2024.11.05
佐賀バルーナーズ「選手に共通する地域還元の意識 」~井上諒汰選手、山下泰弘選手、角田太輝選手インタビュー~
“強いだけでは意味がない”――だからこそ、社会貢献活動にも積極的に取り組む。井上諒汰選手が活動について「自負や責任があります」と語ると、角田太輝選手は「僕らがバスケットボール選手として生きていくうえで当たり前なんじゃないかと思っています」と言い切ります。佐賀バルーナーズと地域の関係は、クラブとコミュニティーの望ましい関係の一例と言えるかもしれません。今回は、井上選手、山下選手、角田選手の3選手にオフコートでの活動への思いを伺いました。
井上諒汰選手、医療的ケア児施設を定期訪問“知る切っかけとなり広がってほしい”
――井上選手は定期的に医療的ケア児*施設を訪問されています。初めて訪問された時のことを教えていただけますか?
*=日常的に医療的ケアが必要な児童のこと
井上)施設の方からチームに連絡をいただいて、バスケットボールを題材に子どもたちに楽しんでほしいと相談があり、私が手を上げたというところがスタートです。医療的ケア児という存在を知らなくて、どう接していいかと思ったんですけど、実際に会ってみるととても自然に楽しい時間を過ごすことができました。ボールで遊んだり、機械を使って話をしたりして、すごくエネルギーを感じることできた経験でした。
――そこからは定期的に訪問されているわけですね。
井上)そうですね。単純に「かわいい子どもたちに会いたいな」という気持ちで訪問しています。逆に医療的ケア児の子たちが試合を観に来てくれることもあります。定期的に行って、抱っこした時に「大きくなったねー」と成長を感じたりもしますよ。
――ご自身のTシャツの売上の一部を寄付されているというお話も伺いました
井上)はい、元々Tシャツと医療的ケア児というのは僕の中でつながっていなかったんですけど、宮永(雄太)ヘッドコーチや田畠(寿太郎)社長と活動についてお話をする中で助言をいただいたんです。それで「まさにやりたかったこと」と思って、寄付をしています。
――今後も寄付は続ける予定ですか?
井上)はい。Tシャツを販売して寄付をしたのは昨年で、今年も販売したので続けて寄付したいと思っています。ただ、やはり訪問して直接会い、一緒に遊ぶ活動も大切ですので、こちらも続けていきたいと考えています。
――施設を訪問された際の写真を見たら、子どもたちがいい笑顔をされていました。逆に子どもたちから受け取っているものはありますか?
井上)もちろんあります。施設で会った時、試合会場で会った時の子どもたちの笑顔もそうですし、ご家族の方も楽しんでいただいていると感じる時もそうです。バルーナーズとして家族で試合を見るという娯楽を提供できているというのは、すごくうれしく感じます。またかわいがっている子どもたちから応援されるので、「良いところを見せたい」となって気合いも入りますね(笑)
――施設にいる子どもたちだけでなく、ご家族に向けて、という視点もあるわけですね。
井上)そうですね。どうしても行動が制限される部分もあると思いますので、ご家族も一緒に楽しんでほしいという思いはあります。
実は活動をやって本当に意味があったなと思った経験があります。残念なことに施設にいたお子さんが亡くなられた際、祭壇に僕と写った笑顔の写真を使われていたのです。私は足を運ぶことができず、あとから施設の方に聞いたのですが、ご家族が「一番いい笑顔が撮れたのがこの写真だったので」とおっしゃっていたということでした。お子さんとご家族にとって思い出に残る1ページに自分が関われた。それは活動を続けてきた意味を感じました。
――ご家族にとって井上選手と一緒に遊んだ時の笑顔が、印象的だったわけですね。これまで、いろいろな社会貢献活動をされてきていますね。その中で思い出深い活動はございますか?
井上)みんなでゴミ拾いをしながら、1時間くらい坂道を登っていって、体育館でクリニックしたのは思い出深いですね。登っている途中で雨が降ってきてしまって(笑) でも、地域密着というのをすごく感じられた活動でした。
――まさに“雨降って地固まる”という感じですね。社会貢献活動の中で、どんなメッセージを伝えたいでしょうか?
井上)まず医療的ケア児については、先程言ったとおり、私もまったく知らなかったので、知るきっかけになってほしいというのがあります。ゴミ拾いの活動もそうですね。自動車で通ったら気づかないけれど、活動をしてみるとゴミが見つかるわけです。それを知ることが次のアクションにつながると思うので、佐賀バルーナーズの井上という存在価値を使って、第一歩へのきっかけにしたいなと思います。
――社会貢献活動を積極的に行うようになった理由はありますか?
井上)元々は小さいころ、NBA選手がそういった活動をしていることを知ったことですね。スポーツ選手ってかっこいいなと思いましたし、プロスポーツ選手としての価値はコート上だけではなく、そういうところにもあると思っています。自分たちの活動を通して支援の存在を知った方が、施設で必要としている物を見てプレゼントしてくれたという話も聞いています。僕らができることは大きいことではないですが、それが広がっていくという実感も得られたので、継続してやって少しでも広がっていったらうれしいですね。
――“ミスターバルーナーズ”として、率先して取り組むべきという思いもありますか?
