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Bリーグは高まる地震リスクにどう備えるか? アルバルク東京が有観客避難訓練を実施

2025.04.24

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【(C) B.LEAGUE】

 

高まるリスクと新アリーナ開業に向けたアルバルク東京の“備え”

「3,678」これは2024年に日本で発生した震度1以上の有感地震数(気象庁発表)である。近年、観測地点が増加していることを考慮すべきではあるが、有感地震は2022年が1,945回、2023年が2,237回と2年連続で増加した。また今年1月には、政府の地震調査委員会が南海トラフ地震の発生確率を「80%程度」に引き上げたことは、大きく報じられている。“程度”という表現が表しているように、地震の予知はできないのだから、アリーナでバスケを見ている時に発生するかもしれない。そんな時にいかに避難誘導し、命を守るべきなのか。その備えとして、アルバルク東京が行ったのは“訓練”だった。アルバルク東京は3月30日、有明コロシアムで行われたファイティングイーグルス名古屋戦後、クラブとして初となる有観客避難訓練を実施した。

「アルバルク東京として、今季はEAPの強化に力を入れています。今回の避難訓練は、その一環です。自然災害はいつ起こるか分かりません。だからこそ、備えておく必要があります。今秋にはホームアリーナとなるTOYOTA ARENA TOKYO(トヨタアリーナ東京)も開業します。その前に一度実施しておきたかったこともあります」。訓練実施の経緯を説明したのは、アルバルク東京の運営担当者である細谷茉生さん(運営企画室 運営・ファンエンゲージメントGrアシスタントマネージャー)である。実はアルバルク東京としては、スタッフのみでのシミュレーションを昨年12月に実施している。その上で実施となったのが、今回の有観客避難訓練だった。

 

 “EAP”とは「緊急時対応計画」のこと。Bリーグでは、2023年7月に命を守る(Safety)、選手稼働の最大化(Condition)、パフォーマンスの向上(Strength)という理念を持つ「SCS推進チーム」を立ち上げ。多分野のスペシャリスト、ブレインがリードする形で、先進的かつ画期的な施策を多く講じてきている。とりわけ重視するのが“命を守る”こと。それは選手だけではなく、来場者の命も含めてのことである。「EAPの強化」を細谷さんが語るように、アルバルク東京では、そのためのシミュレーションを積極的に行っている背景がある。

 

訓練は、避難指示の中心を務めるMCが、流れを説明したうえで開始。そして試合の音声が流れている中で、緊急地震速報が発せられる。ここでMCから、「緊急地震速報が出ました。地震に備えてその場から動かず身を守り安全の確保をしてください」と呼びかけ。同時に各所にいる運営スタッフが拡声器を用いて指示を繰り返した。少し時間を置いたあとMCは「揺れが収まりました。会場内の皆さまはスタッフからの指示があるまでそのまま動かず、お待ち下さい」と案内。スタッフに対して、安全確認と動線確保の指示を出したうえで、「試合の継続についても協議しています」と状況を説明した。その後、試合中止と避難が決定したとして、座席の数字(ブロック)ごとに、観客の避難を促して終了した。

 

訓練をしたからわかる“学びと気付き”

 

【(C) B.LEAGUE】

「今回の訓練で、いくつかの課題や気付きが得られました」と切り出した細谷さんは、「まず、会場で演出用マイクと拡声器の相性が悪く、アナウンスの内容が聞き取りづらい場面がありました。そしてスタッフの動きに関しても、改善点が見えました。退場案内の順番があらかじめ決まっていたこともあり、MCの指示を待たずにスタッフが先に動き出す場面が見受けられたのです。実際の緊急時には、現場の状況に応じて案内が必要となるため、柔軟に対応できる体制の構築が求められます」と課題を教えてくれた。

指示の聞きづらさについては、実際に避難に参加した方からも聞くことができた。Aさんは、「アナウンスが聞き取りにくい場面がありました。また指定されていないブロックの観客が動いたため、(自分が聞こえていなかったのかと)戸惑いました」と明かしている。

 

【(C) B.LEAGUE】

 

一方で、安心感も指摘した参加者もいる。ご家族で参加したBさん一家は「試合中に地震などが起きた際に子どもがパニックにならず安全に避難できるように、方法を知っておきたかった」と参加理由を説明すると、「練習になったし、いざという時への自信が付きました」と続けた。また同様に子どもとよく応援に来るというCさんは、「観客として安全体制を知っておきたくて参加したのですが、安心感につながりました。避難の流れを知れたことで、いざという時の見通しが立ちました」と価値ある経験になったと表現した。

 

【(C) B.LEAGUE】

細谷さんは「避難方法は、会場の特徴によっても変える必要があります。今回は外に避難を促して終了としましたが、湾岸エリアにあるTOYOTA ARENA TOKYOで大地震が起きたら、津波の可能性もあるため、外への避難が正解とは言えないケースがあります。また1万人という来場者になっても、しっかりと導かなければなりませんし、ドクターの方から指摘されたトリアージ*を行う場所についても考えなければなりません。これで完璧という答えはない分野です。今回の気付きも踏まえて、消防や警察の方にもご意見をいただき、新アリーナの計画を進めるチームと連携してより良い安全対策を図っていきたいと思います」と強調した。
*=緊急時に負傷者の重症度や緊急度に応じて治療や搬送の優先順位を決めること。

アルバルク東京としては初の試みとなった有観客での避難訓練だが、Bリーグ全体としては昨年1月、名古屋ダイヤモンドドルフィンズが先んじて行っている。今回の避難訓練では、その名古屋ダイヤモンドドルフィンズ、そして東京ドームで有観客避難訓練を行った読売ジャイアンツ(プロ野球)の方から聞いた意見を反映したという。

細谷さんは「ご意見は非常に心強いものでした。安全体制をなるべく高めたいというのは、どのクラブも考えていることです。EAPも含めて学びや気付きをBリーグ全体で共有していけたらいいなと考えています」と知見を共有したいと言及している。

「訓練を行ってよかったと強く感じました」という細谷さん。訓練をこなすことでより多角的な視点となって死角が小さくなることは間違いない。名古屋Dが先陣を切り、アルバルク東京もそれに続いた。安全への取り組みに終わりはない。今回の知見を活かし、さらに改善を重ねていく地道な努力こそが、未来の安全を築く礎となる。

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