2024.05.11
勝負どころ大爆発の富樫勇樹、宇都宮撃破に「チャンスをもらった選手がシーズンをつないで成長した」
宇都宮の追い上げムードを断ち切る
勝負どころでの3連続スリー
4Q残り1分25秒。アイソレーションから富樫勇樹が3Pやシュートを射抜いた後、超満員の日環アリーナ栃木がシーンと静まり返った。B1チャンピオンシップクォーターファイナルで、宇都宮ブレックスのホームに取り込んだ千葉ジェッツは、82-70で宇都宮を撃破。セミファイナル進出へ王手をかけた。
今季、千葉Jと宇都宮は天皇杯を含めて6度目の対戦。レギュラーシーズンの4試合ではうち3試合が千葉Jのホーム開催だったが、結果は宇都宮の4戦全勝だった。特に4月27、28日に千葉ポートアリーナで開催された2戦は、1戦目から順に55-82、74-85といずれも2桁点差で宇都宮が勝利していた。
「チームとしてかなり危機感を持ってこの試合に臨みました。レギュラーシーズンで4連敗していましたし、ただの4連敗ではなくかなりコテンパンにやられた4試合だった印象でした。その中で、気持ちを切らさずに自分が戦い続けることができたと思いますし、コートに出ている5人が連動して戦うことができました。でも、これは大きな1勝ではありますが、次の1勝がより大変になってくると思うので、切り替えて明日も戦いたいです」
富樫はこう総括した。天皇杯では大逆転勝ちを収めたものの、総合的なチームの完成度では宇都宮の方が上。それだけに、どれだけ折れずに戦い、持ち味の爆発力が発揮されるまで辛抱するかが千葉Jにとっては重要だった。
そして、それは試合の出だしから随所に垣間見えた。開始早々はDJニュービルにミスマッチを突かれて連続得点を許す場面もあったが、富樫やクリストファー・スミスを起点に食らい付き、力強くリバウンドをもぎ取っては果敢にペイントへアタック。宇都宮の守備陣営が整う前に攻め切る、あるいはペイントタッチからの展開で効果的な3Pを射抜くなど、良いときの千葉Jが1Qから見られていた。
前半を終えて54-39と千葉Jがリード。2桁のリードで宇都宮戦を折り返したのは、今季初のことだった。また、今季平均失点リーグ1位(69.2)の宇都宮に対して、前半だけでこれだけ得点できたことも大きかった。
しかし、宇都宮がここで折れるわけもない。3Qは攻防でギアが上がり、千葉Jは開始から約3分間無得点。さらに4Q開始早々にはニュービルとギャビン・エドワーズに立て続けに3Pを決められるなど、最大19点あったリードを5点まで詰められた。
アリーナの雰囲気が最高潮になりかけたそのとき、富樫のショータイムが幕を開ける。まずは、ジョン・ムーニーへのアシストで点差を2桁に戻すと、残り5分に得意の右45度からプルアップスリーを沈め、13点差(75-62)。さらに、オフィシャルタイムアウト明けの残り3分31秒。今度は同じ位置でボールを受けるとポンプフェイクで相手を跳ばせてサイドステップスリー。78-64。さらに残り1分25秒にはアイソレーションから比江島慎越しにまたも右ウィングからプルアップスリーを射抜いてみせた。
合計24得点、3Pは6/10の高確率。これぞ富樫勇樹という勝負どころでの大爆発だった。
逆境のシーズンがもたらした
各選手のステップアップ
「今季は常に誰かがケガや病気で抜けている印象はありました。でも、それによってチャンスをもらった選手が何とかつないで成長して、CSの舞台に立てています。それはチームとしての成長の一つだと思いますし、今日の試合は自分のシュートが入ったことももちろんですが、ディフェンス、オフェンス共にチームとして戦うことができました。僕のシュートも入りましたが、チームとしてつかんだ勝利だと思うで、すごくうれしいです」富樫は大きな1勝を喜んだ。試合を見ていた方の多くが、富樫に試合を決められた印象を持っただろう。だが、スミスの20得点や共に2桁得点と体を張ったペイントの攻防で奮闘したゼイビア・クックスとジョン・ムーニー、そして効果的な3Pを決め切った金近廉やニュービルのマークを任された内尾聡理に小川麻斗、ベテランらしい要所のプレーで貢献した西村文男、原修太、アイラ・ブラウンら出場選手がそれぞれの持ち場で活躍したからこその勝利だった。
特に若手選手を重要な局面でも起用できるようになったのは、今季の大きな収穫だ。富樫やジョン・パトリックHCは常々、若手に経験を積ませることを重視する発言をしており、東アジアスーパーリーグ(EASL)や天皇杯での優勝が、若手にとってもチームにとっても貴重な“経験”として蓄積された。特に、内尾と金近はキャリアで初めて宇都宮のホームでのプレーとなったが、2選手ともに堂々としたプレーを見せられたのは、シーズン中からビッグゲームを数多く経験してきたからこそだろう。
金近ら若手にも積極的にアドバイスを送る
絶対的な柱であり、1人で試合を支配してしまうほどの力を持つ富樫。そこに経験豊富なベテランと、心身ともに飛躍的に成長した若手が厚みをもたらした。
「今年に関してはいつもよりもプレッシャーを感じていないというか。シーズン始まった当初は『今年はCSに出られない』と言われてきましたが、何とかCSに出られました。EASLや天皇杯で優勝した経験は、勝率以上の自信をチームに与えてくれたと思います。最高勝率の宇都宮相手にアウェイでどう戦えるのかすごく楽しみでした」(富樫)
2つのタイトルを取ったという意味では千葉Jは追われる立場だが、レギュラーシーズンの成績という観点で見れば、彼らはワイルドカード下位の第8シード。チャレンジャーだ。しかし、経験と自信を持った千葉Jは、最も危険な第8シードだろう。本日の第2戦は、さらなる死闘になりそうだ。
記事提供:月刊バスケットボール