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2024.05.17

5.12千葉ポートアリーナの記憶——アルティーリ千葉対越谷アルファーズ激闘観戦記

  • 月刊バスケットボール

2024512日の千葉ポートアリーナ、アルティーリ千葉と越谷アルファーズがB1昇格をかけて戦ったB2プレーオフセミファイナルGAME2は、どちらも最後の最後まで執念を見せ合う大熱戦だった。アウェイの越谷が勝てばアップセットでB1昇格。ホームのA千葉が勝てば、B1昇格権をかけたGAME3を翌日もう一度戦うことができる。当然どちらも負けられないこの一戦に、この日はクラブの歴代最多入場者記録を更新する6031人の大観衆が集まった。

ザッとその95%程度がA千葉の勝利を願うA-xx(クラブのファンに対する愛称)だ。大人から子どもまでそのほぼ全員がA千葉のユニフォームやシャツを着ているので、自然に観客席のほぼ全面がブラックネイビーで染まる。A千葉は今シーズン、千葉ポートアリーナでのホームゲームに平均5005人の入場者を集めていたので、これはいつもの光景だ。ただし越谷のベンチ裏を中心とした一画は様子が異なり、アルファメイト(越谷ブースターの愛称)のバーガンディーが占めていた。また、ブラックネイビーの海のそこここに、アルファーズオリジナル応援グッズの蛍光「ネギばんばん」をきらめかせたアルファメイトが頑張っていた。

午後3時のティップオフは、スタンディングオベーションの中で行われた。メガホンやハリセンを連打するシャープなクラップ音と、「ウオォォォォーッ!」という大歓声とが混ざり合い、言葉には言い尽くせない迫力だ。

しかしジャンプボールに勝ったのは越谷。幸先良いスタートにアルファメイトたちから歓声が沸き起こり、それはすぐさま8ビートで「レッツゴー、アルファーズ! X, X, XXX,(これで何とか伝わってくれるか…クラップの拍子のつもりです)」と叫ぶコールに変わる。A-xxもすかさず対抗。力いっぱい「ディーフェンス、チーバ!」の叫びを挙げてA千葉のスターターを盛り立てる。

ブラックネイビー軍団の激しいプレッシャーディフェンスをものともせず、LJ・ピークが3Pショットを決め越谷先制。「よおぉぉし!」。アルファメイトの喜びが爆発し、先手を取られた側のA-xxから「うわああっ!」と声がもれた。この試合はこれ以降も、そんな観客席の呼吸が毎度攻守交代の合図となるのだ。素早いトランジションでA千葉が最初のオフェンスを組み立てる。A-xxがミドルテンポの16ビートに乗せて「アルティーリ、チーバ! X,,, X,, X,, X,X,,, X,X,X(これもクラップの拍子のつもりです)」のオリジナルコールを注ぐ中、ピークにマッチアップして一撃食らった前田怜緒が、お返しとばかりにそのピークをスピンドライブで抜き去ってのレイアップで2-3。熱狂の40分はティップ直後の攻防からアツい。

©B.LEAGUE

白熱の第4Q残り1分38秒

試合はこの前田のレイアップを皮切りにA千葉が12連続得点を挙げ、序盤に12-3と先行。しかし越谷が少しずつ追い上げ、ハーフタイム時点では逆に43-49とリードした。後半は両チームの粘り合いとなり大接戦に。第4Q残り138秒に前田がリバースレイアップをねじ込んだ時点で、A千葉が70-69と先行していた。

ここから約1分間スコアボードが動かない膠着状態を経て、試合はまだまだ動いていく。

残り16.8秒、LJ・ピークのドライビングレイアップが決まって越谷が71-70とリード。果敢なペイントアタックに、ゴール下に切れ込んだ小寺ハミルトンゲイリーのスマートなスクリーンアシストが絡む素晴らしいチームプレーだった。会場がA-xxのため息とアルファメイトの歓喜の声に揺れる。A千葉のアンドレ・レマニスHCがタイムアウトを要求した。

