CSを逃した群馬クレインサンダーズ、辻直人の胸中(後編)「やり切ったという感覚は全くない」シーズンを経て、飛躍の2年目へ
「新しく自分の弱さを知れた1年目でした」
辻直人は自分を突き動かすものを常に求めている、ストイックな選手だ。昨オフは広島ドラゴンフライズに残る選択肢もあったが、2シーズンの在籍で一定の達成感を得ていた自分に気づき、「次の年に自分はまた頑張れるのか」と疑問を感じたことで群馬クレインサンダーズに移籍した。
しかし、今シーズンを終えて辻の中に残ったのは、1年前とは真逆の心境だった。「群馬でやり切ったという感覚は全くないです。むしろ手応えがなかったというほうが近いです」
群馬は1月末からの9連勝で、一躍チャンピオンシップ戦線に躍り出たものの、その後外国籍選手と帰化選手を同時に2人欠く時期が続き、勝率を落とした。辻は彼らのケガを言い訳にせず、自分ができることにフォーカスするよう心がけていたが、それでも気持ちの浮き沈みに苦しんだ。
「最初は経験を生かして、このチームを変えてやると思ってきました。そう思うことをストレスに感じることはあったけど『自分は広島で経験してきたからできる』と。ただ継続することができずに『やっぱりダメだ』と思った時は1番ストレスを感じましたね」
辻は苦しんだ今シーズンを「新しく自分の弱さを知れた1年目でした」と振り返った。「自分が置かれている立場を自分が一番知らなかったと痛感しました。自分では『(年齢やキャリアは関係なく)みんなが対等』と思っていたけど、それではいけない。 ベテランとして積んできたキャリアを還元しなければいけないと気が付きました」
そして来シーズンに向けた覚悟を次のように語った。「年齢もベテランになっていますし、ストレスどうこうと言っていられない。特に2年目は1年目と違って言い訳できないですし、やり続けないといけないと思っています。これからどんどん身体の変化も出てくるだろうし、今が一番、プレーでも言動でも引っ張れる時期なのかなとも思います」
「腹をくくれているので、期待してください」
取材中には、残りのキャリアを意識する言葉が多く聞かれた。今シーズンは川崎ブレイブサンダースのニック・ファジーカスや、広島の朝山正悟がシーズン前に引退を表明。共にプレーした2人のラストシーズンを見て、辻は何を思ったのか。
「それぞれが置かれている立場が違っても、一緒にプレーした人が引退するのは心苦しいです。ニックのように惜しまれつつもやめるのか、朝山さんや桜井(良太=レバンガ北海道)さんのようにやり切って終えるのか。そういうこともめちゃくちゃ考えましたね。自分の中でこうしようというのは今はまだ全くないですけど、歳の近い選手のプレータイムがなくなっているのを見ると、自分もいよいよなんだなと感じます。今、動けているからこそ、そうなる怖さがあります」
「怖さ」を感じたとは言いつつも、自身の衰えはまったく感じておらず、むしろ新しい発見があったという。「今年はオフェンスで貢献できなかった試合が多いので、そこに手応えはなかったんですけど、逆にディフェンスの楽しさや難しさに気がついて、もっとこうしたらディフェンスが上手くなるんじゃないかなという発見もありました。そういうものは来シーズンに繋げられたらと思います」
川崎に育ててもらい、広島では今まで気が付かなかった壁を乗り越えて、プレーヤーとしても人間としても大きく成長した。得たものをさらに還元しようと選んだ新天地では新たな壁にぶつかったが、辻であれば、この壁をぶち破って自身とクラブの新しい歴史をきっと作ってくれるだろう。
最後に、シーズンを通じて背中を押してくれたブースターへの言葉で締めくくった。
「キャリアを積んできたからこそわかるんですけど、アリーナが満員になるのはすごいことです。これだけ多くのスポンサーさんについていただき、クラブの運営もうまくいっているのは当たり前ではないなと強く思うので、みなさんには感謝しかありません。このクラブをより良くしていくために僕は呼ばれたと思っています。だからこそ、何も結果を出せないまま群馬でのキャリアを終えることは絶対にしたくないです。腹をくくれているので、期待してください。恩返しをしたいと思います」