JBA審判グループに聞く!「2024-25シーズンのルールについて知っておくべきポイント」
開幕前の恒例インタビュー『JBA審判グループに聞く!』。このインタビューは新ルールやJBA審判グループの取り組みについて紹介し、リスペクト文化醸成のためにスタートした企画の5回目。今回は新シーズンに向けて「プレーコーリング・ガイドライン」から知っておくべきいくつかのポイントを解説していただきます!
※各項⽬の映像・URL・文章は新シーズンへのルールの理解を深めていただく⽬的で使⽤しています。本インタビューで紹介している事象、選⼿、審判を批判や評価する⽬的のものではありません。
インタビュー・文=井口基史
前田喜庸(日本バスケットボール協会 審判グループ GM兼審判委員長)
JBA審判グループのゼネラルマネージャー。自身もBリーグ初年度からレフェリーとしてゲームに携わり、その後インストラクターとして後進の養成・評価を行ってきた。インストラクター部会長を経て、2023年度よりJBA審判委員長就任。
上田篤拓(日本バスケットボール協会 審判グループ シニア・テクニカル・エキスパート)
bjリーグのプロレフェリー時代にNBAレフェリーを目指し、日本人としては初めてNBAサマーリーグに招聘されレフェリングを経験した。現在はJBA審判グループ シニア・テクニカル・エキスパートとFIBAレフェリーインストラクターを務める。
◆JBA審判グループの取り組み
――パリ五輪で日本バスケ界へ注目が集まっています。
前田 男女日本代表チームの頑張りはもちろんですが、日本のレフェリーも進化していることを皆さんにも知っていただきたいです。JBA公認プロフェッショナルレフェリーの加藤誉樹が昨年開催のFIBAワールドカップに続き、パリ五輪でもメダルのかかる大事な試合を任されたことは、皆さんもご覧になったと思います。また、同じくJBA公認プロフェッショナルレフェリーの漆間大吾が7月にFIBA ASIA(アジア)を通じてインドネシアのプロリーグ(IBL)のプレーオフに招集され、レフェリーを務めています。
これらは日本がFIBA(国際バスケットボール連盟)の求めるメカニクスや判定基準を、しっかり広めている国として認められ、世界で高い評価を受けている証で、非常にうれしく思います。今シーズンも多くの方々に、男女トップリーグでバスケットボールを楽しんでいただけるように、FIBAレフェリーインストラクター・レベル2(レフェリーインストラクターの最高位であり、アジアで現在1名)の上田篤拓を中心により良いレフェリングに取り組んでまいりますので、よろしくお願い致します。
――新シーズンに向けての準備を教えてください。
上田 今シーズンはFIBAのルール変更点で、ファン・ブースターの皆さんが気になるような、大きな変更点はありませんでした。JBA審判グループでは8月31日・9月1日の2日間、トップリーグ担当レフェリー(JBA公認S級、A級レフェリー)やJBA公認T級、1級インストラクターと、判定技術、判定基準に関する取り組みや、重点項目の確認を行い、開幕に向けて準備をしています。
新しい取り組みとして、国際弁護士を講師に招き、試合中、感情が高ぶった相手との会話の組み立て方など、コミュニケーション方法について学ぶ時間を設けました。また、B1、B2、B3、Wリーグ(今シーズンからプレミアとフューチャーに分かれる)のヘッドコーチおよびアシスタントコーチと、毎年実施しているヘッドコーチミーティングを、全チームの練習スケジュールに配慮し、オンラインにて3日間に分けて行い、ルールや判定基準について共通認識を深めています。外国籍ヘッドコーチにはチームの通訳に同席いただき、逐次通訳していただきました。
――ヘッドコーチミーティングではどのようなコミュニケーションが?
