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バンビシャス奈良・加藤社長に聞く クラブ経営への想いと今後のビジョン

2024.03.08

クラブ

初のプレーオフ進出に向けて奈良ブースターは声援を送る【写真:クラブ提供】

 クラブ史上初のプレーオフ進出を視界に捉えるバンビシャス奈良。しかし、現在は来シーズンのB2リーグ参戦に必要なクラブライセンスを維持できない状況、B3への降格が不可避な状況に陥っている。

 ライセンス維持に必要なのは今期収支の黒字化。そこをクリアすれば、2026−27シーズンより始まる新リーグ『B.LEAGUE ONE(B.ONE)』への参入が濃厚だ。

 まさに正念場を迎える中、クラブはパートナー企業への追加支援を依頼すると同時に、個人を対象にしたクラウドファンディングの実施に踏み切った。今回は“創業社長”である加藤真治(かとう・しんじ)社長に話を聞き、クラブ経営への想いと今後のビジョンについて迫った。

クラブの現状について

 まずはクラブの現状について聞いた。

 加藤社長はオン・ザ・コートの面は「開幕9連敗こそしましたが、戦力が揃った11月と12月は勝ち越しました。チーム一丸となって粘り強く戦ってくれていると思います。年が明けてから負けが増えていますが、プレーオフ出場は悲願です。本当に届きそうな状況なので、なんとかチームを後押ししたいです」と語る。

 プレーオフ圏内まで3ゲーム差(3月4日現在)につける奈良。経営面でも後押しをしたいところだが、上記の通りライセンス不交付の危機が訪れている。

「Bリーグのクラブライセンス審査は“3期連続赤字”だとか“債務超過”だとか、そういったところをクリアしないといけません。現状2期続けて赤字なので、今期は黒字にしないといけないのが非常に大きな課題です。黒字化するのに4億2000万円の売上が必要と言ってるんですけれども現在は未達。あと4000万円、売上が足りていない状況です。こういった状況の中、収支も赤字着地見込みの状態でして、このまま行くとB2ライセンスが交付されず、B3への降格が確定します。これを打開すべくいうことで、動き出しました」

 2月26日にはパートナー企業への現状説明、追加協賛の協力を要請。厳しい言葉を投げかけられることもあったが、中には理解をもらって追加協賛を行う話が進んだ案件もあったそうだ。

ファンマーケティング、地域貢献について

行政と協力し、子供たちと触れ合う機会も増えてきている【写真:クラブ提供】

 一方で、奈良という地域におけるバンビシャスの存在感は確実に上がってきている。11年前のクラブ設立時は平均観客動員数が1100人台だったのが、現在は1731人まで伸長。特に開幕直後は本拠地・ロートアリーナ奈良、ジェイテクトアリーナ奈良が満員札止めになったという。

 加藤社長は要因としてコロナ禍が明けたことに加えて、行政と協力した子供たちとの触れ合いが増えたことを挙げる。

「触れ合う機会は我々にとって1番大事な、最初の接点だと思っています。選手と触れ合って、見に行ってみたいと思ってもらう。『応援に来て』『行く行く!』みたいな、そういう会話を作れたら、バンビシャスの認知度だったり、会場でも応援してもらうことが増えていくかなと。そういう機会が増えたのが、今シーズンの大きなところの一つです」

「小学校に行くと、子供たちは最初は選手の名前を知らないのですが、デカいお兄ちゃんがなんかボールを掴んでめっちゃ走るし、めっちゃ飛ぶしで『うわー』って興奮して。子供たちがそこまで興奮状態になることは珍しいようで、先生たちも喜んでいただいてるんですね。触れ合う機会ってやはりすごく大きいなとは感じています」

 また、今後実施していきたいこととして、バスケットを通じてクラブや選手に触れてもらうだけでなく、新たなアリーナの創設に意欲を示す。

「佐賀アリーナや群馬のオープンハウスアリーナが稼働し始めて、今度神戸にも新しいアリーナができたりしますが、いずれもイベントの稼働率が高いと聞きました。地域に活力を与えるようなイベントができるアリーナをなんとしても奈良にできるように。これはバンビシャスの未来を作っていく意味でも必要なことなので実現したいです。ただ、それだけではなく、地域の人にシビックプライドを育てるような施設を奈良に作りたいと考えています」

クラウドファンディングについて

 今回のクラウドファンディングは特典のようなリターンはない。支援者の名前を出すのみ(希望者に限る)で、いわば収支の改善に“全振り”する形だ。そうなると、今後支援者にコミット(約束)することが大切になってくる。

