CSを逃した群馬クレインサンダーズ、ベテラン辻直人が明かした胸の内(前編)「一人ひとりが考え方を変える必要がある」
個々の意識を変えるために奔走した1年間
「考えないようにしています。CSのことも気にしないようにしています」
シーズンが終わって1週間が経とうとするこの日、気持ちの切り替えがうまくないと自認する辻直人に今の心境を聞き、最初に返ってきた言葉だった。取材当日から始まったチャンピオンシップ(CS)についても「結果を見るくらいにしようかと」と一言。その表情から、自分たちが叶わなかった舞台を遠ざけたいという気持ちが伝わってきた(ただその後のSNSの投稿を見るに、辻はCSの熱戦を楽しんでいたようだ)。
咋オフ、群馬クレインサンダーズの目玉選手として広島ドラゴンフライズより移籍してきた辻だったが、チームは東地区4位となる31勝29敗でレギュラーシーズンを終えてCS出場を逃し、思い描いた結果とはならなかった。
チームがより強くなっていくために必要なことを、辻はこう話す。「一人ひとりが考え方を変える必要があると思います。勝つために何ができるか、チームに何が残せるかを考えないといけない。そのためにコミュニケーションを取り続けることは大事で、CSに出ているチームはそれができています」
この言葉のとおり、辻の群馬での1年目は、個々の意識を変えることに奔走したシーズンとなった。結果は結果として受け止めているが、それと同様に自分が思い描いたようにチームを導けなかったことへの悔しさが募ったシーズンになったと辻は言う。
「チームが求めていることと選手の役割が合致していなかった部分があったので、コミュニケーションをたくさん取りました。コミュニケーションがうまく取れている時は結果も出ましたが、それができていない時は僕のアテンプトやアシスト数にモロに反映されていると思います」
群馬へ移籍する前に2シーズンを過ごした広島では、9シーズン所属した川崎ブレイブサンダースとのカルチャーの差があり、初年度は戸惑うことばかりだったという。特に、『お祭り男』と呼ばれる明るいキャラクターからは想像できない、人見知りな性格が大きな壁になったと辻は振り返る。
「広島の1年目は初めての移籍で、カルチャーショックを受けてどうすることもできない状況もありました。朝山(正悟)さんにいろいろ相談して、『自分が思ったことを伝えたらいいよ。それで揉めるようなことがあれば俺が尻拭いをやってあげるから』と言われてすごく気持ちが楽になって、そこから少しずつ発言するようになりました」
「第3章というデッカいタイトルに負けないくらい濃い経験をしています」
1年目は上位に食い込むことはできなかったが、2年目はチームの意識が大きく変わりCS進出を果たした。辻も自分の発言でチームが変わっていく手応えを得た。その経験を生かすべく意気揚々と移籍先に選んだのが、強豪クラブになるべく発展の一歩を歩み出したばかりの群馬だった。
「とにかく群馬は勝ちに貪欲でした。練習中の5対5でも勝つためにみんなハードにプレーできるのが素晴らしいです」。意識高く勝利を目指すクラブであるのは間違いなかったが、広島とのギャップも感じた。「発言した直後は変化があるけど、すぐに戻ってしまう。そして、それに対して言い続ける力が僕にはありませんでした。広島では、発言すれば変わって、言う人が増えて、さらに変わってという感じでした」
広島時代は朝山や、共に川崎から移籍してきた青木保憲(現・仙台89ERS)が良い相談相手だったという。群馬ではどうだったのか。
「(並里)成とはよく話しました。彼も初めてキャプテンを務めることになり悩みはあったと思います。ただ彼は独特の『並里成』のスタイルができあがっています。バスケ観や今後の改善点は話しましたが、チームや組織をどう変えていくのかというところまでは至っていません。来シーズンがどうなるかは分かりませんが、僕自身にとってチャレンジの1年になると感じています」
カルチャーは簡単に変わるものではなく、時間を要するものだ。そして、誰かにとっての正解は誰かにとっては不正解であり、絶対的な答えはないものかもしれない。辻にとって今シーズンは苦しいシーズンとなったが、それゆえに自身の成長を感じられるシーズンだったに違いない。
「『人生一回』というのが自分のモットーなんですが、それこそ成とできるのも、これが最後のチャンスだと思いました。個性が強いチームに自分が入った時に、自分を殺さずにどれだけできるのか。 広島で経験した組織作りをどこまでできるのか。『(プロキャリア)第3章』というデッカいタイトルに負けないくらい濃い経験をしています」