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2025.03.17

長崎ヴェルカ・高比良寛治選手「子どもたちの可能性は無限大です」

  • 月刊バスケットボール

活動促進のため一般社団法人設立も決意


「実績がない」、高比良寛治選手は自身について控えめに語ります。しかし、バスケットボール選手としての活躍にとどまらず、社会貢献活動にも積極的に取り組む姿は、多くの方に知ってほしい存在です。

高比良選手が特に力を入れているのが、子どもたちへのサポートです。自ら電話をして児童養護施設を訪問したというところからスタートし、ついには一般社団法人を設立することを決意しました。その背景には、スポーツの力で子どもたちの未来を広げたいという強い想いがあります。高比良選手が目指す社会とはどのようなものか。その想いとこれまでの取り組みについて語ってもらいました。

――高比良選手は、クラブの中でも特に積極的な社会貢献活動に取り組んでいますね。

高比良)僕のキャリアはB3(2017-18シーズンに鹿児島でプレー)から始まりました。自分には実績がないので、這い上がるために何ができるかを、常に意識してプレーしてきました。ガツガツいくプレースタイルだったので、男の子に好かれやすいのかもしれませんが、たまたま親子で僕を応援してくれるという方が多くて、自分でもエネルギーを与えられるのだなと気づいたのです。それが不登校の子だったり、病気と闘っている子と会おうと思うきっかけとなりました。

ヴェルカには「日常にヴェルカを置く」という理念があります。B3の頃から多くのファンの方々に応援いただきましたが、僕は顔を覚えるのが得意で、応援に来てくれる子どもたちの顔を毎回チェックしていました。ただ、応援したいけど来ることができない子もいます。そこでクラブハウスに一番近い児童養護施設に連絡をしたというのが、始まりになります。

――クラブのスタッフではなく、自分から電話したのですか?

高比良)そうです。「訪問させてください」とお願いして行ったら、ちょうどクラブがB3で優勝し昇格が決まったタイミングだったので、お祝いしてくれたんですよ。逆に僕が元気をもらうような初訪問でしたね(笑) 僕は高校からバスケットボールを始めました。でも、その前にはエネルギーを向ける先を間違えるような時がありました。そういう経験があるので、同じような子どもたちがいるなら、バスケットボールなどのスポーツにエネルギーを向けてほしいと考えていました。

そういった中で、オーナーであるジャパネットの高田旭人社長や岩下英樹社長(当時長崎ヴェルカ代表取締役社長)にプレゼンをして、支援をお願いしました。先ほどのクラブ理念を考えて、最初は試合に招待することからスタートしました。ただ、それだけだと観戦したら終わりになってしまいますよね。そこで続けてバスケットゴールも各施設に贈りました。さらに施設でも試合を見られるように高田社長から大型テレビを寄贈していただき、バスケットLIVEも見られるようになりました。そういった活動の中で、子どもたちの顔つきがガラリと変わっていきました。



――どんな変化が表れたのですか?

高比良)いいか悪いかはさておき、野球を止めてバスケットボールを始めてくれた子も出たりしました(笑)。それと僕の試合を見に行くために学校へ登校しはじめたり、施設では夜遅くまでバスケットボールをしたり、活発になっていったんです。バスケットボールを好きになってくれて、ヴェルカにハマってくれて、うれしかったです。さらに自分のお金でユニフォームやグッズを買ってくれ、アウェーの試合にまで来てくれた子もいました。応援してもらい、この子たちのために「もっと頑張らないといけない」という気持ちになりました。

シーズン中、選手はバスケットボールが最優先になってしまうので、なかなか時間を割くことができません。それでも、それを言い訳にはしたくないし、本当にいろいろな方にご支援いただけるのでシーズン中でもできる活動にも取り組んでいます。例えば、皿うどんで有名な狩野食品さんとの取り組みでは、僕の背番号(14)にちなんで毎月14日、300食分のサラダを各施設に贈る活動もしました。また、以前香川(2018~2021)にいた縁もあって、うどんも施設に贈って食べてもらいました。

――成長期の子どもたちにとって、とても大事なプレゼントですね。

高比良)そうですよね。でも、まだあるんです(笑) 何かできないかなと思って、クラブハウスに子どもたちを呼んでバーベキューをやったことがありました。僕は波佐見焼で有名な波佐見町(長崎県)に住んでいたことがあるのですが、バーベキューを紙皿ではなく波佐見焼のお皿を使いました。思い出にしてほしいということで、そのまま、お皿は持ち帰ってもらいました。今となっては本当に多くの方にご協力いただけるようになっています。そして近々、一般社団法人を立ち上げる予定です。



――どんな活動をする予定ですか?

高比良)かねてから子どもたちの可能性は無限大だなと感じていたことから、限界がないという意味で「スカイザリミット」と名付けます。人間は何かのターニングポイントがあることで成長できるのだと思いますが、そもそもその体験がしづらい環境だと先が閉ざされてしまいます。経済的事情で学校に行けないといったこともそうですよね。
HAPPINESS ARENAがある長崎スタジアムシティを作った背景には、魅力的な環境にして長崎に人を呼び戻すという狙いがあります。長崎出身の僕が帰ってきたのも、ヴェルカというチームができたから。「長崎にいたい」、「ここで働きたい」と思える場所になれば、転出率も状況が変わると思います。僕の法人でも、それを支援する方法を模索しています。例えば子どもたちをサポートしたい企業さんを探して、B.LEAGUEのキャリア支援(将来の進路をサポートするプログラム)に似た取り組みです。何かの仕事を知る、関わる機会ができれば、それがきっかけになる可能性があります。ヴェルカとしても、うまく関わることで子どもたちの可能性を広げたいと考え、行動していますが、法人の可能性も無限大だと思うので、いろいろなことにチャレンジしたいなと思っています。

――地元出身の高比良選手がやるからこそ、説得力もありそうです。

高比良)例えば、チームメイトの(馬場)雄太やマイキー(川真田紘也)みたいなスター選手ならば、引退後も困らないかもしれません。一方で、僕の場合はキャリアも全然大した事ないですし、学生時代に全国大会に出たことはない。そんな選手は、なかなかいないと思うんです。日本代表の人間が「頑張ることが大切だよ」というのも大きな影響を与えるかもしれませんが、実績がない僕にしか伝えられないことがあると考えています。施設の子どもたちとも良い関係性を築けているので、うまく手を差し伸べることができればいいなと思います。

実は永吉(佑也/SR渋谷※宮崎県出身)さんにこの活動について、「素晴らしい活動で、真似をしたい」と言ってもらったことがあるんです。現時点で、僕は長崎以外での活動は考えていないのですが、そんな風に選手にも影響を与えることができれば、一つでも形になったら、全国の子どもたちの環境がどんどん変わると考えています。B.LEAGUEの人気は、これからさらに高まるはずです。そうなれば、選手の価値はもっと上がりますし、こういった活動もさらに広がっていけばいいなと思っています。



取材協力:Bリーグ

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