2024.02.15
ファジーカスの12年すべてを見てきた川崎・吉岡淳平氏が語る「基礎体力、コンディショニングの重要性」
バスケを生活の中心に置いてきたファジーカス
「ニックは “お化け”みたいな存在ですよ(笑)」
川崎ブレイブサンダースでフィジカルパフォーマンスマネージャーを務め、BリーグのSCS推進チームに参画する吉岡淳平氏の言葉だ。2012年にクラブ入りし、今季、現役最後となる12シーズン目(JBL、NBL時代含む)を迎えているニック・ファジーカスは1月10日に左膝を故障。2月7日の茨城戦で復帰を果たしたばかりだが、驚くべきことに昨季までの11年(レギュラーシーズン)で欠場はわずか12試合のみ。冒頭の言葉は、長らくコンディションをキープしてきたファジーカスへの感嘆である。
昨季までのレギュラーシーズンでわずか12試合しか休んでいないファジーカス
ファジーカスは上手さが光るビッグマンだ。見事なステップからフローターで得点したかと思えば、ロングレンジまで決められる力もある。得点源となれる一方でリバウンドやブロックなどディフェンスでも計算できる。何より休むことなく試合に出続けてくれるのだから、これほどありがたい選手はいない。ハードワークを続けてきたファジーカスはレギュラーシーズンMVPを2度、リーグベスト5を6度、天皇杯大会ベスト5を3度受賞しており、B1では史上初となる通算9,000得点(2023年12月2日達成)、通算4,000リバウンド(2023年4月12日達成)という記録も作っている。2018年に帰化を果たすと、日本代表として同年のFIBAワールドカップで活躍。川崎のみならず日本バスケのレジェンドと呼ぶべき存在である。
なぜこれほど長いキャリアを築けているのか?
その秘訣を聞くと、ファジーカスは「アイスバスが大切なんだよ(笑)」と前置きし、「練習量はもちろん、自分のコンディションをいかに整えるかをできるだけ考えて実践すること。そして自分が一番の選手になれるという集中力を持つことが大事だ。幸いなことに、ずっと健康だったことも長い間プレーしてこられた大きな要因だと思う」と答えてくれた。
話を聞く中で感じるのは、ファジーカスが生活の中心にバスケを置いているということだ。「私はそこまでトレーナーの世話になることはなかった。身体をしっかりアイシングし、自分でフィジカルについてリサーチをして実践するなど、プロ選手としての意識を常に高く持っていた。例えば東京には楽しいスポットも多いけど、私は観光客として来たわけではない。オフの日はしっかり体を休め、なるべくリカバリーに努めている。足を上げて座ったり、しっかりリラックスしたりね。そういうことが大事なんだと思うよ」。
また若手選手へのアドバイスを求めると「この世界ではやったことが自分に返ってくるんだ。バスケは国際的なスポーツだ。だから自分が寝ている間も、どこかで誰かが懸命に練習している。朝起きたら、上達のためにできることは何か? どれだけ努力しなければならないかと考えてほしい。その中で何ができるのかが大事になってくると思う」。それは、ここまで自らが続けてきたことに違いない。
ファジーカスの12シーズンを誰よりも知る吉岡淳平氏
吉岡氏「まず身体を作ること。その上で武器を持つことが大切」
そんなファジーカスの12年をそばで見守ってきたのが吉岡氏だ。彼がいかにバスケに情熱を費やしているのかは、その立場ゆえに誰よりも理解している。「自分のパフォーマンスを上げるための練習を誰よりもやっています。練習が終わった後もルーティンのようにハードなシューティングを行っていて、必要だと思う日にはアイスバスに入るなどセルフ・コンディショニングを怠らない。常に色々なことを学び、トライしていますし、それだけの余裕がある。本当に時間をムダにしません。それだけストイックな姿には、多くの選手たちも影響を受けています」。高いプロフェッショナリズムを持って実践してきたファジーカスは、いかに基礎的な身体作り、コンディショニングが重要かを示す好例。それこそ、吉岡氏が最も重要視するものである。
