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【佐々木クリスが聞く】前編  西地区優勝の名古屋ダイヤモンドドルフィンズ、指揮官ショーン・デニスが語る 「自分たちらしくあること」

2024.05.11

クラブ

【(C) B.LEAGUE】

 名古屋ダイヤモンドドルフィンズにとって、今回の西地区優勝はB.LEAGUEになってクラブ初のタイトル獲得となった。ショーン・デニスヘッドコーチ就任から3シーズン目、着実に積み上げた成果が華やかで粘り強いバスケを完成させた。「自由を与え、選手に託す」指揮官のスタイルに興味津々のB.LEAGUE公認アナリスト、佐々木クリスが取材した。

「選手は自分で答えを見いださなければならない」

──まずは地区優勝おめでとうございます。西地区では琉球の高い壁に阻まれてきましたが、レギュラーシーズン最終節でクラブ初のタイトル獲得を成し遂げました。優勝が決まった瞬間には、どんな感情が沸き上がってきましたか?

2つの感情がありました。まずは安堵で、もう一つは自分たちが3シーズンで築き上げてきたものに対する誇りです。琉球を筆頭に西地区の素晴らしいチームに挑戦するため、私たちは粘り強く努力し続けてきました。西地区のチームがここ数年でかなり強くなっている中で、我々も多くの経験を通じて成長し、これまで成し遂げられなかったところに到達し、ファミリーの一体感を実感することができました。そのことに誇りを感じています。

──最後の数試合は一つも落とせない展開で、もうチャンピオンシップが始まっているようでした。そんな試合を重ねるごとに団結力が高まっていったように見えます。

本当にその通りです。FE名古屋戦と大阪戦でつまずき、すべてに満足したわけではありませんが、それでも3月の4連敗以降を13勝2敗で終えました。負けた試合での反省を活かしてチームを再編し、自分たちのことに集中するよう努めた結果、島根に非常に良い戦いができました。スケジュールもハードで疲労もあり、琉球との試合は非常に厳しかったですが、そこを乗り越えました。特にGAME2では選手たちが持てる力すべてを出し、勝ちを模索し続けてくれました。

──私がコメンテーターとして名古屋Dのバスケを説明するために思い付いた表現が「イルカの群れのよう」です。常に統制が取れていながら、ダイナミックで自由に変化し、それでいて家族のように連携しています。

そんな表現をするのは初めて聞きましたが、素晴らしいですね。

──これに何か付け加えるとしたら、どんな言葉が良いでしょうか?

私の理想のバスケは、セットプレーに頼りません。この競技で信じるべきは選手の能力で、練習中には「バスケ選手であれ」とよく言います。選手がこの状況でどうプレーすべきか私に質問する時、私は「バスケ選手ならどうする?」と聞き返します。選手が「僕はこうします」と言えば、私の答えは「じゃあやってごらん。どうなるか見てみよう」です。選手は自分で答えを見いださなければならない。そこで選手が解決策を見いだすための様々な方法を教えるのが私の仕事です。だからこのチームでは選手たちがオフェンスでもディフェンスでも自由にプレーします。それが「バスケ選手であれ」なのです。

「成長するにはコンフォートゾーンから出ることが必要」

【(C) B.LEAGUE】

──しかし、「バスケ選手であれ」を体現するのは簡単ではありませんよね。

「どんなプレーをすべきか」とコーチに質問しても、「君が選択するなら、そのプレーが正しい」という答えしか返ってこないのですから、選手は大変でしょう。それは一種の賭けですが、選手たちが3年間を自由に過ごす中でチームがまとまってきたことをうれしく思います。「選手に良いも悪いもない、潜在能力を発揮できる選手とそうでない選手がいるだけだ」という古い言葉が私は好きで、選手それぞれが自分の可能性を開花させる手伝いをするのが自分の仕事だと思っています。選手が成長するにはコンフォートゾーンから出ることが必要で、私には選手にとって不愉快な話もする覚悟があります。選手それぞれに個性を発揮させ、チームコンセプトの中でそれぞれが輝くことのできる場所を用意する。簡単ではありませんが、楽しい仕事です。