上田 レフェリーがどういった要素を基にアンスポーツマンライクファウルと判定しているのか、といった判定基準の確認や、今シーズンからWリーグプレミアに初めてIRS(インスタントリプレイシステム=ビデオ判定)が導入されますので、Wリーグのコーチの皆さんへはIRSのルールと運用について説明を行い、コーチの皆さんと質疑応答を行いました。そのほかにルール以外ですが、試合をスムーズに進めるため以下の二2点を共有しました。
タイムアウトからの再開について、よりスムーズにスピードをもって再開できるようにお願いします。
【⽬的】
・メリハリのあるゲーム運営でお客様やメディアを通じて試合を楽しんでいる視聴者を待たせない
・ゲームの平均試合時間をできる限り短くする
上田 昨シーズンからの継続になりますが、スムーズなゲーム進行を、チームと協力して取り組んでいく確認をしています。また下記のように、お客さまに観てもらうゲームの品位を保つため、試合中のベンチの振る舞いについて共有しました。
ベンチで⽴ち続ける⾏為などを少なくすることで、ゲームを観るお客様の視野を邪魔しない。
・⼀⼈のコーチ以外に⽴ってゲームを指⽰している、または異論を唱えているなどについて、まずはヘッドコーチに⼀度伝え協⼒を求める。この時点でワーニング(注意)であることを伝える。ただし、必ずしもワーニングが必要ということではなく、過度な振る舞いなどには直接テクニカルファウルとなることもあります。
・ワーニング後もベンチで⽴ち続ける⾏為や、コーチ以外の方が⽴って指⽰したり、異論を唱えている場⾯があればテクニカルファウルとなります。
・コーチ以外でも、プレーヤー、関係者の異論表現が続く場合などには、試合の商品価値を担保するためにテクニカルファウルなどの対応が必要な場合を判断してまいります。
上田 以上がルール以外の主なポイントです。
――プレーコーリング・ガイドラインの内容について教えてください。
上田 FIBAはルール変更点を直近では2024年5月、7月、8月に発表していますが、今回、国内トップリーグで運用開始するのは、5月と7月に発表されたルール変更点になり、8月発表の変更点はFIBA大会では10月から施行ですが、国内では次の適用開始のタイミングになります。今回の変更点の適用開始は、トップリーグは2024-25シーズンと天皇杯、皇后杯2次ラウンド以降とし、そのほかのカテゴリー(主にアマチュア)については、2025年4月の適用開始予定です。変更点と言っていますが、運用の中ですでに適用済の内容がほとんどです。ルールブックに条文や例として記載がなかったものを改めて記載したということですので、プレーコーリング・ガイドラインをチェックしていただければ映像とともに競技規則と判定基準を理解いただけると思います。変更点はJBAのウェブサイトで確認いただけます。
最新のプレーコーリング・ガイドライン
http://www.japanbasketball.jp/files/referee/rule/5on5_Guide20230629.pdf
――特に確認しておきたい点を教えてください。
上田 アンスポーツマンライクファウル(UF)には4つの判定基準(クライテリア)があり、起きた現象のみで故意であるかどうかは考慮せずにクライテリアに該当するかどうかを一貫性を持って判定しています。下記のクライテリア1(C1)、クライテリア2(C2)、クライテリア3(C3)については変更点ではありませんが、ヘッドコーチミーティングで重点項目として確認しています。
・ボールに対するプレーではなく、かつ、正当なバスケットボールのプレーとは認められないコンタクト
・オフボールのプレーヤーに対してや、コンタクトがあった体の部分(ポイント・オブ・コンタクト)が単にボールから離れていただけではC1 は適⽤されず、そのプレーが正当なバスケットボールのプレーであったかどうかを含めて判断します。
・正当なバスケットボールのプレーとは認められない⾏為として、ボールにプレーせず、相⼿の⾝体の⼀部を掴み続ける、抱える、捕まえる、不必要に⼿・腕などで押す、肘・脚などを不必要に広げるなどのコンタクトを主に指しています。●UF(アンスポーツマンライクファウル)C2 について
・ハードファウル、エクセシブコンタクト
UF/C2 基本的なコンセプト
1️⃣「インパクト」が存在するか︖(過度に激しい、相⼿を負傷させてしまう、などのインパクト)
※正当なバスケットボールのプレーであってもC2が適⽤される可能性があるケース
2️⃣「ワインドアップとインパクト」または、「インパクトとフォロースルー」が存在するか︖ UF/C2
3️⃣エルボーの動きは⽔平⽅向(ホリゾンタル) UF/C2
※肘を⽔平⽅向に激しく振る⾏為によって起こしたコンタクトはUF/C2。例えばそのコンタクトが⾸から上ではなくても、⽔平⽅向に振ったエルボーが⼗分なインパクトでコンタクトを起こせばUF
4️⃣エルボーをスウィングすることによって相⼿の⾸から上にインパクトをもってコンタクトを起こした場合 UF/C2
※通常の動きとも判断できる⼀⽅で、「エルボースウィング」を伴う動きで相⼿を負傷させてしまうようなコンタクトの場合、UF と判断
5️⃣By any Means(バイ・エニー・ミーンズ。どうせファウルになるのであればもっと⼤きくファウルをしようとするような⾏為)は継続してUF/C2
