“まるでバスケ少年”富樫勇樹のメンタリティ「少し変な言い方なんですけど…」過密日程も千葉J衝撃2冠
◆■ 琉球圧倒「全員が楽しそうにプレーできました」
3月16日、「第99回天皇杯 全日本バスケットボール選手権大会」の決勝戦がさいたまスーパーアリーナで行われ、千葉ジェッツが試合開始直後からプレッシャーディフェンスを軸にリズムをつかむと第2クォーター以降はエンジン全開。後半は30点台のリードを長い時間帯で維持する展開に持ち込み、117-69で琉球ゴールデンキングスに完勝し、大会2連覇、通算5度目の天皇杯制覇を果たした。
「チームとしてこのような試合をできたことは自信になりますし、選手全員が40分間を通してやるべきことができ、全員が楽しそうにプレーできました」
20得点8アシストで大会MVPに選ばれた富樫勇樹は、こう振り返った。千葉J完勝の最大の要因は試合序盤からプレッシャーをかけ続けたチームディフェンスといえるが、攻撃面でもチーム合計で27アシスト、5選手が2ケタ得点をマーク。富樫自身が求めてきた千葉J像を体現できたことに満足感を表したが、富樫がその牽引車としての役割を果たしたことは間違いない。
緩急自在の一対一の仕掛けからのプルアップ3ポイント、積極的なゴールアタックで琉球を翻弄していく。3ポイントは9本の試投で6本成功、ドライブ系のプレーはリングにボールが嫌われる場面も続いたが、そのたびにジョン・ムーニーらのインサイドプレーヤーが体を張ってフォローし、ボールをリングにねじ込んだ。
小川麻斗とダブルガードを組む時間帯では、SG的なポジショニングでオフボールの一対一を通してチーム全体のスペーシングに影響を与え、琉球ディフェンスを翻弄した。
◆■ 過密日程も驚異的なパフォーマンス
それにしても、である。富樫はどれだけコート上にいるのだろう。
この1年に限ってみても、隙間のないスケジュールを走り続けている。昨シーズンは琉球に敗れはしたものの、Bリーグチャンピオンシップファイナルまで戦い、終了直後からはワールドカップ日本代表として戦い、そして休む間もなく今シーズンに突入した。
Bリーグの公式戦はここまで全42試合に出場し1試合平均プレータイムはリーグ6位の32分11秒。Bリーグの公式戦と並行して組み込まれた海外チームとのホーム&アウェー形式の東アジアスーパーリーグ(EASL)も準決勝・決勝含めて8試合戦い、欠場したのはファイナル4に進出決定後の予選リーグ1試合のみである。さらに2月下旬には、日本代表としてアジアカップ予選で2試合を戦い、中国戦での歴史的勝利に貢献している。
今シーズン序盤、千葉Jは主力の戦線離脱、外国籍選手の入れ替わりもあり、「これまでにない苦しい展開」(富樫)が続いていた。タフな日程、苦しいチーム状況の中でも30分以上プレーし続ける富樫に、肉体的な疲労について問うと、「いきなり(1試合)30分出ろと言われているわけではなく、30分強プレーする体になっているから(肉体的な疲労は)ない」と前置きした上で、こう続けた。
「やっぱり最後、チームが勝つか負けるか。何分出ても勝って終われば疲れはないし、負けて終われば疲れを感じる。僕にとっての疲労は、そうした精神面の部分です」
◆■ 富樫勇樹を突き動かす原動力
2024年に入ると主力の顔ぶれが揃い、小川や金近廉ら若手の奮起が少しずつコートに表れ始めると、千葉Jは連勝街道を突っ走った。
2月14日の天皇杯準決勝・対宇都宮ブレックスでは試合開始から0-16のランを許しながら、心身ともに相手のプレッシャーに引けを取るチームメートを鼓舞するべく、富樫は第1クォーターから点差に関係なく積極的に攻め続け、大逆転勝利の火付け役となった。
天皇杯決勝の1週間前にはフィリピン・セブ島でEASL制覇を果たし、MVPにも輝いた。
今、改めてBリーグ、天皇杯、EASL、日本代表戦と質の異なる試合が混在する中、プレーし続けられる秘訣を問うと、「少し変な言い方なんですけど」と微笑しながら、こう答えた。
「もちろん真剣にプロ選手として責任を持ってコートに立っていますけど、心の大きな部分では、楽しくプレーしています。小学生の時に公園に遊びにいくような気持ちをまだ持てているので、シンプルに自分の好きなこと、楽しいことができていることが大きいと思います」
残るはBリーグ制覇のみ。もし頂に辿り着けば、チーム史上初の天皇杯&Bリーグ2冠、EASLを含めれば“3冠”となる。富樫にとって、チームの成長を実感できた天皇杯制覇は、何よりの大きなモチベーションとなる。
Bリーグ後半戦、「公園に遊びに行くような気持ちで」どんなプレーを見せてくれるのか。目が離せない。
取材・文=牧野豊