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第4回 B.LEAGUE×まちづくり委員会~琉球ゴールデンキングスとベルテックス静岡、佐賀県による事例紹介~

2025.03.18

クラブ

今、日本各地に『夢のアリーナ』が次々と誕生しようとしていますが、議論はなされているものの具体的な形は見えていません。「B.LEAGUEのクラブがあり、そこにアリーナができることで街をどう変えていけるのか」をテーマに、スポーツがまちづくりに果たす役割を整理し、可能性を示すだけに留まらず、どう実行していくのか、どう継続させていくのかを明確にしていくことを目的に組成された「B.LEAGUE×まちづくり委員会」の第4回が開催されました。

 

2月13日に行われた第4回では、「アリーナを核としたまちづくりグラウンドデザイン」をテーマに、琉球ゴールデンキングス、ベルテックス静岡、佐賀県による事例紹介と、それに対する討議が行われました。

 

 

 

■沖縄アリーナを成功に導いた、ハードとソフトの一体的運営

 

琉球ゴールデンキングスの沖縄アリーナは、2023年のFIBAワールドカップの舞台となり、日本各地に昨今作られるアリーナのモデルケースとなっています。琉球はクラブ立ち上げから2年目で黒字転換、3年目から会場が満員になる試合も出始め、次のステージとして『夢のアリーナ』を見据えるようになりました。アリーナ建設が簡単ではない中で、転機となったのが2014年に当時の沖縄市市長、桑江朝千夫氏が掲げたアリーナ構想でした。

2014年時点で沖縄を訪れる観光客は約700万人。いずれ1000万人を越えるのが確実視される中で、沖縄市は歴代の市長が様々な施策を打っていても、県の経済も観光客数も伸びる一方で置いていかれる『通りすがりの街』でした。そんな沖縄市が打ち出したアリーナ構想に、ホームアリーナを固定して次のステージに進みたい琉球の思惑が合致し、琉球は沖縄市をホームタウンとしました。

それまでも離島を含めた沖縄各地で様々な取り組みをしてきた琉球は、沖縄アリーナの建設が決まった2015年の時点でホームタウン宣言をして、アリーナができる前から沖縄市での地域活動に注力してきました。

その一つが沖縄市の商店街と連携であり、キングスのロゴが入ったのぼりや提灯を設置し、店の従業員がキングスのオリジナル背番号入りのユニフォームを着て働く『キングス商店街』です。ホームゲーム開催日にはアリーナへの無料シャトルバスの発着地を商店街に設置。アリーナ来場者の試合前後の消費活動を促進し、経済振興を図りました。他にも琉球が2014年に行った地域活動は268回で、沖縄で『おおきなわ』を作っていく活動を広げています。

琉球の仲間陸人取締役は、「それまで観光名所のなかった沖縄市にアリーナができたことで、街に今まで見ることのなかった日本人の観光客が訪れるようになっているのが一番の変化です」と話します。

大事なのはハードとソフトの一体的運営。「アリーナを運営していて思うのはソフトの重要性で、僕らがここまで来れたのはコンテンツがあったから。その逆がいわゆる『ハコモノ行政』です。生きていく建物にしていくには、特に地方では常駐コンテンツが大切で、コンテンツとアリーナをしっかり整備することが大事だと思います」

沖縄アリーナの指定管理者は、琉球を運営する沖縄バスケットボール株式会社の子会社であり、その活動はキングスの試合運営だけではありません。コンサートや格闘技、コンベンションの運営も行い、2024年末には大相撲沖縄場所を自主興行として開催しており、この時は協賛を募ったりチケットを販売するところまで含めて、成果を出しています。

そしてキングスも、沖縄アリーナに腰を据えたことで大きな成長を果たしました。2021年の沖縄アリーナ開業から、チケット売上は2021-22シーズンの7.8億円から10.1億円、12.1億円と大幅に伸びています。チケット収入で10億円超えはB.LEAGUEでは琉球のみで、Jリーグを含めてもトップクラスに入ります。2022-23シーズンのリーグ初優勝などチームも好成績を出しています。『夢のアリーナ』を活用してまちづくりを意識し、好循環を生み出すことができています。

 

 

■ベルテックス静岡がもたらしたい「非日常の熱狂、求心力、ワクワク」

 

ベルテックス静岡からは、松永康太代表から2030年着工予定の静岡アリーナと、それに絡めたまちづくりの発表がありました。

新幹線停車駅である静岡駅の1つ隣、東静岡駅直結の静岡県が保有する2.5Haの土地に、官民連携事業方式で8000人から1万人収容のアリーナ建設計画が進められています。自分たちを『後発組』と称する松永代表は、『スポーツで、日本一ワクワクする街』というビジョンを掲げて、行政サイドや地元ステークホルダーと接してきました。ここからは地方都市の課題、静岡市の現状分析とともに、今後どうアリーナを核としたまちづくりのグランドデザインに取り組みます。

