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2024.10.05

千葉ジェッツ新加入のディー・ジェイ・ホグは「スーパーチーム」のキーマンとなるか

  • 月刊バスケットボール
「前半は良い形でリードできたんですけど、宇都宮が強いのは分かっていたので、こういう試合になるんじゃないかなとは思っていました。なので、最後まで落ち着いてプレーできて、無事に開幕戦で勝利できたのは良かったです」

渡邊雄太の言葉に象徴されるように、千葉ジェッツと宇都宮ブレックスの開幕戦はいきなりオーバータイムに突入する激闘。勝利したのは千葉Jだった(91-84)。


渡邊雄太と比江島慎のマッチアップに会場は大いに沸いた

1Qで千葉Jがビッグラン
宇都宮が巻き返し、決着は延長戦に

1Qは富樫勇樹や渡邊雄太が立て続けに3Pシュートを沈めるなど、千葉Jがゲームを掌握し26-7という大差が付いた。2Qに入っても千葉Jの流れは続き、宇都宮は最大23点のビハインドを背負う苦しい展開。しかし、このクォーター中盤から流れが変わり始める。

千葉Jの多彩なボールムーブメントと豪快なトランジションから失点していた宇都宮だったが、リバウンドへの意識を強めて落ち着きを取り戻すと、オフェンスリバウンドからのセカンドチャンス、サードチャンスを得点につなげていく。原修太の屈強なディフェンスに苦戦していたエースのD.J・ニュービルも果敢にペイントアタックしてファウルを獲得。フリースローでシュートタッチを取り戻し、2Qだけで15得点を稼いだ。


35得点、9リバウンド、8アシストとニュービルは昨季MVPの実力を示した

前半を13点差(45-32)で終えると、後半はアイザック・フォトゥがゴール下で存在感を見せ、鵤誠司や遠藤祐亮らベテランも効果的に3Pをヒット。ディフェンスでも千葉Jを抑え、3Q残り3分からクォーターエンドまでに12-0のランを展開した。4Qは追う宇都宮、逃げる千葉Jの構図が続いたが、残り3.7秒でニュービルが値千金の同点3Pを沈め、決着はオーバータイムに持ち越された。だが、最後に底力を見せたのは千葉J。富樫が冷静に試合をコントロールし、ジョン・ムーニーがペイントで連続してフィールドゴールを成功し逃げ切った。

富樫、原、ムーニーら既存戦力に渡邊ら強力なメンバーが加わった千葉Jはまさにスーパーチームだ。最終的には大接戦となったものの、ゲームの入りであの宇都宮を圧倒した破壊力は、彼らの恐ろしさを見せ付けるのには十分なインパクトだったと言えるだろう。


スーパーチームのキーマンは
「控えめ」な万能戦士

ここまで記事を読んでくれた方の中で、「なぜディー・ジェイ・ホグの名前が一度も出てこないのか」と思った方はいるだろう。それは彼がこれ以降の記事の主役だからだ。

ホグは207cm・108kgの体格を持ちながら、スモールフォワードとパワーフォワードの両ポジションを担える万能戦士。この試合では千葉Jの初得点を記録するなど、チームハイの26得点を稼いだ。プレースタイル的にも、いわゆるインサイドで高いインパクトを発揮するタイプのビッグマンではなく、インサイドもやりつつもどちらかというと主戦場はアウトサイド。特に3Pシュートの精度はすばらしく、この試合では富樫、原に並ぶ7本を放って3本成功(42.9%)。オーバータイムの初得点も彼の3Pだった。

また、ビッグマンながらハンドリングやパススキルにも優れ、富樫へのディフェンスプレッシャーが強い時間帯にはセカンダリーボールハンドラーとしても活躍。ディフェンスでスイッチされてもビッグマンからガードまでをハイレベルにマークし、攻防に大きなインパクトを放った。

ホグの活躍についてトレヴァー・グリーソンHCはこのように話す。

「彼のことはオーストラリアの頃からよく知っていましたし、昨季はESPNとお仕事をする機会があったので、(ホグが所属していた)シドニー・キングスの試合はたくさん見ていました。昨季については少し不調なのかなと思いながら見ていたのですが、その前のシーズンはすごく強い選手だなと思っていたんです。改めて、(千葉Jの)練習で見たときはやっぱりすごくタレントがそろっている選手だと思いました。シュートも打てるしドリブルもできる、それに腕もすごく長くて多彩な選手だなと感じています。今日は彼が一番点を取ってはいますが、特別彼のためのプレーを作ったわけではありません。彼自身が自分の多様性をうまく使ってスコアしたんだと思います。それがチームにとっても大きな武器であり、彼が適応してくれている部分だと思います」



グリーソンHCが目指すのは、千葉Jのアイデンティティーでもある速い展開、そして、ボールと人が動き続けるフレックスオフェンスというシステムの確立だ。トランジションでは前線を走り、ハーフコートではミスマッチを狙って攻撃の起点になる。歯車にも動力にもなれるホグの存在感は、すでに千葉Jに欠かせぬものとなっているように感じられる。

いくらタレントがそろっていても、ボールはコートに1つしかない。そのボールをシェアできなければ、スーパーチームが真の意味でスーパーチームになることはない。富樫はタレントがそろうチームの現状について、こう語る。「プレシーズンの最初の方は逆にみんなが…遠慮しているわけではありませんが、『自分が、自分が』というよりも『誰かがやってくれる』という気持ちがあったのか、なかなかうまくいかない時間帯や試合もあったんです。でも、プレシーズンゲームを重ねていく中でお互いの良さ、バランスがすごく良くなってきています。これだけのメンバーがいますが、本当に誰も20点取りたいとか、そういう気持ちではプレーしていないです。目の前の1勝をつかむためにプレーできる選手の集まりだと思うので、そこの心配は全くないです。勝利を重ねていく中でより良いチームを作っていけると思っているので、勝ち切ることを意識して今季はやっていきたい」

富樫や原ら優勝を経験した既存戦力は、エゴを捨て去り団結した先に成功があることを知っている。渡邊もまた然りだ。そして、彼らの脇を固める存在として、自身の性格を「控えめ」と評しているホグのようなタレントはぴったりだ。月刊バスケットボール11月号でその理由とエピソードを聞いているのだが、そこでホグはこう回答している。「特にエピソードはないです。それが控え目である証拠。目立ったことはしません」

シュートを決めても淡々とディフェンスに戻り、感情をさらけ出すことは少ない。グリーソンHCが語るように、特別なフォーメーションを組まずとも、何でも卒なくこなして気付けば20得点を挙げている──ホグはそんな選手だ。この日の記者会見には富樫と渡邊が登壇し、ホグの言葉を聞く機会はなかった。だが、彼のアンセルフィッシュかつ効率的なプレーは、今季の千葉Jを象徴するものになっていく予感がする。