井上)ミスターバルーナーズだからやろうというわけではないです。ただ、活動をしたことで課題を解決するきっかけになり、バルーナーズが地域に貢献しているというのが広がっていってほしいという思いはありますし、そうならなければならないという自負や責任はあります。人としてもチームとしてもそういう看板というのは大事にしたいですね。佐賀は本当に地域とすごく密接しているなと感じるんです。そういった佐賀らしい一体感みたいな部分を大事にしていきたいです。
――最後に今後の活動についての想いも教えてください。
井上)今やっていることを継続してやることが一つですね。ただ行けているのは1つの施設なので、県内にあるいくつかの施設を訪問して子どもたちやご家族にお会いして、外に出て試合を見て楽しんでもらう機会を作れれば思っています。バルーナーズとして、より多くの人に楽しみを提供できるように活動を広げていきたいと思います。
山下泰弘選手&角田太輝選手「小学校訪問で語った活動への本音」
――夢授業では挫折した時の話や目標を持って努力する大切さをお話されていました。子どもたちに一番伝えたいことはどんなことでしょうか?
山下)自分は学生時代に、プロ選手から話を聞くという経験がなく、当時聞いていたら変わったかもしれないとも思っています。次に進むきっかけになってくれたらうれしいですね。
角田)今日は中学2年生が対象で、夢や目標というと持っているかどうかバラバラだと思います。まずは、目の前のことを頑張ってやり続けること。挑戦を始めたら、失敗も起こると思いますが、やめてしまったらそこで終わってしまうので、成功にたどり着くためにもやっていることを一生懸命続けてほしいと思っています。
――活動の中で、逆に得られることもありますか?
山下)ありますね。例えば、今日も子どもたちから元気をもらえました。廊下ですれ違った時も「絶対優勝してね!」とか言ってもらえると、改めて注目されていると感じますし、期待してもらっているんだなと思えます。本当に責任を持って頑張っていかないといけないなと思いました。
角田)同じくですが、声をかけらもらった時に、本当に応援してもらっているなと感じます。正直な話、僕が入団したころにはあまり考えられなかった状況にあるので、すごく感謝しています。
――小学校での夢授業とクリニックを行ったばかりですが、そのほかにもさまざまな活動をされていると伺いましたが、思い出深い活動はありますか?
山下)子どもたちと楽しむクリニックだったり、地域の皆さんと触れ合う機会だったり、そういった活動は大事にしたいし、思い入れがありますね。
角田)僕は畑での活動が思い出深いですね。イノシシが入らないように柵を作る活動を行ったのですが、どういう風に作っているかとかは体験して初めてわかるものでした。
――角田選手は地元・佐賀県江北町の出身ですね。県の魅力はどんなところにありますか?
角田)近い距離感で接してくれるなというのは思いますね。初対面の方も気持ちよく挨拶してくれますし、身近な人だともっとというか(笑)、本当に人が温かい環境だなと思います。
――宮永ヘッドコーチは、社会貢献活動を推奨してくれると伺いました。何かアドバイスを受けたりするのでしょうか?
山下)シーズン前にクラブ全体でミーティングを行うのですが、そこで「バルーナーズは地域リーグからスタートした歴史の浅いチームだから、地域に根ざしたチームを地道に作っていきたい」とお話されていて、「それを進めるためにも、社会貢献活動が大切で責任感を持ち、理解して積極的に取り組んでほしい」と言っていただきました。そういう言葉もありますが、チーム全体としてしっかりやれているのかなと思います。
――地域密着のためにも必要な活動ということですね。選手としてはオフコートで活動する意義というのはどのように考えていますか?
山下)先ほどの言葉と重なる部分がありますが、元々認知度が低いチームで地域の皆さんと触れ合ってくる中で今、本当にいい関係を築けていると思うので、甘んじることなく継続してやっていきたいと思っています。そして地域の皆さんと一緒にバルーナーズが発展していければいいですね。ただ、強くなることは大切ですが、強いだけでは意味がないと思います。地域の皆さんと一緒にチームを作っていきたいという気持ちです。
角田)僕らが地域に対してできることというのは多くないと思うんです。佐賀県や佐賀市、その他の市町村に支えていただいていて、それをオフコートの活動で返していくというのは、僕らがバスケットボール選手として生きていくうえで当たり前なんじゃないかと思っています。それに、こういった活動は勉強になりますので、本当に大切にしたいと思っています。
――ありがとうございます。最後に、今後やっていきたい社会貢献活動を教えて下さい。
山下)フロントスタッフの方が本当に頑張ってくれていて、地域の皆さんと触れ合う機会を作っていただいていますが、さらに触れ合うイベントや場所を作れればいいなと思っています。地域の皆さんと一緒に盛り上がっていきたいですね。バルーナーズはチャンスも可能性もポテンシャルもすごくあるチームだと思うので、地域密着という面でB.LEAGUEを代表するチームになりたいです。
角田)僕はこの前も幼稚園の方にミニゴールとボールを寄贈しましたが、もっと広げて身近にバスケができる環境を作っていきたいです。
取材協力:Bリーグ
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記事提供:月刊バスケットボール