「やはり地域貢献を期待されているのはひしひしと感じています。特に子供たちに夢を与える、子供たちがやる気を出す。その原動力になることが、プロスポーツに期待されていることかなと思っています。そういった部分はもっと力を入れて頑張っていかないといけない。クラブライセンスの維持、B.ONEの舞台で戦う姿を見せたいです。地域の中で何か希望とか、そういうものを感じてもらえるようなクラブに成長させていく姿を必ずお見せしたい、お見せしますというのが私としての約束ですね」

 未来を創るためのクラウドファンディング。今という正念場を乗り越えるため、加藤社長をはじめバンビシャス奈良にまつわる人々は全力で動いている。

バンビシャス奈良への想い、奈良という地域への想い

 奈良に育ててもらった「奈良人」である加藤社長。現職の前には仙台89ERSの立上げから運営に関わり、一種のカルチャーショックを受けたそうだ。ここでの経験がバンビシャスを立ち上げるきっかけになった。

「仙台に住んでいた時に、奈良の話になって、『大仏とシカと…あと…』となりました。奈良の人は奈良のことを知らないんですよね。大仏とシカを出されると後が続かない。仙台は楽天イーグルスと仙台89ERSができて、ベガルタ仙台を含めた3つのプロスポーツチームが揃う街として盛り上がる様子を見て、明らかに地元の人が『俺たちの仙台ってすごい』という空気感になったんですね。これをやりたい、大仏とシカとバスケチームがありますよって言いたい。そう思って立ち上げたんですよね」

 そして、バンビシャスが地域の共通言語になってほしいと願う。

「例えば広島県民は広島カープの話をして盛り上がりますよね。地域の会話の中にも自然に溶け込んでいるというか、当然知ってるよねみたいな。そういう存在になりたいなと。非常に大きなイメージですけど、地域の財産になるようなクラブを目指しています」

バンビシャスを運営していて良かった瞬間

「今が正念場」と話す加藤社長【写真:クラブ提供】

  bjリーグ時代を含めると11年間クラブを運営してきた。その中で良かったと思った瞬間、報われたと思った瞬間はあったのだろうか。

「負けても負けてもずっと応援し続けてくれてる人たちもいるんですよね。昨季のホーム最終戦が香川との試合で、連勝した方が残留、連敗した方が降格という2試合があり、2試合とも会場にものすごい数の観客が来てくれた。招待をほとんど出さずに2000人ぐらい来てくれたんですね。 大声援で『なんとかバンビを落としたらあかんぞ』みたいな感じで、本当にホームアドバンテージができ、相手もちょっとびっくりするぐらいの雰囲気を会場で作ってくださったんですよ。それで、連勝して残留決めて2試合目が終わった後に涙流しながら『よかったね、加藤さんよかったね』って声をかけてくれる方が結構いらっしゃって。こうやって思いを一緒に共有してくれる方がいてくださるっていうのは、クラブを立ち上げたことの意義があったのかな。バンビシャスを応援するのが生きがいになってるんだよっていう方とか、バンビシャス応援するようになって、自分の中に活力になってるとか言ってくれる方がいたんです」

「あと、実は引きこもりだった方がバンビシャスをきっかけに社会復帰したことがあるんです。中学校の頃にいじめられて、その後ずっと引きこもっていて。20代後半ぐらいになって、うちの試合に見に来て、また行きたいと思って毎試合見に来るようになって、社会復帰につなげたそうです。地域の人たち、周りの人たちの幸福の一つに貢献できたっていうような瞬間が、この11年の間にいくつか感じられる時があって。クラブを立ち上げて、やってよかったなという思いは非常にあります」

Bリーグファン、奈良ブースターへ

 最後に、加藤社長からBリーグファンと奈良ブースターへ一言。

「Bリーグのファンの皆さま、奈良のクラブが経営的に非常に厳しい状況でご心配をおかけしまして本当に申し訳ありません。なんとしても奈良からBリーグの盛り上がりを消さないように、頑張っていきます」

「奈良ブースターの皆さま、今回は厳しい経営状況で嫌な思いをさせていることがあると思っています。本当に申し訳ありません。 しかし、そのままでいいわけではなく、目標と掲げているもの、我々も期待されている部分って色々あると思っています。そういうものに応えていけるクラブになるべく、しっかり土台、成長を作っていきます。今回大きな分かれ目になるタイミングでの審査が2つあるので、なんとしても乗り越えて、皆様に還元していけるようなクラブにしていきたいと思ってます。ぜひご支援、ご協力お願いいたします」

取材・文:加賀一輝

 

 

 

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