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2024.10.24

佐土原遼が相手エースに挑んだ決意の1オン1「これを逃したら後悔すると感じた」

  • 月刊バスケットボール
「アルバルク東京とは同じ中地区なので、あと3回対戦することができます。そこはすごく楽しみですね」

そう語った佐土原遼の話しぶりは、チャレンジを楽しむファイターのそれだったように感じられた。

B1レギュラーシーズン第4節、A東京のホームに乗り込んだファイティングイーグルス名古屋は、終盤の猛追も及ばす77-81で惜敗した。序盤に先行したのはFE名古屋で、並里成とショーン・オマラを起点にピック&ロールからズレを作り、インサイド、キックアウトからのアウトサイドとバランスよく得点を積み重ねる。ディフェンスでもA東京の分厚いインサイド陣に簡単に得点されず、内尾聡理がトランジションからレイアップを沈めて14-6とした1Q残り5分51秒で、A東京に試合を通じて始めてのタイムアウトを取らせてみせた。

その後は落ち着きを取り戻したA東京が、ライアン・ロシターや安藤周人が前半のチームをけん引。後半には福澤晃平がゲームメイクと3Pシュートで大きな役割を担うなど、一転してA東京がペースをつかみ、最大12点をリード。FE名古屋もオマラの安定したインサイド、中村浩陸の果敢なペイントアタック、保岡龍斗の要所の3P、終盤の並里の連続3Pなどで追い上げを見せたが、あと一歩及ばなかった。

敵エース、メインデルへのチャレンジ



悔しい敗戦となったが、冒頭の佐土原の言葉のようにA東京へのリベンジの機会はあと3度ある。川辺泰三HCが「今はチームビルディングの期間」と話しており、主力が多く入れ替わったFE名古屋としては、このタイミングでA東京と好勝負ができたことも収穫にはなったはずだ。特に佐土原の視点で見ると、収穫の多い試合だったに違いない。

彼はこの試合、オマラ(37分11秒)に次ぐ27分8秒出場時間を得た。スタッツは4得点、2アシストと控えめだったが、特にディフェンス面では敵エースのレオナルド・メインデルをマークする大役を任された。

「自分たちはディフェンスのチームで、メインデルにつけるのは佐土原しかいないと思ってました。サド(佐土原)はメインデルに対して非常にフィジカルにディフェンスを遂行したんじゃないかと思います。フォワードタイプの外国籍選手のマッチアップとしてはサドがフィジカルもフットワークも一番。そこをどれだけ彼がやれるかが、このゲームにおいてすごく大事なところでした」

川辺HCがこう評価するように、佐土原のディフェンスは高評価に値するものだった。フィジカルと機動力を生かしてメインデルに食らいつき、1Qと3Qはトータル2得点しか許していない。メインデルが下がれば佐土原も下がる。メインデルが出れば佐土原も出る──川辺HCは徹底してメインデルには佐土原をマッチアップさせ続けた。そして、佐土原はそのチャレンジを自らの現在地を確かめる場と捉えていた。

「メインデル選手はブラジル代表でもありますし、ワールドカップやオリンピックにも出場した経験豊富な選手。全部を止められるわけではないですけど、要所で相手にダメージを与えるようディフェンスすることを心がけていました。個人的には、自分が今どれぐらいのレベルにあるのかを確かめる機会でもありました。もちろん、チームの勝利が第一優先ですが、ポジション的に僕がこれからマッチアップしていく選手は代表クラスの選手になってくると思うので、そこにどれだけ食い込んでいけるのか。そのためにもメインデル選手に対してディフェンスではアグレッシブにプレッシャーをかけたり、オフェンスでは抜いて得点してやろうという気持ちもありました。まだ差があるなと感じましたが、僕は日本代表を目指しているので、あと2、3歩ステップアップできればその可能性も出てくるのかなと感じられました」と佐土原。彼個人にとっても、敗戦の中に確かな手応えを得られた試合となったようだ。

