のできる精一杯を出せるように意識しています。残り十数試合あるので、自分の持ち味を発揮するところから入って、しっかりとチームに貢献できるように頑張ります」と意気込んでいた。

まだルーキーの内尾に川辺HCがハードルの高い課題を課すのには、彼への期待があるからだ。川辺HCは自身の現役時代と照らし合わせて、「彼はまだ1年目の選手ですからね。僕も現役だった頃は3年目あたりまでは5~10分の出場時間で、4年目からやっと15~20分出られるようになった選手だったので。最初から試合に絡めたら、それは代表レベルのスーパースターですから、そこはフラットな目で見ています」と、長期的な視点で彼のステップアップに期待を寄せていた。



Wリーグで輝く姉の存在
「いつか自分も活躍できるように」


姉・聡菜は富士通の主軸として活躍中

話は変わり、内尾に話を聞いたゲーム1の直前には、Wリーグのファイナル第1戦が行われていた。勝利した富士通レッドウェーブには、内尾の姉・聡菜がいる。彼女は富士通不動のスタメンとして今季レギュラーシーズン平均9.5得点、4.1リバウンドを記録。プレーオフではその数字をさらに上げている。

セミファイナル後の記者会見では、BTテーブスHCから「高校、男子のプロ、大学、女子のコーチを務めてきた僕の経験でも、今まで指導してきた選手の中で、ここまで成長した選手をあまり見たことがない」と絶賛されるシーンがリーグ公式SNSでも発信されていたほど、その成長曲線は大きなものだった。

そんな姉の存在は内尾にとってやはり刺激になっているのか。彼にそう尋ねると「正直、試合や練習があってファイナルくらいしか試合は見れていないんですけど(笑)」と前置きしつつ、「この前、監督のインタビューですごい褒められてたじゃないですか。一番成長した選手って言われていたあの動画を僕も見て、やっぱり続けることが大事だと思いました。結構つらい時期があったことは僕も知っていますし、そこを乗り越えて今、日本のトップで活躍してるのは刺激になります。僕もまだまだなところがあるので、そこを耐えて、いつかしっかり活躍できるように準備したい」と話した。

元々のディフェンシブなプレースタイルや、抱えていたオフェンス面での課題は姉と共通する部分もある。だからこそ、攻防でハイレベルに活躍する2ウェイプレーヤーとなった姉の存在は、内尾にも大きな影響を与えているのかもしれない。

ちなみに、この日の試合スケジュールはWリーグファイナルが14時ティップオフで、川崎戦は18時ティップオフだった。ウォームアップなどを踏まえると、試合自体は配信でギリギリ見られていたかどうかのタイミングだ。

「アップもあったと思うけど、試合は…?」
「見ましたよ!最初だけ!」

内尾はにっこりと笑いながら即答した。「普段はあまり連絡は取らなくて、優勝とかした後に『おめでとう』と連絡するくらいです。シーズン中はなかなか試合を追えないのですが、向こうも去年僕が千葉ジェッツでCSに出ていたときには見ていてくれたみたいでした」と、連絡頻度は多くなくても、やはり姉と弟。心の距離は決して離れていないようだ。

富士通は第2戦に敗れてシリーズは1勝1敗のタイに戻った。Bリーグは翌週末も連戦が予定されているため、内尾が姉の試合をフルでライブ視聴できるとしたら、それはファイナルが最終第5戦(4月14日[月]19:00開始)にもつれた場合だろうか。

それぞれの舞台で奮闘する姉弟に、今後も注目だ。