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2024.09.16

「誰よりも自分が楽しみにしていた」渡邊雄太が待望の千葉Jデビュー…富樫やホーキンソンも歓迎

  • バスケットボールキング

 アメリカで約11年間、NBAで6年間戦い抜いてきた渡邊雄太が新たなスタートの意味を込めて選んだ背番号「1」を背負い、Bリーグ、千葉ジェッツでの第一歩を踏み出した。

 9月15日、千葉Jにとっても千葉県のJR南船橋駅至近に今春開業した新本拠地「LaLa arena TOKYO-BAY(ららアリーナ東京ベイ)」での初ゲームであり、サンロッカーズ渋谷を迎えての今シーズン初のプレシーズンゲーム。

 会場は7948人の観客で埋まり、チケットは完売。大勢を占めるジェッツブースターが身につけた赤一色の様相で染まるなか、渡邊の名が先発メンバーとして呼ばれると、ひときわ大きな歓声で迎え入れられた。

「誰よりも自分がこの日を一番楽しみにしていました。すばらしいアリーナ、これだけ温かいみなさんの前でプレーできたのはうれしかったです」

 試合後、渡邊がそう振り返ったように、新ヘッドコーチ、新戦力、新本拠地、チームの新しい歴史とともに、自身の新しい競技生活のスタートを切るふさわしい門出だった。

渡邉の姿に集まったファンからの大歓声が注がれた [写真]=B.LEAGUE

 前半のみの出場で計15分44秒プレーし、7得点、2リバウンドをマーク。スモールフォワード(SF)の役割でのプレーが中心だったが、攻守両面において多彩な役割を果たした。

 オフェンスではリバウンドからそのままボールを運ぶ場面もあれば、アーリーオフェンスでは先陣を切ってリングに向かった。ディフェンスでは、ガードのベンドラメ礼にマンマークに付く場面もあれば、ローテーション時には日本代表の盟友であるセンター、ジェフ・ホーキンソンにポストでマッチアップし、ボールをタップするシーンも見られた。

「ららアリーナ、千葉ジェッツでの最初の試合だったので、あまり深く考えずに楽しくプレーしようと考えていました。試合ではずっと日本代表で一緒にプレーしていたジョシュが相手で変な気持ちになる部分もありましたが、気負いなくプレーできました」

 NBAからBリーグに来たからといって、得点に特化した選手になる必要はない。NBAでは与えられたプレー時間で存在感を発揮すべく「3&D」(スリー&ディー/3ポイントシュートとディフェンスを武器にする選手)のスタイルを追求したが、もともと渡邊は身長206センチの高さを生かしたプレーのみならず、トランジションにおけるスピード、巧みなボールハンドリング技術を持ち合わせている選手。千葉ジェッツなら、本来の持ち味を発揮できる役割が整っている。

 フィールドゴールはリングに嫌われる場面も目立ち、試合は65-72と新アリーナでの初陣は飾れなかったものの、そんな渡邊の片鱗が見られただけでも、このプレシーズン初戦の収穫と言える。

NBA時代以上にさまざまな面での活躍が期待される [写真]=B.LEAGUE

 この日、16得点をマークした千葉Jの大黒柱・富樫勇樹は、十年来の付き合いである渡邊がBリーグでプレーする意味の大きさを、あらためて強調した。

「同じチームでプレーすることはもちろん(大きなこと)なんですけど、それ以上にNBAで6年間プレーした日本人選手が日本に戻ってきてプレーするのは、日本バスケットボール界にとって非常に大きなこと。自分としては彼の強みを活かせるにしていければと思います」

 また、渡邊と何回かマッチアップしたホーキンソンも「日本代表選手同士がBリーグで戦うことは価値のあること」と認める。

「渡邊選手だけなく、富樫選手、原選手、金近選手など、日本代表で共に戦ってきたメンバーと違うチーム同士で戦うことは、プレーヤーとしても楽しいですし、何よりファンの人たちが待ち望んで見ている。選手としては、違うパッションが起きるし、そういったなかで対戦できたのは新鮮だし、勝ちにはこだわりたい。これから先も長いシーズンで何回かあるかと思うけど、渡邊選手に対しても遠慮なく戦っていこうと思います」

 試合後半、ベンチで仲間たちの戦況を見守っていたが、「予定どおり出ないとわかっていたんですけど、ウズウズしていました」という渡邊。仲間がシュートを決めればベンチから立ち上がり、手に持ったタオルを振りかざし、タイムアウトで仲間が引き上げてくれば、率先してハイタッチで迎え入れる。日本代表では目にする馴染みの姿が、千葉ジェッツでもそのまま見られたのは、居心地のよさを感じているからだろう。

 それゆえ、赤色の背番号「1」は新鮮さを与えつつも、どこか見慣れた光景にも映った。

コート内外、そしてリーグ全体に好影響を与える予感[写真]=B.LEAGUE

 NBA時代の渡邊はシーズン開幕を迎えるこの時期には、ロスター入りをかけたサバイバルレースにさらされていたため、エンジン全開にしていなければならなかった。それは本人がNBAでの生活に区切りをつけるひとつの理由となったメンタル面の疲弊をもたしたが、今年は違う。

「今はいい意味でリラックスできています。NBAにいた時は、トレーニングキャンプやプレシーズンの時期に100%の状態でいなければならなかった。それをシーズン中も維持することが大変だったんですけど、今は徐々に徐々に調子やコンディションを上げていけています」

 ようやく心に余裕を持って、再び好きなバスケットボールに向き合うことができている。だからこそチームの勝利にも献身的になれる。今は笑顔も多く見られるが、との問いに「シーズンが始まれば、笑顔もなくなって(真剣な表情で)プレーしていると思います」と答える。

「現在のコンディションは6割、7割くらいですが、来週は天皇杯、10月頭から公式戦が始まります。ゲームシェイプ(公式戦仕様の高いレベルのコンディションを整える)の一番の方法は、ゲームを重ねていくことなので、その辺りはチームと相談しながら、急に上げすぎるとケガのリスクもあるので、調子を見ながらやっていければと思います」

 渡邊は自然体でBリーグに溶け込もうとしている。一方で見ているファンやリーグ関係者は、「Bリーグの渡邊雄太」を受け入れるには、しばらく時間がかかるかもしれない。だが、それはBリーグ、千葉ジェッツにとっても初めての展開だからこその局面。前例がないからこそ、どのようなケミストリーが起こるのか、心躍るのではないか。

 今シーズン、大いに楽しみだ。

文=牧野豊