リーグ最強のオフェンス力を誇るA千葉が良いショットを作るには、16.8秒は十分すぎるほどの時間だ。3Pショットでなくてもよい。アグレッシブに攻めてフリースローでもよい。越谷の安齋竜三HCとすれば、我慢して凌がなければならない永遠の16.8秒だ。しかし、仮に1本決められても、アンスポーツマンライクファウルやテクニカルファウルが絡まなければ、点差は最大限1ポゼッション以内。チームファウルの数もまだペナルティショットの数には達していない。リーグ最強を誇るディフェンスで、恐れず真っ向勝負できる。

大観衆のクラップに合わせて、Aills(エイルズ=A千葉のパフォーマンスチーム)が軽快なダンスでさらに会場のエナジーを高めた後、「アルティーリ、オーエーオー!」の叫び声をあげるA-xxが総立ちになってA千葉の選手たちをコートに送り出した。人数では圧倒的に少ないアルファメイトも、信じられない声の大きさで越谷の5人に思いを届けている。「レッツゴー、アルファーズ! X, X, XXX, レッツゴー、アルファーズ!」


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フロントコートの左コフィンコーナー外からのインバウンドで、A千葉のオフェンスが始まった。ボールは前田怜緒の手を離れ、左エルボーからトップに出てきたデレク・パードンに渡り、ハンドオフで前田が受けなおした後さらに逆ウイングのブランドン・アシュリーへ。アシュリーが右コーナーから上がってきた木田貴明にハンドオフでボールを預け、木田はワンタッチだけでもう一度トップの前田にボールを戻す。左サイドでは、杉本がパードンのスクリーンを使ってウイングに上がってきた。前田は杉本にパス。連続的なハンドオフとサイドチェンジで組み立てるレマニスHCのフローオフェンスで、左サイドにはボールハンドラーの杉本とスクリーナーのパードンがピック&ロールをできそうなスペースが生まれていた。

9秒、8、杉本はミドルレーン側に急加速してリムアタック。7。パードンのスクリーンを使ってマッチアップした笹倉怜寿を抜き、ペイントで待ち受ける小寺の巨体に体を寄せながらバックボードの高い位置を狙うバンクショット。しかし跳ね返ったボールはリムに当たらずそのまま逆サイドへ。ついに戦いが終わりを迎えるか…。そう思いかけたとき、そこにパードンがいた。パードンは小動物に襲いかかる鷹のようにボールに飛びかかり、笹倉の頭越しに空中でボールを奪い獲る。着地と同時にレイアップ。ホイッスル! レフェリーはピークのファウルをコールし、残り時間4.6秒でパードンがフリースローラインに立つことになった。



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「ウオオオォ…!」。来場していたすべての人々の、言葉にならない心の雄叫びが場内に響き渡った。

この後の流れは、試合を見た方ならご存じのとおり、パードンの2本はリムに嫌われ、A千葉は逆転機を逃す。A-xxからの悲鳴のような声とアルファメイトの歓声が千葉ポートアリーナにとどろく。

しかしまだまだ、まだまだだ。

最後の瞬間まで試合は生きていた

A千葉はファウルゲーム。越谷のベースラインからのインバウンドプレーで、杉本がピークに対するハックで時間を止めた。これはアンスポーツマンライクファウルを宣告されるが、ここではA-xxの願いが通じたか、ピークのフリースロー成功は1本のみだった。ただし、72-70とリードを広げた越谷はまだボールを保持している。インバウンドで小寺がボールを持った途端にパードンがファウルして時計を止める。この時点でパードンがファウルアウトするとともに、A千葉のチームファウルも5つ目となり、小寺がフリースローを得て2本しっかり決めた。残り3.1秒、74-70。アルファメイトの歓声が一段と大きくなった。

しかし、A千葉はまだまだ、まったくあきらめていない。レマニスHCが逆転を狙ってタイムアウトを取った。

両チームファンが割れんばかりの大声援を浴びせ続けている。涙で目を潤ませながら見守る人、両手を合わせて目をつぶる人、ハリセンやメガホンでクラップを送る人、泣き出しそうな隣の人の手を握って選手たちを見つめる人…。会場総立ちのスタンディングオベーションに包まれた千葉ポートアリーナのコートは、祈りを捧げる場所となっていた。


