第一回B.LEAGUE×まちづくり委員会が開催!~茨城ロボッツと秋田ノーザンハピネッツが事例紹介~
今、日本各地に『夢のアリーナ』が次々と誕生しようとしていますが、アリーナやプロスポーツクラブの発展・成長をいかに地域に還元していくかという点について、議論は成されているものの具体的な形は見えていません。「B.LEAGUEのクラブがあり、そこにアリーナができることで街をどう変えていけるのか」をテーマに、スポーツがまちづくりに果たす役割を整理し、可能性を示すだけに留まらず、どう実行していくのか、どう継続させていくのかを明確にしていくことを目的に、「B.LEAGUE×まちづくり委員会」が組成されました。
B.LEAGUE専務理事の佐野正昭は、この委員会についてこう語ります。「リーグが『感動立国』を掲げる中で、クラブをどう後押しできるかを考えてきました。パートナーや国土交通省(まちづくり推進課 官民連携推進室)、経済産業省(サービス政策課)、スポーツ庁参事官(民間スポーツ担当)付といった官公庁、有識者の方々を巻き込んで、フロントランナーであるクラブの課題を解決する道筋を作り、それを横展開する。そのためにまずはこの委員会を組成して、どんな可能性があるのか、何が課題なのかをはっきりさせていきたい」
これから5回の委員会を開催して議論を重ね、来年4月を目途に成果物を取りまとめ、ビジョンマップをアウトプットする予定です。10月30日には委員会の第1回が行われ、茨城ロボッツと秋田ノーザンハピネッツが自分たちの事例を紹介し、識者の意見を聞きました。
茨城ロボッツ・川﨑 篤之代表取締役社長
茨城ロボッツからは「水戸ど真ん中再生プロジェクトと官民共同」の事例が紹介されました。水戸市では、人が交わる中心市街地の衰退とともに「アイデンティティ」が失われています。地元出身の茨城ロボッツ代表、川﨑篤之氏は、自分が幼かった頃に水戸の街に行くということは、「東京と変わらないあこがれの場所だった」と言います。その都市が抱える問題を、地方創生の魁モデルを目指し複数の事業を作ることで解消しようとするのが「水戸ど真ん中再生プロジェクト」です。
水戸市では、「プロバスケクラブをどう活用するか」ではなく、まず最初に地方都市が抱える問題を認識した上で、ビジネスを作り、ビジネスが生まれる空気を作り出してその問題を解消する手段の一つとして、2016年に水戸に移転して来た茨城ロボッツがあったと言います。
茨城ロボッツは「経営に関するヒト・カネ・チエの生態系を創り、社会の創造と変革を行う」グロービスの子会社であると同時に、茨城ロボッツが子会社として株式会社LuckyFM茨城放送(FMラジオ放送)、株式会社M-SPO(まちづくり)、株式会社パブリックアート(映像制作)を保有しています。
その一つ、M-SPOが水戸市と協働して手掛ける「まちなかスポーツ・にぎわい広場」は、商店街の中のデパート跡地を活用した交流施設。簡易アリーナは茨城ロボッツのスクール、ユースの拠点となり、選手も個人練習で活用していて、他にもスタジオやオープンカフェ、芝生広場があって、にぎわいを創出する空間となっています。都市の衰退とともに水戸駅中心部からは子供の姿が消えていましたが、今は茨城ロボッツのスクールやユースにより連日人が集まり、芝生広場や遊具で遊ぶ子どもたちの笑顔や笑い声が聞こえ、にぎわいが戻ってきています。川﨑代表によれば、シャッター街になりつつあった商店街が活況を取り戻し、空き店舗が少なくなってきた状況とのこと。
水戸駅からアダストリアみとアリーナの間のエリアに、水戸市が、茨城ロボッツが、また茨城ロボッツのスポンサー企業がビジョンを共有し、役割分担をしながら事業の集中投資を行うことで、好循環が生まれています。小田木健治副市長もオンラインで委員会に参加し、「バスケを通して何ができるか、アリーナができるから何ができるかというアプローチではなく、まずはまちの課題解決ツールの一つとしてスポーツコンテンツがあり、プレーヤーとしてプロバスケットボールクラブがいる、というのが大きい」と、茨城ロボッツと一緒にまちづくりを進めていくことへの地域の信頼が高まっていることを語りました。