──それがチームに浸透したと感じられたエピソードがあれば教えてください。

今シーズンは浜中謙がアシスタントコーチとしてチームに加わって、練習中に選手たちが交わす会話の多さに驚いていました。選手たちの会話に加わろうとする彼を「選手たちに話をさせてやろう」と私が止めたことも何度かありました。その成果が出たのが佐賀との試合でした。佐賀のファンは素晴らしく、アリーナはとても騒がしくて、タイムアウトを取ってもベンチの端の選手にまで声が届かないぐらいの歓声です。そんな状況で選手たちはコート上でコミュニケーションを取り合い、力を発揮してくれました。選手同士が対話するのは、日本の文化では難しいことです。この国の教育では、自由に声を上げるのが難しい。彼らにとっては自分のコンフォートゾーンを出ることになりますが、お互いに一歩進んで話し合うようになってほしかった。これはおそらく、私のコーチキャリアで達成した最大の成果の一つです。

──そのチームの輪の中心にはキャプテンの須田侑太郎選手がいます。彼のキャプテンシーをどう評価していますか?

キャプテンとして、リーダーとしての須田は、宇都宮でチャンピオンシップを勝ち取り、逆境を乗り越えて勝つという経験を唯一持っています。去年の代表チームでは彼自身が逆境を味わいましたが、このチームに戻って立ち直りました。「立ち直るとは何か」を示すのに、これ以上のリーダーはいません。彼はリーダーシップを発揮するようになったことで、彼個人として活躍するだけでなく、チームの集中力を維持して結果を出させる選手になったのです。

チャンピオンシップに向け「自分たちらしくあることがすべて」

──齋藤拓実選手について聞かせてください。私から見れば、ダイナミックな日本人ポイントガードとして、このチャンピオンシップで富樫勇樹に匹敵するのは彼ぐらいだと思っています。

当然ながら彼はチームの重要なピースで、先週末の佐賀戦のように彼が厳しくマークされるのは分かっています。しかし齋藤には並外れたバスケットボールIQがあります。彼は私が今まで一緒に仕事をした中で最もインテリジェンスのある選手のトップ3に入ります。ルカ(パヴィチェヴィッチ)の非常に構造化されたバスケの下で学んだ彼が私のところに来た時、私は逆に自由を与えました。最初は噛み合いませんでしたが、それが成長のきっかけになりました。滋賀から名古屋Dに私が移り、彼も来てくれて、彼はさらなる成長を遂げ自分自身を表現できるようになりました。今シーズンの彼の成長でうれしいのは、このチームで自分が責任を背負うんだと理解したことです。特にここ数カ月、チームメートから真の信頼を寄せられる選手へと成長してくれました。

──いよいよチャンピオンシップを迎えますが、今のチームは理想像と比べて10点満点で評価すると何点ぐらいのところにいますか?

7点くらいですね。まだ完全にフィットしていない部分もありますが、それは伸び代でもあります。このチームはどこが相手でも自信を持って戦えます。チャンピオンシップを戦うのに必要な実力はシーズンを通して示してきました。特に直近の6試合は、西地区優勝を勝ち取るための大きな重圧の下で戦ったので、チャンピオンシップに向けて完璧な準備になりました。チームへの信頼感は本当に高まっています。

──最初の対戦相手である三河を倒すには何が必要でしょうか?

私たちがすべきことは「BE US」(自分たちらしく)です。自分たちらしくあることで、どんな相手にも挑戦できます。今日の練習でも、「自分たちらしくあることがすべてだ」と選手たちには伝えました。チャンピオンシップに向けて新しい戦術を用意したり、秘密兵器を使ったり、そういうことをするつもりはありません。選手たちが「BE US」を上手く表現できるかどうかを見てみたい。それこそが我々が取るべき姿勢であり、変える必要はないのです。

編集協力:鈴木健一郎

佐々木クリスプロフィール

 

ニューヨーク生まれ、東京育ち。青山学院大学在籍時に大学日本一を経験。bjリーグ時代の千葉ジェッツ、東京サンレーヴスでプロ選手として活動したのち、2013年よりNBAアナリストとしてNBAの中継解説をスタートさせる。2017年よりBリーグ公認アナリストとしてNHK、民放各局などでBリーグ中継の解説を務める傍ら子供達を指導する『えいごdeバスケ』を主宰。日本バスケットボール協会C級コーチライセンスを保有。著書に「Bリーグ超解説 リアルバスケ観戦がもっと楽しくなるTIPS50」「NBAバスケ超分析~語りたくなる50の新常識~」がある。

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