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A千葉は再び、フロントコートのコフィンコーナー外からのリスタート。今回はとにかく時間をかけずに1ポゼッション差に戻す意図のオフェンスだったようだ。得点を奪ったら即刻にプレスしてインバウンドでターンオーバーを誘う、あるいはファウルしてフリースローが落ちることを期待する狙いだったのだろう。

木田と前田がコート縦方向のカットでおとりとなり、ペイントに陣取ったアシュリーが小寺をゴール真下まで深々と押し込んだところに杉本がインバウンドパスを直接通す。アシュリーがすぐさまレイアップで得点。アレックス・デイビスがゴールした逆サイドのピークをスクリーンスクリーンアウトしてスペースを作ったチームオフェンスが成功した。

越谷がエンドから松山駿にインバウンドパスを渡した直後、杉本が松山にファウルしてフリースロー。時間は1.4秒残っていた。

松山とA-xxの勝負。連日のヒーローが、嵐のようなクラップとブーイングにひるまず1本目を成功させ75-72。アルファメイトと越谷ベンチが喜びの雄叫びに沸く。2本目のミスは意図的なものだろう。バックボードとリムをはねたボールにアシュリーが食らいつく。越谷はファウルをしないよう、リバウンドに積極的に加わってはいなかった。ということは、アシュリーがボールをつかめば最後にフルコートのロングショットを良い形で打てるかも。そこに何かのはずみで越谷の誰かがファウルを犯したら...。それがないとは言えない。わずか1.4秒の間にそんな考えが駆け巡る。アシュリーが全力のフルコート・ショットを放った。さあ。どうか。ボールが放物線を描いて反対側のゴールをめがけて飛んでいく。

しかしこの放物線はリムを捉えることなくフロアに落下。ついに試合終了、75-72。越谷がA千葉に今季初の連敗を食らわせ、B1昇格とB2ファイナル進出を決めた。越谷はB2昇格5年目、プレーオフでの挑戦4度目での悲願達成。A千葉は昨年に続き、悔やみきれないほど悔しいセミファイナル敗退となった。



前田のリバースレイアップからアシュリーのラストショットがフロアに落ちるまでは、ゲームクロックの残り時間はわずか138秒だが、実際には16分以上の時間を要した。それだけこの試合は丁寧に運営され、精魂込めて進められたということだ。

悲喜こもごもの叫び声。声にならない歓喜、すべてを語る沈黙。笑顔と無念の涙、包容。やがてA-xxからの喝采がB1昇格を決めた越谷を包み、それに対しアルファメイトは、レマニスHCのあいさつに耳を傾け、「チーバ! X, X, X、チーバ! X, X, X」のコールを返して敬意を表した。悔しさが「おめでとう」に、喜びが「ありがとう」に、時とともに感情が少しずつ変容していた。


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取材を終え、アリーナを出て京成千葉中央駅に向かってさざなみ橋を渡り、新宿公園を抜ける10分か15分か、この日の対戦は少なくともA千葉が昇格を果たすまでは再び見ることがないという事実に気付き、一人感情の波に襲われた。次週の3位決定戦で千葉ポートアリーナを訪れるのは、最大でも3回だけ。新アリーナの話もあるので、この道を通る取材はこの先そんなには多くないかもしれない。この場所は、この日繰り広げられた激闘の記憶とともにはるかな未来にも語り継がれるべきだと強く感じた。


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祝福のときと試練のときという違いがあるものの、両チームのどちらにも恥じることなど一つもなかった。念願をかなえた越谷の長谷川智也の笑顔も、肩を震わせ涙に暮れたA千葉の大塚裕土の背中も、素晴らしいリーダーシップでチームを県したものだ。アルファメイトとA-xxが語り部として、その雄姿をきっと10年後、20年後、その先までも栄光の思い出として伝えてくれるに違いない。