秋田ノーザンハピネッツ・水野 勇気代表取締役社長
秋田ノーザンハピネッツからは、2021年から続けている「こども食堂」の取り組みが紹介されました。秋田県は人口減少率ワースト1位、高齢化率ワースト1位という「課題先進県」。2021年の調査によれば、秋田県内にはひとり親家庭の子どもが1万6689人いる一方で、ひとり親家庭の就労による収入は多くないことが予想されました。
秋田ノーザンハピネッツの水野勇気代表は、「みんな自動車を持っていて、スマホも持っていますし、着るものもちゃんとしています。そう考えると食費が切り詰められているのではないか」と推測し、こども食堂の必要性を感じていました。
ですが、アイデアの発端は秋田ノーザンハピネッツの選手たちに栄養をしっかり取ってもらうための食事を提供する場でした。アスリート向けに栄養のバランスの取れた食事を出す食堂を作ることを考える中で、選手が毎回利用するとは限らないためフードロスが課題となります。そこで「こども食堂を一緒にやればいいんじゃないか」と水野代表は考えつきます。民間企業であっても公益的な事業に対する助成金が利用ができたことで初期投資を抑えられたことが大きな後押しとなり、秋田ノーザンハピネッツのこども食堂「みんなのテーブル」がスタートしました。
「みんなのテーブル」は秋田県で初めて、かつ日本のプロスポーツクラブとしては初となる常設のこども食堂です。週4日の営業で、管理栄養士が監修したメニューを日替わりで提供。中学生以下の子どもは無料、高校生は300円、大人は1000円ですが、ひとり親は会員になることで週1回は無料で利用できます。利用者のほとんどはひとり親家庭の親子で、この3年間で1万2000人以上が利用しています。
現在こども食堂の運営費用は主に県内外企業30社からの寄付・サポートによって成り立っています。また食材費を下げるための工夫としてクラブの別事業を絡めて規格外の野菜などの提供を受け付けています。企業や団体のアシストを受けながら秋田の子どもたちをアシストする取り組み「みんなのテーブルASSIST」の一環としてクラブオフィシャルパートナーのポークランドグループからは毎月1頭(約30キロ)の豚肉の提供を受けており、「みんなのテーブル」だけでは使い切れない豚肉は秋田県の他のこども食堂に提供する取り組みも行っています。
この取り組みはフードロス対策に繋がるだけでなく、「県民球団」を掲げるプロスポーツクラブを中心に支援の輪を広げながら、県内のこども食堂全体の運営における持続可能性も高めています。
「私たちだけでやれることには限界がありますし、これを秋田県内で何か所か増やすのも今のところは現実的ではありません。ですが、私たちのノウハウを共有して、このような活動が広がっていくこと自体が社会を良くすると思っています」と水野代表は語りました。
B.LEAGUE×まちづくり委員会とは
2026年からの「B.革新」に向けて、各地でクラブ、自治体、企業の連携のもと、クラブの成長やアリーナの整備が進んでいます。クラブと地域社会との関わりが一層重要なものとなっている中で「スポーツ✕まちづくり」の可能性を議論し、リーグ、クラブや自治体、中央省庁が連携していくことを目的としています。プロスポーツに利用される会場の活用や管理、地域のにぎわい創出への貢献がこれまで以上に必要とされており、B.LEAGUE主導でこのテーマに向き合うことは、所属クラブが真に地域から愛されるために必要不可欠であると考えています。
全5回に分けて開催されるこの委員会では、クラブや自治体が地域社会との取り組みやアリーナ事業の成功例、課題をプレゼン共有し、他クラブ、有識者、中央省庁など様々な分野と意見交換をする取り組みを行っていきます。