オフェンス面でも、A東京の分厚いインサイド陣に対して果敢にアタックする姿が印象的だった。スタッツでは被ブロック4本と相手の高さに屈した形になり、佐土原も「最後のフィニッシュのところでサイズ選手やグダイティス選手のようなビッグマンがいる中でどうフィニッシュするのかを工夫しなければならない」と反省の弁。川辺HCも「ペイントタッチをオープンコートもできてるように見えるけれども、リムプロテクターがいる中でやってしまっているので、そこの判断は悪かったと思っています」と辛口評価を佐土原に与えていた。だが、続けてこうも話していた。「例えば4対3のトランジションの中でどう判断していくのかを今、彼には求めています。そういうところで良い判断ができるようになれば、サドはよりスペシャルな選手になっていくと思います。彼のアタックは日本人離れしているけれど、アルバルクであれば(セバスチャン)サイズやロシター、(アルトゥーラス)グダイティス、メインデルが相手になってくるので、その中で良い判断ができるようになれば、よりすばらしい選手になれると思います」。辛口評価は裏を返せば、それほどの期待の表れ。だからこそ、チーム2番目のプレータイムを佐土原に与えたのだろう。

最終盤で見せたアタック
「正直、自分を優先してしまった」




この試合の最終盤に、筆者が感銘を受けた場面があった。4Q残り1分28秒、71-77の場面でそれは起きた。A東京のオフェンスを守り切り、トランジションとなった場面でメインデルと佐土原の1オン1シチュエーションが訪れた。時間と点差を考えると、まずは3Pを狙いたい場面ではあった。だが、佐土原は果敢にメインデルとの勝負に挑み、屈強なフィジカルでメインデルを吹き飛ばしてみせたのだ。最終的に、メインデルのアスレチズムと執念によって佐土原は豪快なブロックショットの餌食となったわけだが、この1プレーは試合を通しての彼の象徴的なシーンでもあった。

本人にその真意を問うと「自分がやってやると意識していましたね。本来は3Pを狙う場面でしたが、あそこでメインデル選手と1対1になって、これを逃したら後悔するなと感じたんです。彼に1対1でチャレンジする機会はこの試合の中ではもう残されていないかもしれない。チーム優先ではあるのですが、あの場面では正直、自分のことを優先してしまった部分は少しありました」と本音を話した。「でも、あそこでメインデル選手と1対1ができたことは今後の自分につながるなとも感じましたし、それをゆくゆくはチームに還元できれば、この負けも、あの1本のドライブもプラスに捉えることができるのかなと思います。なので、僕の中ではあのドライブは間違った選択肢ではなかったと思っています」

結果的に失敗したプレーに対して、明確に後悔なしと答えた佐土原。日本人選手の中に、外国籍選手とのマッチアップに対してこれだけの積極性を持って臨む選手がどれだけいるのか。彼のこのプレーは、これからの日本人選手が目指していくメンタリティを体現したかのように映った。

佐土原はこうも語っていた。「メインデル選手はペリメーターの選手の中ではBリーグでもトップ3に入るような選手だと思います。今日はずっと彼とマッチアップしていて、彼も僕をマークしていました。僕にとってメインデル選手はこれから追いかける存在の1人でもありますし、代表に入るためにはああいう選手を倒さなければなりません。ありがたいことにアルバルクとは同じ中地区なので、あと3回対戦することができます。そこはすごく楽しみですね」。冒頭の言葉は、こうした時系列の中で出た言葉だった。

川辺HCが再三口にした「今はチームビルディングの期間」という言葉の中には、佐土原のような若い選手の成長も含まれているはずだ。昨季、惜しくもチャンピオンシップを逃したクラブにとっては、まずはそこに到達することが目標となる中で、勝ち星と育成をどう両立していくか。その意味では、メインデルに対する佐土原のチャレンジは、彼の言葉どおりいずれチームの財産として還元される日が来るはずだ。

FE名古屋の次節の相手は宇都宮ブレックス。佐土原のマッチアップはD.J・ニュービルや比江島慎になるだろう。彼の次節の奮闘からも目が離せない。