6️⃣通常の動きではなく、バスケットボールのプレーではないインパクト(映像で確認する場合) UF/C2
●UF(アンスポーツマンライクファウル)C3 について
・オフェンスが進⾏する中で、その進⾏を妨げることを⽬的としたディフェンスによる必要のないコンタクト
・ディフェンスをしようとする努⼒をせず、オフェンスがボールを進めることを⽌めることだけを⽬的とした不必要なコンタクト
リーガルガーディングポジションから正当にディフェンスをした結果のファウルは通常通りパーソナルファウルを適⽤する
このC3(クライテリア3)がルールの上で設定された背景としては、速攻やトランジションに対してディフェンスが安易にファウル(テイク)をすることで、ゲームの流れが途切れてしまうことを制限することを⽬的としてFIBA、NBA など世界的に設定されました。
⼀⽅で、FIBA本⼤会では以前まではこのC3として判定されていたものが、昨今、同じようなプレーであってもC3として判定されないケースがいくつか増えているように見えます。しかしながら、⽇本国内においては、今シーズンについては引き続きC3 のケースについてはUFとして判定を続けていくことで、ゲームフローの確保をしてまいります。
今後もトランジションや速攻に対しての不必要と判断されるケースについては、コーチングの観点からもご協⼒いただけますようお願いいたします。
上田 繰り返しになりますが、今回はルールの変更点はありませんが、上部の赤字の部分を混乱しないように、注意いただきたいと思います。FIBAの本大会として扱われる試合などをご覧になると、UF/C3に該当するようなケースでも、通常のパーソナルファウルと判定されているシーンに気付いた方もいると思います。FIBAの中でも、C3の解釈の仕方にさまざまな議論があり、結果的にUF/C3ではなく、パーソナルファウルと判定されているケースが増えている現状があります。そのような状況ではありますが、現在においてもFIBAのルールブックからC3が削除されたわけではなく、ルール変更でもありませんので、日本国内においては、昨シーズンまでと同様に、ゲームの流れを止めてしまうような、不必要なファウルについては、UF/C3として判定を続けていきます。
FIBAのルールからUF/C3が削除されるか、ルール変更が行われるまでは、C3が設定された背景である、速攻やトランジションに対してディフェンスが安易にファウル(テイク)をすることで、ゲームの流れが途切れてしまうことを制限する、という目的を支持する考えをJBA審判グループとして確認しています。
――その他にヘッドコーチミーティングであった共有事項は?
上田 ヘッドコーチミーティングでは、英語圏ではないヘッドコーチの通訳、及びコーチ兼通訳の方などが、ベンチで立つ行為について質問がありました。英語が母国語ではないコーチでも、FIBAのゲームと同様に、共通言語として英語でコミュニケーションしていきます。また通訳の役割が終わった後も、立ち続ける行為は、先に示したベンチコントロールに基づきテクニカルファウルの対象になります。
――新シーズンに向けてファン・ブースターへのメッセージをお願いします。
上田 皆さんの支えもあって、日本のバスケットボール界に大きな注目が集まっています。長いシーズンになりますが、Wリーグ、B1、B2、B3への応援をぜひよろしくお願いいたします。
またその試合を担当するレフェリーも一人の人間です。選手やコーチの起こしたリアクション、試合中継でのコメントなどに起因した、SNSを通じた選手・コーチ・レフェリーへの誹謗中傷が社会問題になっています。レフェリーやテーブルオフィシャルもバスケットボールには欠かせない一員です。より良いゲームを目指して、仕事とレフェリー活動という難しい両立に取り組んでいる、全国のレフェリーたちの存在も知っていただきたいと思います。今シーズンも我々の取り組みにご理解の程、宜しくお願い致します。
◆誹謗中傷対策と競技発展のためにレフェリーの環境改善が必要だ
レフェリーの中には、誹謗中傷の影響で、普段生活する地域でも、ファン・ブースターが集まる場所などを、なるだけ避けて生活されるなど、すでに実生活に影響が出ている実情を知りました。日本のバスケットボール界が大きく成長する中で、このような状況に目を向けて、改善できることに取り組まないといけないとも感じました。
競技発展の面では、FIBAの本大会として扱われる試合において、他国に比べると日本人レフェリーが多く派遣されていることもあり、FIBAのインストラクターや審判長とのコミュニケーションを通じて、最新情報を吸収するチャンスが、日本にはある状況だと教えてもらいました。逆に他国においては、インストラクターもレフェリーも派遣できない国もあり、FIBAの最新情報がおりてこない国も多くあるようです。
ということは日本が強豪国になるためにも、魅力ある国内リーグを創っていくためにも、レフェリー環境の整備と環境改善が必然ということですね。
今回のレポートで日本のバスケットボールがさらに発展するために、誹謗中傷対策と競技発展のためのレフェリーの環境改善が必要と分かりました。もっと多くのリソースが競技と競技を支える分野に向けられるように、ファン・ブースターも見守っていきましょう。(井口基史)