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2024.09.27

仕事にすべてを捧げる、三遠ネオフェニックス吉井裕鷹の熱き思い「試合に勝つ、優勝する以上に自分の欲を満たしてくれるものはない」

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三遠を新天地に選んだ理由、「三遠の全部ですかね」

昨シーズン、三遠ネオフェニックスは46勝14敗でチーム初の地区優勝を果たし、初年度の2016-17シーズン以来となるチャンピオンシップ出場を果たした。クォーターファイナルでは広島ドラゴンフライズに敗退と不完全燃焼に終わったが、今オフは躍進を支えたコアメンバーが揃って残留し、即戦力の獲得でチーム力の底上げにも成功した。新戦力の目玉と言える存在が、元NBA選手のデイビッド・ヌワバと日本代表の吉井裕鷹だ。

196cmのサイズと強靭なフィジカル、豊富な運動量を生かし3番、4番ポジションをこなせる吉井だが、これまで在籍していたアルバルク東京ではプレータイムに恵まれなかった。昨シーズンはレギュラーシーズン55試合に出場もプレータイムは10.5分に留まり、1.5得点、1.5リバウンドと突出した数字は残していない。琉球ゴールデンキングスとのクォーターファイナルでは3試合全てでコートに立つことはなかった。

だが、こうした背景があっても、吉井は三遠にとって即戦力の大型日本人フォワードと断言できる。それはワールドカップ2023、パリオリンピックで日本代表の中心メンバーとして世界を相手に真っ向勝負で渡り合ったプレーを見た人たちなら誰もが納得するだろう。三遠では先週に開催された天皇杯2次ラウンド最終日の佐賀バルーナーズ戦でも25分4秒のプレータイムを得て、早速主力の一員としてプレーし、勝利に貢献した。

吉井程の実力があれば、複数のチームが獲得に興味を持っていたことは想像に難くない。その中で三遠を新天地に選んだ決め手は何だったのか。この問いに対し、吉井はしばしの沈黙の後、こう語った。「三遠の全部ですかね。僕に対する熱意であり、バスケの環境、バスケの仕方において、僕が還元できる部分があるなと思って来ました」

この還元については「まだシーズンが始まってすらいないので、何とも言えない部分は大きいです」と言うが、すでに手応えを感じている。「(チームのスタイルは)自分にフィットしている。まだまだできる範囲を広げていけると思っています。これから試合を重ねていってダメだった時はダメになった理由を考えて成長できればいいですし、良いところはもっと伸ばしていけるシーズンになればいいと感じています」

三遠での順調なスタートを切った吉井だが、昨シーズンまで在籍したA東京への感謝も強調する。「これまで4シーズンアルバルクにお世話になって、そこでルカ・パヴィチェヴィッチ、デイニアス・アドマイティスの2人のヘッドコーチ、彼ら以外にも関わってくれたコーチやスタッフの皆さんのおかげで今の自分があると感謝しています。代表で鍛えたトラップにいく嗅覚みたいなところなど、これまでのいろいろな経験を三遠で還元できると思います」

吉井裕鷹

「仕事で結果を出すのが、やっぱり人間として1番うれしいかもしれない」

2022年夏の日本代表デビューから吉井は『日本代表として』という、代表をキーワードにした質問を何度も受けている。その頻度は、パリ五輪での活躍によってより増しているだろう。だが、代表に選ばれる、選ばれないによって吉井に何か変化が起こることはない。そこには、プロバスケットボール選手・吉井裕鷹のブレない職業観がある。

「ずっと、良くも悪くも仕事だと思って取り組んでいるので。その中でも楽しさはありますが、大前提として仕事なので。自分が日本代表だから何かしなくちゃいけない、点数を取らなきゃいけないとかはなく、僕にできる僕の仕事をし続けるだけ。監督、コーチ達が僕に求めているモノをしっかり遂行していくだけです」

そして、「上積みは、土台を固めたら自然に出てくるものだと思うので、とにかく求められることをやり続けることが一番大事だと思っています。それをやっていれば僕の動きがチームに還元できます。それでチームの勝利に近づいていくのがいいことです。チームの勝利以上にうれしいことなんてないです」とも言う。それでも、昨シーズンまでは勝利に貢献できないことへのもどかしさもあった。個人のスタッツについては全く気にしていないが、もっとチームの助けになりたいと吉井は強く願う。

「(A東京での)4シーズンは試合に出て還元できることは少なかったです。勝利しても苦しい時も多かったですが、それでも負けるよりも勝った方がうれしいです。自分が活躍するとかではなく、チームで構築したバスケが相手チームにハマったりとかした時は気持ちいいですね。自分一人で守り切れるのも気持ちいいですが、勝つためにバスケをやるので、うまいこといったら全部楽しいです。結局、個人の活躍ではなく、チームに還元できることにうれしさを感じます」

A東京で出場機会に恵まれない時、バスケットボールから離れてリフレッシュを図ったこともあった。だが、そこであらためて感じたのは自身の人生に占めるバスケットボールの大きさだった。「アルバルクでDNP(出場なし)になって他のことに時間を使ったとき、やっぱり試合で活躍するのが一番の刺激だなと。試合に勝つ、優勝する、活躍するとか以上に、自分の欲を満たしてくれるものはないのかもと思いました」

「プライベートで遊ぶことも気晴らしになってしまう。現実逃避と言いますか、マツコ・デラックスさんが前に『仕事以外に生きる価値って何があるのか……』みたいなことを言っていて、自分も仕事で結果を出すことがやっぱり人間として1番うれしいのかもしれないですね」

新天地で主力としてのプレーが予想される吉井にとって、今シーズンは切望した仕事で結果を出すための舞台が整ったことになる。三遠のさらなる飛躍をもたらす切り札として、彼の攻守に渡るハッスルプレーは見逃せない。