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第2回 B.LEAGUE×まちづくり委員会~長野市とシーホース三河、MINTO機構が事例紹介~

2024.12.18

クラブ

今、日本各地に『夢のアリーナ』が次々と誕生しようとしていますが、議論はなされているものの具体的な形は見えていません。「B.LEAGUEのクラブがあり、そこにアリーナができることで街をどう変えていけるのか」をテーマに、スポーツがまちづくりに果たす役割を整理し、可能性を示すだけに留まらず、どう実行していくのか、どう継続させていくのかを明確にしていくことを目的に組成された「B.LEAGUE×まちづくり委員会」の第2回が開催されました。

 

11月18日に行われた第2回では、「スポーツコンテンツの行政施策への巻き込み」をテーマに、長野市、シーホース三河、MINTO機構による事例紹介と、それに対する討議が行われました。

 

 

 

長野市、信州ブレイブウォリアーズでの「KIDS DREAM DAY」(キッズドリームデー)

 

1998年に長野オリンピック・パラリンピックの会場となった長野市は、開催から26年が経過しても残るレガシーを有効活用したいと考えています。松山大貴副市長は、「当時は地域を挙げて開催するもので、長野の人たちの間では地元の企業や市民が一緒になって作り上げたオリンピック・パラリンピックへの自負や愛着が非常に強い」と話し、それを「長野オリンピック・パラリンピックを経験したDNA」と呼びます。

今でも様々なスポーツイベントへの市民参加意欲が高く、ボランティアの募集にも人が集まりやすいなど、長野市ではスポーツが街の中に溶け込んでいます。とはいえ、30歳未満の若い市民にはオリンピック・パラリンピックの記憶がありません。オリンピック・パラリンピックのレガシー、DNAを未来にどう繋ぐのか。ここで「スポーツコンテンツの行政施策への巻き込み」が積極的に行われています。

長野市では、五輪施設で行うプロクラブの興行や選手の活躍を「オリ・パラの疑似体験の場」として位置付け、クラブと連携して子供たちを対象とした施策を強化しています。2022年に「ホームタウンNAGANOまちづくり連携推進ビジョン」の策定を行い、2023年には信州を含む長野市をホームとするプロスポーツクラブ3クラブに出資・増資を行いました。松山副市長もこの時から信州の運営会社である株式会社NAGANO SPIRITの取締役として信州の経営陣に加わっており、行政とプロクラブが施設の貸し借りの関係性を超えた対等な関係で一体となり、政策課題の解決、経営力向上というお互いの目的を実現する関係性を構築しました。

信州ブレイブウォリアーズのホームアリーナであるホワイトリングは、長野オリンピックのスケート競技の会場です。長野市と信州が目指すのは、プロスポーツクラブをハブとしたまちづくり。その一環として行われたのが「キッズドリームデー」です。長野オリンピックの開会式と同じ日、2月7日に長野市内の小中学生5000人を信州のホームゲームに招待し、「学校教育の一環」としての試合観戦を実施しました。

この日は平日開催にもかかわらずナイトゲームではなく13時30分の試合開始。長野オリンピック以来のバス90台におよぶ大移動オペレーションで、この日のホワイトリングには5542人の観客が集まりました。地元テレビ局の長野朝日放送の協力により、この試合は県内全域で生中継され、「キッズドリームデー」の特番も放送されました。この反響は大きく、信州ではそれ以降、ファミリー層の観戦が拡大しています。

松山副市長は「スポーツは行政施策の有効な媒介者であり、幅広い層の住民にとって理解しやすく、コンテンツ力をベースに地域の課題を組み合わせてストーリーと波及効果を描くことができる」と、自分たちの取り組みに手応えを感じています。「キッズドリームデー」は今シーズンも2回開催される予定です。

 

 

シーホース三河「負担付き寄付によるアリーナ建設」

 

シーホース三河はウイングアリーナ刈谷をホームアリーナとしていますが、収容人数が約3000人のため、2016年のB.LEAGUE参戦とともに新アリーナ構想をスタートさせました。当初はウイングアリーナ刈谷の改修や刈谷市内で新規建設を議論するも、具体化には至らず。安城市の三河安城駅に近いアイシン工場跡地に民設民営施設として新アリーナを建設する基本計画を作成しました。その後社会環境の変化を受けて計画変更を行い、2023年に安城市に「建設後のアリーナを寄附」すること(負担付寄附による建設)を申し出、翌年に議会から承認を受けました。現在は工場の解体中で、来年から新アリーナの建設に入り、2028年に開業する予定となっています。

