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2024.08.26

トレヴァー・グリーソンHCと千葉ジェッツの縁「シナジーを感じるような条件がそろった」

  • 月刊バスケットボール
Bリーグ2024-25シーズンの開幕まで残すところ約1ヶ月半。各クラブがトレーニングキャンプを開始し、9月にはプレシーズン、そして、10月3日の群馬クレインサンダーズと広島ドラゴンフライズによる“先出し”の開幕戦から新シーズンがスタートする。

その中でも、千葉ジェッツは最も変化の大きかったクラブの一つだ。富樫勇樹や原修太、ジョン・ムーニー、クリストファー・スミスといった核は変わっていないものの、目玉の補強として渡邊雄太が加わった。昨季の天皇杯と東アジアスーパーリーグの王者に渡邊が加入するとなれば、ファンは否が応でも千葉Jを優勝候補の一角に挙げることになる。

ヘッドコーチ契約問題の末に
縁の多いグリーソンを招聘


ジョン・パトリック前HCの後任もドイツ代表指揮官のゴードン・ハーバートに決まり、選手・スタッフともに過去のクラブの歴史を見ても指折りの豪華さ。新生・千葉Jのシーズンは前途洋々に思えたが、しかし……。

7月19日、ハーバートと千葉Jは双方合意の上、契約を解除。同氏から一方的に契約破棄を申し入れられ、その後、音信不通となった“事件”は千葉J、そしてBリーグファンを震撼させた。その後、新たな指揮官探しの末にトレヴァー・グリーソンを招聘し、何とかヘッドコーチ問題は収束したわけだが、その間はファンもクラブも肝を冷やしたことだろう。

8月23日に行われた記者会見で、池内勇太GMはグリーソン新HC就任の経緯をこう説明した。「あの一件があり、新たにコーチ探しをしなければならないシチュエーションになってしまいました。ムーニーがNBLでプレーしていたとき、彼がトレヴァーさんの下でプレーしていたこともあって、トレヴァーさんの作るバスケットはよく理解していました。まずそこはご縁を感じる部分。渡邊選手もラプターズ時代にトレヴァーさんと一緒に戦っています。そして、千葉ジェッツは看板選手である富樫選手を一番に考えていく中で、トレヴァーさんはNBLでブライス・コットン(182cm)という小さなPGをうまく使って功績を上げていました。なので、僕としてはすごくイメージが付けやすかったです」


質問に応じる池内GM

グリーソンHCも初回の面談から池内GMと意気投合したことが大きかったと話す。「初めて池内GMと面談をした際に考え方やチームスタイルがどうなるべきなのかという意見交換で一致する部分が多かったです。(渡邊やムーニーの在籍を含めて)シナジーを感じるようないろいろな条件がそろった上で千葉Jに決めました」

また、千葉Jの伝統的なスタイルである強度の高いディフェンスから展開されるアップテンポなバスケットもグリーソンHCのスタイルとマッチする。加えて、ハーフコートオフェンスの引き出しが増えるであろうことも池内GMは期待していた。速い展開で攻められなかったときにオフェンスが停滞し、富樫頼みになってしまう。ケガや体調不良による離脱者が多かったとはいえ、ハーフコートオフェンスは昨季を通して課題だった。

グリーソンHCは「速いペースに持ち込みたい。特にファストブレイクの遂行力を高めていくことと、コートの5人がシナジーを持ってチームバスケットを遂行することが大事。そういうチームがプレーオフで勝てるチームだと思うので、少しずつ築き上げられればいいです」と作り上げるスタイルを明確にしつつ、「コート上の5人がチームとしてどう動けているかが大事です。どれだけのタレントがそろっていても、彼らがチームとしてプレーしていなかったら意味がありません。あくまでもチームとして戦うスタイルを築き上げていければと思います。そして、その成功が1年だけでなく、組織の未来につながるような土台作りになったらいいと思います」と、より選手が連動した戦い方を目指しながら、クラブの新たな歴史を醸成していく構えだ。



情熱的かつ穏やかな人柄
NBLで馬場雄大との対戦も


グリーソンHCは自身のコーチ像を「情熱的」と表現した。その性格も千葉Jというクラブにはぴったりだ。ただ、この会見などのオフコートではその人間性は一変。物腰柔らかな話し方と、ユーモアを交えた受け答え、さらには白い歯をのぞかせるステキな笑顔も印象的だ。池内GMも「普段は穏やかな方で、でも、いざコートに立つと人が変わるというか。とても熱心なコーチだと思います」と話していた。そのギャップも魅力的なグリーソンHCをファンもすぐに気に入るはずだ。

日本との縁というと、グリーソンHCがパース・ワイルドキャッツの指揮官だった20-21シーズンに、ある日本人選手と対戦している。馬場雄大だ。

このシーズンにメルボルン・ユナイテッドでNBL制覇を成し遂げた馬場だが、そのファイナルの対戦相手こそ、グリーソンHC率いるワイルドキャッツだった。結果として、ユナイテッドが3連勝でワイルドキャッツをスウィープし、馬場はゲーム2で15得点、4リバウンド、ゲーム3でも11得点を記録。グリーソンHCも馬場を印象深い選手として記憶している。ムーニーがグリーソンHCの下でプレーしたのもこのシーズンで、当時のムーニーはプロ1年目ながらNBLのリバウンド王、そしてオールNBLファーストチームに選出されている。

さまざまなオファーが舞い込む中で、それらを吟味していたグリーソンHCと千葉Jが契約交渉を開始したのが7月の中旬。契約締結は初回の面談から半月ほどの7月下旬には済ませた。池内GMは詳細な日付の公表は控えたが、そのスピード感はすさまじい。それほどまでに両者の意見は合致したというわけだ。

さまざまな縁があって千葉Jを率いることになったグリーソンHC。NBLをはじめ、NBA、韓国KBL、NBADリーグ(現Gリーグ)と27年にもわたる指導歴の中でNBL優勝5回を筆頭に数々の功績を残してきた。運命的なヘッドコーチ就任劇をわれわれに見せてくれた両者。グリーソンHCと千葉Jの物語はここから始まる。


左から田村征也代表取締役社長、グリーソンHC、池内GM