2024.10.16
サンロッカーズ渋谷、“勝負”の新体制2年目へ──ベンドラメ礼生「選手それぞれの良さを出す余裕ができている」
昨季のSR渋谷はリーグの話題をさらう大改革を行った。まず、親会社が日立製作所からセガサミーホールディングスに変わり、新ヘッドコーチには2018、19年とアルバルク東京をBリーグ連覇に導いた名将ルカ・パヴィチェヴィッチを招へい。ロスターにも、そのパヴィチェヴィッチHCと共にリーグ連覇を成し遂げだ田中大貴や、日本代表のジョシュ・ホーキンソンらを加え大幅アップグレードに成功した。だが、ケガや戦術の浸透に時間を要し、新体制1年目はダイナミックな改革に見合う成果を上げることはできなかった。
新体制2年目の今季は、まさしく“勝負の年”である。
新体制2年目で戦術が浸透
フィジカルな相手にも戦い抜く
敵地での長崎ヴェルカとの開幕節は、フィジカルなディフェンスを仕掛けてくる相手にゲーム1は68-76で敗戦。しかし、ゲーム2ではロースコアゲームを58-53で勝利した。秋田ノーザンハピネッツとのホーム開幕節も同様の展開となる。ゲーム1は65-77と全てのクォーターでビハインドを背負って敗れたが、ゲーム2では攻防に秋田のフィジカルなプレーを上回り78-71で勝利した。特に、ゲーム2では秋田のプレッシャーディフェンスに逃げずにペイントを攻め立て、そこからのキックアウトでいくつものワイドオープンショットを作り出すなど、オフェンスの統率が取れていた印象だ。ディフェンスでは秋田の3P攻勢に苦しむ場面も見られたが、相手の2Pシュートを10/34(29.4%)に封じ、リバウンドも45-36とリード。さらにはペイント内得点で30-18、セカンドチャンス得点でも18-6と圧倒した。総じて、特にペイント内の攻防でフィジカルに戦い抜けた成果がこのスタッツだ。
「昨日(ゲーム1)の負けを受けて、秋田と40分間フィジカルに戦えていなかったと話しました。オフェンスでもディフェンスでも、コンタクトされてもしっかりとプレーし続けて、40分間フィジカルに戦い抜く必要があります。そこに対しての昨日からのリアクションは良かった。目に見えて違いを感じることができました。それができたからこそ、この結果につながったと思います」
パヴィチェヴィッチHCは、そう肩をなで下ろした。
全員が強気なプレーを見せたことで、ホーキンソンの20得点を筆頭に、ケビン・ジョーンズが18得点、ベンドラメ礼生が14得点、アンソニー・クレモンズが10得点、8アシストと多くの選手が攻撃の起点となった。パヴィチェヴィッチHCの求めるバスケがようやく浸透してきたようだ。
Bリーグ初年度の2016-17シーズンから在籍9年目を迎えたベンドラメは、新体制2年目の変化をこう話す。
「昨シーズンはシステムを落とし込むのにすごく時間を費やした印象がありました。見て分かるとおり、(パヴィチェヴィッチHCからは)完璧なことを求められるので。ただ、今シーズンは半分以上の選手がそれを知っている、それを遂行できるので、練習の質もすごく高くなってる印象があるし、昨シーズンできなかった細かいところまで(練習で)詰め込めています。ハードな練習ができているので、よりシステムをチームに落とし込むことができているんじゃないかと思います。その中で、選手それぞれの良さを出す余裕ができてきていると、プレーしていてすごく感じます」
ディフェンスは“あうんの呼吸”
さらなる連係強化が飛躍のカギ
前述したとおり、秋田とのゲーム2は非常に円滑にオフェンスが回った印象だ。一方で71失点も悪くない数字(昨季は平均74.1失点)。だが、パヴィチェヴィッチHCとベンドラメが口をそろえたのが、ディフェンスでの連係強化についてだった。パヴィチェヴィッチHCは「今年の夏に新しい選手を加えて、チームが一つになるためにハードな練習をこなしています。でも、すぐにチームが一つになれるとは思いませんし、まだまだギャップがあります。それをなるべく小さくしなければなりません。負けを(成長の)代償として払わなくてもいいようにしていかなければなりません。具体的には、オフェンスよりもディフェンスのギャップが、昨季いた選手と新しく入ってきた選手とであると思います」と話しており、ベンドラメも「ディフェンスのコミュニケーションは“あうんの呼吸”があって、ある選手が抜かれたときはこの選手がヘルプして、逆サイドの選手がローテーションする。誰が抜かれたら誰がヘルプして誰がどこに動くかというところまで(パヴィチェヴィッチHCのシステムでは)全て決まっているので、特に新加入選手にとってはそれを頭に入れるのが難しいです。1年間やってきた僕たちは自然にできることですが、そのレベルまで引き上げるのがすごく大変。ただ、すでに分かっている選手が多い分、昨シーズンよりも新加入選手たちの理解も早いのかなと思います」
ベンドラメが語るように、パヴィチェヴィッチHCは完璧を求める指導者だ。そして、完璧な“ルカ・スタイル”を体現したからこそ、A東京は連覇という偉業を成し遂げることができた。
ただ、A東京が連覇した当時と比較するとBリーグ全体のレベルが格段に高まっていることも見逃せない。その理由としては、リーグの発展に伴ってNBAや欧州、豪州などで鳴らした実力派の外国籍選手が多く日本にやってきたこと、帰化選手の増加やアジア特別枠の導入が、より柔軟性あるラインナップ展開につながったことなどが挙げられる。タレントレベルが上がったことで戦術的なトレンドや選手の起用法も大きく変化した。これらを裏付けるように、A東京の連覇以降、その偉業を達成したクラブはなく、昨季は広島ドラゴンフライズが、一昨季は琉球ゴールデンキングスがそれぞれ西地区から王座に就いた。
SR渋谷も優勝を狙えるだけの戦力はそろっているが、それだけでは優勝できない。優勝レベルのタレントと、そのタレントの調和──SR渋谷がまず目指すべきは、さらなる連係強化を図りながら中地区を勝ち抜き、チャンピオンシップに出場することだろう。それが成し遂げられて初めて、優勝の二文字が「目標」となる。
記事提供:月刊バスケットボール