オフェンスの調子を上げ始めた熊谷尚也(アルティーリ千葉)にインタビュー
昨オフのBリーグ各チームの戦力補強の中でも注目を浴びたニュースの一つに、B1の強豪川崎ブレイブサンダースからB2のアルティーリ千葉に熊谷尚也が移籍という話題があった。昨シーズンB1昇格にあと1勝届かなかったアルティーリ千葉が、今度こそという思いをにじませたような補強だ。その後9月10日に、アルティーリ千葉が川崎を相手に最初のプレシーズンゲームを戦った際には、熊谷はさっそくスターターとして登場し、早々に得点を記録するなど活躍。ファンはいっそう期待を膨らませたことだろう。
2023-24シーズンが開幕して以降、序盤戦における熊谷のパフォーマンスは特にオフェンス面でいま一つ上がり切っていなかったが、ここにきて本来の姿を見せ始めたように感じられる。11月25日・26日に千葉ポートアリーナで行われた新潟アルビレックスBBとのホームゲームでは、2試合で13本中8本のフィールドゴールを決めて平均10.0得点(3Pショットも5本中2本成功)。実は週末の2試合でアベレージが2桁になったのは、開幕節のバンビシャス奈良戦(平均13.0得点、フィールドゴール成功率50.0%、3P成功率33.3%)以来のことだ。
チームは新潟から二つの白星を挙げて連勝を7に伸ばし、ここまでリーグ最高となる15勝2敗(勝率.882)の成績で東地区首位に立っている。試合の総評として熊谷は、「昨日に引き続き、良いディフェンスをしっかりチーム全体で40分間通して出せました」と話し、連日相手を50点台に抑えたチームディフェンスを勝因として語った。しかし熊谷自身の個人的な感触も大いに気になるところだ。特に、東地区2位の越谷アルファーズとアウェイで戦う首位攻防戦を次節に控えた今、熊谷はこの上り調子をどのように捉えているだろうか。対新潟GAME2後の会話をまとめる。
愛媛遠征で2試合出場がなかった後、新潟戦での熊谷は攻守両面でたびたび好プレーを披露した(写真/©B.LEAGUE)
大塚裕土キャプテンの言葉に救われた
——昨日、今日でフィールドゴールが13本中8本成功。オフェンスの調子はどんな感触ですか?
自分の中ではあまり良いオフェンスができていないなという印象がここ数試合ありました。オープンショットを決めきれていないシーンもありましたし、前のゲームも簡単なところで得点につなげられなくて、自分の中ではパフォーマンスがとても悪いと感じていました。
昨日もイージーを落としましたし、アウトサイドのオープンショットも落としているので、決めきるというところはまだまだ。ただ、チームとしてボールと人が動いている中で、チームのショットだと思っているので、そこはぶれずに思い切りよくシュートを打っていきたいなと思っています。
——アルティーリ千葉のスタイルに対するフィット感の問題ではないんですね。
そうですね。チームのオフェンスは夏からやって来て、その感覚については手応えを感じています。あとはそれを決めきるだけ。今日みたいにカッティングからの得点というのもアルティーリらしさだと思うので、そういうところを今後も続けていきたいと思っています。
——2週前の山形ワイヴァンズ戦ではなかなか得点を決められず、少し落ち込まれていたような印象も受けました。大塚裕土選手が「今のミスショットは、これからに向けて貯金していると思えばいいんじゃないかと声を掛けました。もともと3Pシューターじゃないところで頑張ってくれていますしね」と話していましたよ。
そうですね(笑) あの試合でベンチに帰った時に裕土さんにそういってもらって…。ただその時はもう悔しさの方が勝っていたので、「いや、そんなポジティブに捉えられないよ…」みたいなマインドでした。でもあの言葉があったおかげで、なんというか、もっと気楽にやろうというマインドになりましたし、あの後スタッフ陣やアシスタントコーチの方々にも「どんどんアタックしていいよ」と言ってもらっています。落ち込むのはその時だけにして、もうしっかりと切り替えて次のプレーに集中しようとマインドを切り替えられるような言葉をもらえました。
——先週末の愛媛オレンジバイキング戦は2試合ベンチで、心配していたファンもいたようです。アンドレ・レマニスHCは、「チームから期待されている内容を理解してもらえれば問題はありません。オフェンスの調子が悪かった間もディフェンスは良かったし」という話をしていましたが、そのあたりはどうですか?
