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2023.10.28

チャンピオンシップ・メンタリティーを自問する越谷アルファーズ

  • 月刊バスケットボール

安齋竜三HC兼アシスタントGM体制下での初シーズンを迎えている越谷アルファーズは、開幕から3連勝後にホームでの青森ワッツ戦GAME2とアウェイでのアルティーリ千葉戦GAME1に連敗を喫し、翌日のGAME2でそこまで開幕から5連勝だったアルティーリ千葉に今シーズン初めて土をつけるという、やや波のある序盤戦となっている。第3節を終えた時点での42敗はB2東地区3位。コーチ陣が入れ替わり、ロスターも大型補強をして臨んでいる今シーズンのスタートとして、決して悪くはない。しかし最高でもない。果はたしてこの先どのような戦いを繰り広げていくだろうか。

クラブ史上最多入場者数記録を更新する4,121人という大観衆で埋まった越谷市立総合体育館で、今シーズン初黒星となる逆転負け(最終スコアは77-81)を喫した1015日の青森戦後、安齋HCは「たくさんの方々に見に来ていただいた中で、ホームで勝ち切れなかったのが申し訳ない。その責任は僕にあるので、これを反省として次に繋げていかなければいけないと思っています」と敗戦を総括した。

100点を奪い接戦をしのいでつかんだ前日の勝利(最終スコアは100-95)から一夜明けたGAME2、アルファーズは前半の早い時間帯に2桁点差のリードを築きながら、第2Q以降相手にペースを徐々に持っていかれて、最後に逆転された。安齋HCによれば、実はこの2試合の内容はあまり変わらないのだという。「ターンオーバーと不用意なファウルからフリースローで相手に得点を与える状況や、判断がなかなかできていないというところは今週の練習でずっと課題として出ていました。どうやって変えればよいのか、僕もしっかり考えなきゃいけないと思います」


今シーズン初黒星を喫した10月15日の青森ワッツ戦で、ベンチから戦況を見守る安齋竜三HC兼AGM(写真/©B.LEAGUE)

「今のままではB1昇格はあり得ない」――安齋竜三HC兼AGM

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日の会見における安齋HCのチーム評は、自身の在り方も含め非常に厳しいものだった。敗因には、B1クラブとの対戦が続いたプレシーズンに自分たちが追いかける経験ばかりを重ねてきたために、勝ちゲームを勝ち切る展開に不慣れだったことにも触れ、日程を組んだ自分自身の反省点と語った。また、序盤戦でチーム全般に大きな波があり、クロージングで誰を出すべきかが定まっていないこと、その判断に自身としてもブレがあることも明かしていた。

チームに関しては、自身の哲学をトップチームのレベルで全員に求めているもののその手応えが思うほど得られていない様子だ。「修平(宇都宮から移籍してきた喜多川修平)や祥平(アルバルク東京でB1連覇に貢献したベテランの菊池祥平)が一番多く練習しているのが現状。それを僕が望むカルチャーにどう変えていけるかというところです」。連勝しても余裕などありえない。そういうレベルのチームじゃない。いい補強もできて、世間は勝てると思っているかもしれないが、自分の中では一切そんなことはない…。

「今のチームでB1に上がれるなど100%ない。どれだけ毎日フォーカスして努力を積み上げられるか。意識を変えていけるか。それがあれば少し可能性が出てくるぐらいです」。本当に厳しい言葉が次々と飛び出した。「勝っていくチームはやり続けている。昨シーズン中の長崎(ヴェルカ)も佐賀(バルーナーズ)も、ずっとやり続けているなというのを感じていたんですが、それがこのチームにはなかった。本当に全然強いと思っていないです。それを強いチームにしていくために、僕自身もどう頑張っていくかという状況です」

翌週対戦するアルティーリ千葉戦の印象などを質問しても、この日の安齋HCはいつの間にか青森戦での自分たちの振り返りになっていた。「強さ的には相手(アルティーリ千葉)が上。そこに対して僕らはチャレンジをしていかなければいけないチームなのに、今日もやっぱり全然チャレンジしている時間が少なくて」。青森戦を控えた一週間の練習では、普通にやっていれば勝てるだろうという感覚が伝わってきたという。これではどこと戦っても結果は同じ。それが安齋HCの思いだった。

勝ち癖がネガティブな作用として働いている?