2009年からクラブに携わっている吉岡氏だが、その前にはサントリーのラグビー部に6年間所属。コンディショニングや身体作りについて高い意識を持つクラブ、組織は、まさにプロフェッショナルで「刺激的だった」と振り返っている。その経験を活かすべく、ブレイブサンダースで吉岡氏はまずトレーニング方法はもちろん、栄養への知識、いかに時間を有効的に使うかというタイムマネージメントなどコンディショニングについてをレクチャー。“もっと自分の身体に興味を持つべきだ”と選手たちをサポートしていった。
吉岡氏はまた男子日本代表の平均年齢はほぼ26~28歳になることを指摘し、「大学卒業から4年間ありますが、選手によっては身体作りだけでその時間が終わってしまうケースがほとんどで、ケガをしたらさらにもったいない時間が増えてしまいます」と指摘。近年は大学チームも栄養やトレーニング、リカバリーといった知識が広がったこともあって、卒業時点で身体ができている選手も多くなってきているものの、ユース世代や大学生には身体作りをしっかりやることで、プロになってからのスタート地点が大きく変わってくると説明する。
Bリーグではレギュラーシーズンだけで60試合ある。その中で連戦も多くタフなシーズンを戦い抜かなければならない。そのためには「基礎体力が大きくないと持たないのです」と言う。「僕は、バスケに特化したトレーニング以前にコンディショニングへの意識がもっと必要だと感じています。コンディショニングという枠の中にはウエイトトレーニングを始めとするトレーニングがあり、栄養やリカバリーなど色々な要素があります。その知識、技術など基本的なものを身に付けることが一番大事で、それに最も時間を費やす必要があると考えます」。ベテランが多い川崎ではすでに細かく指導するといったケースはないものの、ストレングス&コンディションコーチ、アスレティックトレーナー、管理栄養士といったコンディショニング部として重視しているのは、ベースとなる身体作り、コンディショニングだという。
「競技特性上、160cm台の選手が2m超の選手と同じコートで戦うことになります。仮に小さくてもフィジカルというのは、身体の大きさや強さだけではありません。日本代表で言えば富樫勇樹(千葉J)選手や河村勇輝(横浜BC)選手は速さ、クイックネスとシュート力で対抗していますね。選手として活躍するためには、まず身体を作ること。その上で武器を持つことが大切だと思いますし、それがプロアスリート、Bリーガーになれる条件だと思います」。まずは基礎的な身体作り、コンディショニングがベースにある。それができてこそ武器が見つかるということだ。
豊富な経験値を持ち、確かなパスウェイを提示してくれる吉岡氏のような存在は心強い
そういった吉岡氏の知見は、SCS推進チームを通して伝播していくことになる。
「練習コート、トレーニングルーム、ケアルームなどインフラは選手が無駄なく動きやすい環境を作ることが理想です。しかし、Bリーグでもクラブによって環境は異なります。その各チームの環境が、フラットになるようなアイディアを提供していくことがSCS推進チームでの一つの仕事です。すべての選手に安心で安全な環境を提供できるようにしたいと考えています」。そう自身がやるべきことに触れると日本のバスケのためにも、若い層に正しい知識を伝えていく必要があると強調した。
「基本的な知識、技術を早い内から落とし込むことで競技レベルは確実にアップします。そういう意味ではBリーグにはU15やU18という素晴らしい環境があるので個人の成長過程に身合った段階的な身体作りを実施していければいいですね。僕は未来につながるユースこそ、より専門性に長けた方が携わるべきだと考えています。ユースチームともしっかり情報を共有して、Bリーグの強化、日本の強化につなげていきたいと思います」。
豊富な経験値を持ち、確かなパスウェイを提示してくれる吉岡氏のような存在は心強い。その吉岡氏は「僕の勝手な願望なのですが、日本のバスケットを強くするのにちょっとでも貢献したいんです」と思いを語っている。SCS推進チームとして広める知見は、バスケットボール選手を取り巻く環境を向上させていくに違いない。そのような日が来ることが、今から楽しみでならない。
連載第1回
Bリーグだけではない、日本の底上げにも通じうる プロスポーツ初のプロジェクト「SCS推進チーム」
記事提供:月刊バスケットボール