まだ波があると思っていますけど、今日のニューカーク選手(新潟のポイントガードを務めるジョシュ・ニューカーク)をはじめ、対戦相手の外国籍選手にマッチアップしたりというのをチームから任されているので、そこは自信をもってやっていきたいと思っています。
アルティーリ千葉の本当に激しいディフェンスの中で、まだ少し、ここはどうしたらいいんだろうというところもあります。でも、チームとコミュニケーションをとりながら少しずつ良くなっていっている感覚がありますし、戸惑いとかもありません。オフェンスと同じでディフェンスも思い切りよくすることが大事だと思っているので、あまり考えすぎずにやっていきたいです。
——最後に、リュウ・チュアンシン選手(24日にチーム入りが発表された身長226cmのビッグセンター)と一緒にやってみてどんな感触だったかも教えてください。
今週初めからリュウ選手が合流して、まだ数回しか一緒に練習をできていないんですけど、存在感は抜群にありますね! ゴール下を今まで以上に任せられます。もちろん、AD、DP、B(順にアレックス・デイビス、デレク・パードン、ブランドン・アシュリーの外国籍トリオ)もゴール下で頼りになる選手ですけど、さらにリュウ選手が加わってその頼もしさが強まりました。彼はゴール下にアシストできる器用さもあるので、アルティーリのバスケットにフィットするのが楽しみだと感じています。
正面に見えるのがリュウ・チュアンシン。新潟のジョシュ・ニューカークに対し熊谷がリュウとダブルチームをしかける場面だが、このディフェンスの圧は相当なものだろう(写真/©B.LEAGUE)
ディフェンスでの奮闘がオフェンスを勢いづけ始めた
この週末の2試合で、新潟のポイントガードを務めるジョシュ・ニューカークはアルティーリ千葉のペリメーター・ディフェンスに多いに苦しんだ。どちらの試合も10得点を記録したものの、フィールドゴール成功率は27.2%(22本中6本成功)。何よりターンオーバーを両日とも6つずつ犯してしまったことは、プレーメーカーとして屈辱的だったに違いない。そうさせた要因の一つが、ベンチから登場してプレッシャーをかけ続けた熊谷の存在だった。
GAME2の第2Q残り1分を切ろうという場面で、熊谷が自らのミスでニューカークにボールを奪われた場面があった。しかしその直後、カウンターブレークでニューカークのイージーレイアップかというところを熊谷は豪快なチェイスダウン・ブロックで阻止し、5,027人の大観衆で埋まった千葉ポートアリーナを大いに沸かせた。振り返ればこのプレーは、多少ミスがあっても引きずらずにディフェンスで奮闘すれば、それを糸口にオフェンスも改善していけることを象徴しているように思える。
ご覧の通りのウイングスパンと豊富な運動量は熊谷の大きな武器。クイックネスに長けた外国籍ガードにもビッグマンにも対応できる(写真/©B.LEAGUE)
レマニスHCは、次節の越谷戦で相手の得点源となるだろうLJピークとのマッチアップも想定して、熊谷のさらなる奮闘を期待するコメントもしていた。10月21日・22日の2試合では、ピークが13得点にとどまった初戦でアルティーリ千葉が勝利し、得点を26に伸ばしたGAME2で越谷が勝っている。越谷の安齋竜三HCが、「LJの得点が伸びないとオフェンスで苦しむ」といった趣旨のコメントをしていたこと、最初の2度の対戦結果がその通りだったことを思うと、今回の対戦では熊谷のディフェンス力も一つのカギだ。加えて、フロントラインの強化が進んだ中で、肩の力が抜け始めた熊谷のオフェンスが好調を持続するかどうか。ファンにとって見どころ満載のビッグゲームがやってくる。