アルファーズは直近3シーズン連続でレギュラーシーズンを勝率5割以上で終えており、昨シーズンはB2全体2位タイの4515敗(勝率.750)だった。ただ、プレーオフ・クォーターファイナルでは、レギュラーシーズン序盤に苦しみ勝率が5割に届かなかった西宮ストークス(現神戸ストークス)とのホーム3連戦を12敗で落として、シーズンを終えている。

成績としては十分昇格を狙える力を示していながら、現実は結果がすべてを物語っている。しかしこの現状認識に落とし穴があるようだ。間違いなくアルファーズは負けた。にもかかわらず、勝ち癖がついているのだ。近年の好成績がネガティブに作用してしまっていることを、「それがずっとですね。このチームの特徴だと思います。それをどう脱出していけるか」と安齋HCも認めている。

安齋HCの考え方を熟知している喜多川は、チームの意識の持ちようについて以下のように語った。

「昨シーズンの成績は良かったですけど、中に入って思うことは、勝ちたいという思いは持っているけれど、チームになれているようでなれていない部分があるということです。言葉にするのが難しいですが、一つの目標に向かう全員が外れないようにしなければ。例えば、ミスが続けばチームがしゅんとしてしまいますし、違うことを考える選手が出てくると思うんです。それでも、よい時も悪い時もチームなので、そこでどれだけ自己犠牲を払ってやれるか、それを皆が理解して作り上げていくのが大事だなと思っています」。それは試合だけではなく、質の高い、強度の高い練習の継続で作り上げていくものなのだと喜多川は言う。

転機としたい宿敵アルティーリ千葉からの勝利


爆発的な得点力を持つLJピーク。10月22日のアルティーリ千葉戦ではゲームハイの26得点で勝利に貢献した(写真/©B.LEAGUE)

3節で戦ったアルティーリ千葉は、アルファーズにとっては宿敵とも呼ぶべき相手だ。昨シーズンの対戦成績は33敗と互角で、最終節に東地区王座とB2最高勝率をかけて対戦した。お互い隣県のクラブ同士でもあり、両ホームタウンでファンの行き来も活発に行われている。そのライバリーの発展自体、非常に興味深く意義深いものといえるだろう。

そんな相手との対戦を控えた第3節までの練習は、前週よりもずっと密度の濃い練習ができたと安齋HCは話した。それでもアルティーリ千葉とのGAME180-87の黒星。しかも、チームの強みであるはずのリバウンドで29-44と圧倒され、その二次的産物であるファストブレークからの得点で8-22と圧倒されるという悔しい負け方だった。

ただ、最大13点差のリードを奪われながら粘って追い上げることができた点は前向きな要素だったし、50%を割ったフリースロー成功率がもう少し高ければ勝負はわからない展開であったのも事実だ。その粘りは翌日のGAME2での勝利につながる。89-71の白星で、連敗は2で止まった。「昨日あまり良いところが出せなかった部分も(今日は)しっかり出せたのかなと思います。アルティーリさんは本当に強いチームなので、そこに対してそういうゲームができたというのは自信にして良いのかなと思います」。安齋HCの「自信」という言葉に、チームの前進が感じられる。

前日からの修正点は意識の持ち方に尽きた。真に強いチームなら、無意識のうちに意識すべき姿勢が行動に現れる。まだまだの状態とはいうものの、この日はそれが40分間できたのだという。数字的に見れば、前日圧倒されたリバウンドで49-34とアドバンテージを奪い、セカンドチャンスでの得点では29-6と圧倒していた。ここをベースにして、意識しなくても毎回の練習でも毎度の試合でも継続し、40分間徹底していきたい。

戦い方に関しては、「LJ(ピーク)の得点が伸びないときに勢いがなくなっていく」ことへの対策が一つの課題だというが、それも含めてこの日の安齋HCは、チームの伸びしろを良い意味で語る言葉が多かった。新加入の笹倉怜寿も意識で変えられる部分について「コーチ陣が準備して僕らがコートで発揮することの中にあるのは1日、1秒、瞬間で変えられることばかり。今日はそこを意識して試合に入り、それをうまく出せて良かったと思います」と語っている。

この試合では新戦力のLJピークがゲームハイの26得点を挙げ、既存戦力のアイザック・バッツが13得点に21リバウンドのダブルダブル。長谷川や二ノ宮康平らもここぞの場面で好プレーを見せ大きな力となった。「そこが僕の期待していたところ」と安齋HCは話した。