「静岡にはまだワクワクが足りません」と松永代表は言います。「気軽にスポーツを楽しめる場所が街中にあって、週末には仲間と試合観戦で盛り上がることができ、いくつになっても身体を動かすことを忘れない人たちがいて、地元のチームを応援しながら『いつか自分も』と夢見る子供たちがいる。選手だけがプレーヤーではなく、スポーツを愛する一人ひとりを巻き込んで静岡を盛り上げていきたい」

そんなグランドデザインを作るために、まだアリーナ建設がどう進むか分からない時期からワークショップを行ったり市長ともまちづくりを語る場で街の人々から意見を集め、4000から5000の声を集約して「未来の静岡はどうなってほしいか」を、バスケットボールの要素以外のところから進めました。

「バスケが一丁目一番地なのは間違いないのですが、そこからいろんなワクワクを届けたい」というのが松永代表の考え方。静岡の食文化は誇れるものだから、とアリーナグルメにこだわり、他にも健康やヘルスケアといった分野にも力を入れています。

静岡は首都圏から1時間で来ることができ、都市としては暮らしやすいサイズ感で、自然に恵まれ気候も温暖。様々な意味で恵まれた土地柄ですが、現在65万人の人口が2050年には49万人になり、0歳人口は2600人になると予測されています。「暮らしやすいけど人を惹きつける求心力に欠ける。日常の暮らしやすさはありますが、非日常の熱狂、求心力、ワクワクが足りない。今の大人たちが本気で考えなければいけない」と松永代表は言います。

全体予算や事業者が決まって、これから具体的な『夢のアリーナ』の形が見えてくる時期、松永代表はコンセプトがブレないよう声を上げ続けるつもりです。

先行する例を参考にできるのが後発組のメリット。松永代表は自分自身のベンチマークをエスコンフィールドだと言います。「野球場であることが中心ではなくて、テーマパーク化をしっかりやっているから。365日ずっと人で溢れるようなコンセプトワークから周辺の不動産開発まで含めたまちづくりが素晴らしいと思います」

新しいアリーナができた時には、B.PREMIER参入も見据えています。「まだ4年か5年ありますので、しっかり取り組んでいきます」と松永代表は力強く語りました。

 

 

■SAGAアリーナを核としたまちづくり

 

2024年、国体は『国スポ』(国民スポーツ大会)に生まれ変わりました。その始まりの地が佐賀県でした。2014年に国スポの開催地が佐賀県に内定したのち、2016年にアリーナ構想が発表され、その後に佐賀バルーナーズが誕生し、久光スプリングス(現:SAGA久光スプリングス)は本拠地を佐賀に移しました。

佐賀県 SAGA2024・SSP推進局 江島宏副局長は「クラブ先行ではなくアリーナ先行という、全国的にアリーナ建設が進む中では稀なケースだと認識している」と話します。

国スポに向けて施設整備を進める中で、体育とは違う『スポーツ』が持つ価値とは何かを突き詰め、これまでの大会の在り方を根本から見つめ直し、その先に何を実現するかを議論した結果、国スポの開催成功がゴールではなく、『SAGAスポーツピラミッド構想』(SSP構想)を実現するための跳躍点と位置付けました。

国スポのための巨大体育館ではなくアリーナが必要。こうして完成したSAGAアリーナは2025年現在、佐賀バルーナーズやSAGA久光スプリングスのホームアリーナとなっており、スポーツシーンはもちろん、ライブやMICE(会議や展示会)、地元事業者のイベントなどこれまで佐賀では実現できなかった価値を創造しています。

佐賀県はSAGAアリーナをまちづくりにも生かしています。佐賀県は人口約79万人で、高齢化社会を迎えており、車社会なのも特徴の一つ。車への過度な依存に対して『歩こう。佐賀県。』というプロジェクトを実施しており、SAGAアリーナは歩く文化の主要拠点としてウォーカブルな施策を展開しています。

サンライズストリート(佐賀駅からSAGAアリーナまでの道)を楽しく歩いてもらうために道沿いの神社に寄りたくなる仕掛けを行い、写真スポットとなるオブジェを設置するなどクラブと連携して歩くイベントを開催しました。また、佐賀市と連携して歩道の拡幅や空き家をカフェにリノベーション、休憩スペースとして歩道にベンチの設置なども行っています。佐賀市交通局もイベント時には工夫を凝らし、バスの増便や行き先表示をイベントに合わせた内容にするなど、佐賀県だけではなく佐賀市や佐賀市交通局も一体となって会場に向かう人々に対して飽きさせないチャレンジを行っています。

その結果、SNSを中心にSAGAアリーナや佐賀の街並み、渋滞が起きていないことについてポジティブな発信が多数見られるようになり、佐賀県民の誇りへと繋がっています。

また、サンライズストリート付近の地価も上昇しています。全国的に見ても地価上昇の傾向にはあるものの、サンライズストリート一帯は佐賀県内でも群を抜いて上昇しています。まだまだチャレンジの途中ではありますが、SAGAアリーナを含むエリア全体の付加価値を上げていけるよう、課題解決に向けて取り組んでいきます。

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