新アリーナは「三河安城交流拠点建設募金団体」によって建設され、アリーナ施設は安城市に寄附され、安城市の所有となります。一方でアリーナの維持管理・運営はシーホース三河が中心となって設立されるアリーナ運営会社に委ねられます。

新アリーナは東海道新幹線の三河安城駅から徒歩4分の好立地で、名古屋駅から普通列車でも約30分の距離にあります。1988年の新幹線駅の開業時に駅周辺の開発が行われましたが、それ以降は停滞していました。「完成したけど成長がない」、「人の動きが見られない」、「発展が頭打ちになっている」というまちの課題解決に、新アリーナが活用されようとしています。

目指すのは、「大きな箱(施設)があって、それをどう使うか」ではなく「多様性、目的に合わせて使い方を変えていける施設」です。365日、地域の住人に使ってもらえる施設に。週末はもちろん、平日も家族単位でふらっと立ち寄れる場所に。そのためにコンコースを広く取り、諸室を充実させ、アリーナ外の敷地も様々な用途で使えるように設計されています。これにより人の流れを生み出す中心になり、三河安城エリアに新たな、そして持続可能な活気をもたらそうとしています。

アリーナを中心に利用する人々の価値を循環させる。「人の行動」を数値化して「見える化」することでサービスに生かす。まちづくりへの貢献だけでなく、名古屋、東海地区を巻き込んで流れを作る。シーホース三河の新アリーナは、明確に「まちづくり」を見据えています。

 

 

MINTO機構「地域を温めて活動できる準備ができたところにアリーナを建てる」

 

MINTO機構(民間都市開発推進機構)は1987年に、当時の建設省の指定法人として設立された財団法人です。国土交通省の様々な支援策を活用することで、民間の都市開発、まちづくりを金融面から支援しており、東京スカイツリーや北海道ボールパーク(エスコンフィールド)を手掛けてきました。

MINTO機構の渡邉浩司常務理事が登壇して紹介したのは、「エリア×人」、「ハード×ソフト」、「公共×民間」という考え方です。高度成長期のまちづくりと、人口減少・高齢社会のまちづくりは全く異なります。大阪を例に挙げると、1970年の万博では、都市の拡大を目的として高速道路や鉄道が整備されましたが、2025年の万博に向けて今は「人が集まる場所」が作られています。

かつては大きな施設を作り、そこに人を集めました。そこで重視されたのは「空間を作ることでどんな機能をもたらすか」でした。しかし、今考えるべきは「人々が活動して、アクティビティがどんな価値をもたらすか」です。

これを渡邉常務理事は「ウォーカブルなまちづくり」と表現します。施設ではなく人が中心の空間で、居心地が良く、まちに出掛けたくなる、歩きたくなる。コンパクトシティであり、持続可能性のあるまちづくり。このようなコンセプトにより、オリンピックでパリが、万博で大阪が再開発されています。

かつての開発は「人口が伸びていく時代」の名残で、建てるお金さえあれば作ってしまおう、ニーズは多分あるだろう、という考え方。しかし、作っても人口が伸びない、まちの中心部が廃れていく状況ではニーズは少なく、たった10年、20年で維持管理ができなくなって廃墟になっていく。そういう案件が批判を浴びました。

渡邉常務理事は「B.LEAGUEのアリーナは建設後に活用方法を模索するのではなく、アリーナを活かしたまちづくりを見据えて地域全体でビジョンや使い方を考えるべき」と提言します。

「今はアリーナを作れば人が来る時代ではありません。冷え切っているところにモノを単体で作っても上手くいかない。ニーズがあるかどうか、ニーズに合っているかどうかだけではなく、地域を温めて活動できる準備ができたところにアリーナを建てるのが大事。そうすると全体が上手く行きます」

MINTO機構はシーホース三河の新アリーナ作りにも協力しています。批判されがちな「ハコモノ行政」とは違う、今の時代に合わせたアリーナを中心とするまちづくりを今後も支援していきます。

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