アルティーリ千葉戦勝利でのアイザック・バッツは、得点とリバウンドのダブルダブル。しかし実はオフェンス・リバウンド10、ディフェンス・リバウンド11で隠れたトリプルダブルを記録していた(写真/©B.LEAGUE)

「アイク(バッツのニックネーム)は昨日の悔しさもあって、今日は出だしからアタックモードでした。二ノ宮、長谷川はプレータイムもどんどん少なくなってしまっていて 、本人たちに悔しさもあるでしょう。自分のプレーが出せていない一方で、チームをベンチからまとめるっていうすごく重要な仕事はやってくれている。今日はチャンスにしっかりと自分のプレーを遂行する役割を果たしてくれました。二ノ宮はガードとしてコントロールしたし 、智也も、シュートも良かったんですけどリバウンドとかディフェンスをめちゃめちゃ頑張っていた。既存の選手たちがそういうところを頑張れるようになってきたのが、僕はすごく嬉しいです。それに対して新しく入った選手たちがもっともっと伸ばしていくっていうチームになればいいのかなと思います」

チーム完成度は「意識のところは半分くらい」というのが率直な感触だ。その日その日に波があり、勝つと無意識の意識が出なくなる。しっかりできればリーグのトップチームを圧倒するポテンシャルがあるが、できないと正反対に向かってしまう。そんな中で飛び出した既存戦力の奮起は、勝ち切れなかったチームが、内面に染みこんだネガティブな勝ち癖を“解毒”し始めた兆候なのかもしれない。


10月22日の一戦では長谷川智也も短い出場時間ながら攻守に活躍した。既存プレーヤーの奮起が求められる中、価値ある貢献だった(写真/©B.LEAGUE)

チームの仕上がりは「50%くらい」

安齋HCはチームとの関係を、「選手たちの、どうなりたいかっていうのが正直僕もまだそこまで見えていない」と話している。4択の質問――A: このチームでB1に上がって最高峰で勝ちたいのか、B: B1に上がれれば満足なのか、C: あるいはプロとしてのそれなりのキャリアを積むことに主眼を置いているのか、D: それ以外なのか――をしたら、どんな答えが返ってくるか。あるいはどんなパフォーマンスでそれを体現してくれるのか。指揮官としては、ここで答え(思い)を一つにしないと、チームを導く明確な計画が立てられない。答えがAならばまず、「B1のトップチームと同じことをやってもダメなんですよ。それ以上やらないと追いつけるわけがない」という安齋HCの考え方を、全員に浸透させることが必要になるだろう。

現時点でのアルファーズは、それをできるチームかどうかをまだ見極めている状態に思える。「僕がやり始めて崩れることも全然ある。今までのよかったと言える状況からダメになる可能性もあると思っています。それをしないようにどうにか、僕のやり方も変えるか、変えないか。同チームを作っていくかというのがチャレンジです」

上記の4択質問で答えがAならば、語られるのはチャンピオンシップ・メンタリティーということになるが、明らかに安齋HCはそれを語っている。はたしてチームはどうなのか。第3節までの戦いぶりと結果、様々なコメントから、チームもその答えがAだと認識していることは伝わってくるが、それを望まれるレベルで体現することが非常に難しい。


10月22日のアルティーリ千葉戦勝利後の安齋HC(写真/©B.LEAGUE)

「その意識を選手たちにどれだけ植え付けていくことができるか。やり続けていかないと良いチームにはなれません。まだまだこういうのでは勝てないっていうことを 、今日(アルティーリ千葉戦GAME2)みたいな意識を本当に毎日の練習や自主練習でも常にやり続けて、突き詰めていけば可能性があるでしょう。だから50%くらい。どっちに転ぶかまだわからないです」。安齋HCの言葉には、もどかしさ、自信、意欲、期待、覚悟といった様々な思いや感情が現れていた。

※越谷アルファーズは10月24日に、あらたに小寺ハミルトンゲイリーという経験豊富でフィジカルな身長206cmのビッグマンをロスターに加えることを発表した。今後の戦いぶりが非常に楽しみになる補強だ。翌25日には、その小寺のデビュー戦となった新潟アルビレックスBBとの試合に99-70に快勝を収めている。