富永啓生、ウインターカップ2018での躍動「楽しまないともったいない」
富永の名が初めて轟いたのは、高校3年時のウインターカップだった 【月刊バスケットボール】
12/23から始まったウインターカップ。Bリーグで活躍する選手たちの多くがウインターカップで活躍した。そこで、12月20日~29日まで、連載「Bリーグ選手のウインターカップ」を連日公開。第7回は富永啓生選手(桜丘高校/現:ネブラスカ大)を特集。
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2023年夏、FIBAワールドカップ2023でAKATSUKI JAPAN 日本代表は48年ぶりとなる自力での出場権を獲得。その活躍に日本が湧いた。チーム全員が欠かせない存在となったチームだったが、中でも河村勇輝(横浜BC)と共に22歳コンビとして活躍した富永啓生(ネブラスカ大)はカギを握る選手だった。その富永がその名前を初めて世に知らしめたのがウインターカップ2018。富永の大会をひと言で表すのなら、「センセーショナル」という言葉が最もしっくりくる。
1、2年時は愛知県内のライバル・中部大第一に阻まれ出場権を獲得できず。2、3年時にインターハイには出場しているが、前者は3回戦、後者は2回戦敗退と現在の活躍を見ると、その経歴は決して輝かしいものではない。富永の名が全国に轟いたのは、3年時のウインターカップ2018だった。
前評判は高かった。その年の夏にU18日本代表として活躍したことで、シューターとしての才を多くの人々に知らしめていたからだ。しかし、まさかこれほどのものとは……大会後に多くの人が感じたことだろう。
圧巻だったのはそのスコアリングセンスで、1回戦から3位決定戦までの6試合で合計239得点、1試合平均で39.8得点という異次元の数字をたたき出している。1回戦から順にスコアを連ねると36、36、45、39、37、そして46という驚異的な数字だ。
「楽しまないともったいない」。富永のプレーを見ていると、確かにそう感じさせる 【(c)fiba.basketball】
当時の桜丘の指揮官・江﨑悟(現山梨学院高コーチ)は富永についてこう回想する。
「U18から帰ってきた秋には手のつけられない選手になっていました。それまでも持っていた自信が確信に変わったんだと思います。啓生はそういうのを態度には出さないですが、それが表情やプレーから見て取れました。動きも良くなっていて、シュートに対するためらいもなくなっていました。だから、『ウインターカップは啓生に任せよう』と決めて、彼が毎試合40~50点取れるシステムに変えたんです」
とにかく富永のためにオープンを作り、彼は味方が作ったチャンスをモノにし続けた。富永個人の実力は疑いようのないものだったが、彼に全てを託した江﨑コーチの決断、そしてエゴを捨てたチームメイトの献身。影に徹する存在がなければ、富永があれほどまでにまばゆい光を放つことはなかった。
そんな大会の中でも象徴的だったのは、やはり福岡第一との準決勝だろう。当時2年生の河村擁する福岡第一に対して、富永はハーフライン付近からの超ディープスリーを連発。鉄壁のディフェンスを1人で崩壊させ、前半だけで31得点をマークした。
結果的に、この試合は後半で福岡第一が圧巻のディフェンスから一気に逆転し、江﨑コーチの言葉を借りるならば「前半は天国、後半は地獄」な試合展開となった(前半48-46、後半24-57)。しかし、まるでNBA選手かのようなシュート後のセレブレーションや、常に楽しそうに笑顔を見せる富永のプレーは最後まで変わらなかった。
「こんなにたくさんのお客さんが見てくれているんだから、楽しまないともったいないじゃないですか」
記者から“なぜそんなに楽しそうにプレーしているのか?”と問われた富永が返した言葉だ。これを人づてに聞いた江﨑コーチの発案で、「楽しまないともったいない」という言葉は、現在の桜丘の横断幕にも掲げられており、その言葉どおり今年の桜丘も楽しそうにプレーする姿が印象的だ。
後輩たちが躍動する姿を、富永もアメリカから見守っているに違いない。
文=月刊バスケットボール編集部