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B.MAGAZINE

富樫勇樹(千葉J)が振り返るワールドカップ「世界に何度も挑みながら阻まれた過去…苦しみながらも積み上げてきた経験がついに開花」

2023.10.14

日本代表

パリ2024オリンピックの出場を決めて祝福される富樫勇樹 【(c) fiba.basketball】

「アジア1位になってパリ2024オリンピックの出場権を獲得する」

 男子日本代表のトム・ホーバスヘッドコーチ(以下HC)が、日本、フィリピン、インドネシア共催の「FIBAバスケットボールワールドカップ2023(以下ワールドカップ)」の出場にあたり掲げた目標だ。

 日本はワールドカップ、オリンピックを通じて初めてヨーロッパのチーム、フィンランドを破ると、ベネズエラ、カーボベルデにも勝利して、アジア1位の座を獲得。会場となった沖縄アリーナは歓喜に包まれた。

 バスケットボールのファンだけでなく、日本中を熱狂させた男子日本代表。今回はキャプテンとしてコート内外でチームを支えた富樫勇樹(千葉ジェッツ)に大会を振り返ってもらった。

ワールドカップであげた3勝は奇跡ではない

――富樫選手にとっても、初めてのワールドカップでした。初戦のドイツ戦、沖縄アリーナに入ったとき、どのように感じましたか?

「沖縄の皆さんと日本中から駆けつけてくれたファンの声援で、Bリーグとはまた違う空気感の中で試合でき、それにかなり後押ししてもらいました。沖縄アリーナの雰囲気は、試合中はもちろん、それ以外のときもすごかったですね」

――2021年の東京オリンピックは無観客での開催でした。それだけに日本のファンの声援は選手たちのパフォーマンスに影響があったのではありませんか?

「そう思いますね。逆に相手チームからすれば、あれだけ大きなブーイングをされれば少なからず影響があったと思います。本当に東京オリンピックとは違う雰囲気の中で、バスケットボールを楽しめました」

――今大会では富樫選手をはじめ、比江島慎選手、渡邊雄太選手、馬場雄大選手という国際大会の経験を持つ選手たちがチームを引っ張りました。初戦に敗れた後もネガティブにならず、しっかり切り替えてフィンランド戦に臨めたのではないでしょうか。

「僕は前回のワールドカップには出ていないのですが、出た選手からは雰囲気が違ったと聞きました。初戦に敗れましたが前を向けていたのは、やはり勝ててはなかったとはいえこれまでの経験が活かされたからだと思います。これまでうまくいかなかったことを雄太や雄大が若い選手に練習から伝えていたこともあり、しっかりと自信を持って試合に入っていけたので、これまでの経験をかなり活かせた大会だったと言えますね」

先発出場、ベンチスタートと、今大会では自在にチームを支えた 【(c) fiba.basketball】

 

――例えばドイツ戦で後半のスコアを見れば上回っていました。特に4Qに逆転する試合も多かったのですが、自分たちのプレーを最後まで遂行できたのではないでしょうか。

「東京オリンピックでは(八村)塁が止められたら、次に打つ手がなかったという感じでした。塁を中心としたチームづくりはもちろん間違いではなかったと思うのですが、どうしても頼り切ってしまう部分も大きかったかなと言えます。一方、トムさんのバスケは誰か一人に頼るスタイルではありません。もちろん雄太がチームの中心なのですが、雄太だけが得点を狙うのではなく、コートに立つ5人の誰もがリングに向かいます。また今大会は、毎試合違う選手が活躍して、日替わりヒーローが登場しました。雄太がたくさん点を取らなくても勝てた試合がありましたし、実際親善試合では雄太も(ジョシュ)ホーキンソンもプレーできなかったこともありました。その経験が多くの選手の自信につながり、いい結果に結びついたと思います」

――フィンランド戦の勝利は、日本にとってヨーロッパのチームに初めて勝っただけでなく、富樫選手にとっても国際大会での初勝利でした。

「この勝利はもちろん日本にとって大きな一歩だとわかっていましたが、まだ大会期間中ということもあり、それほど感傷に浸っていたわけではなかったですね。それにフィンランドとはそれほど力の差を感じませんでした。これがアメリカやスペインに勝ったとなれば違ったかもしれませんけどね。次のオーストラリア戦に向けてしっかり切り替えて準備ができたと思います」

――フィンランド戦もベネズエラ戦も逆転勝ちでした。4Qでリードされていても、ここから逆転できるという自信があったのですか?

「運動量やスピードで勝負できなければ高さやフィジカルに勝てないということは日本の宿命です。ただ、今回は2カ月にも及ぶ合宿を経て、『自分たちは世界で一番練習をしてきた』という自信もあり、親善試合を通じて手応えも感じていたので、4Qでの追い上げは一つの強みになったと言えますね。ただ、15点を追いかけるような試合はしないに越したことはないんですけど(笑)」

気持ちの入ったディフェンスも見せた【(c) fiba.basketball】

――手応えはあったわけですね?

「10点を超えるビハインドからの逆転勝ちはなかなかありませんが、3勝できたことについては奇跡だとは思っていません。それはたまたまではなく、これまでの経験を含め実力が伴ったものだと思っていましたから。今後はワールドカップでも2次ラウンドに進んで、ベスト8、そしてメダルを獲得できるような代表になっていきたいですよね」

代表活動を始めたときには想像できなかった今の日本

――アジア1位の成績を残せたことについてはいかがですか?

「今まで長く代表活動をしてきました。代表として17歳で初めて参加したジョーンズカップ(台湾で開催される国際ゲーム)は、今では想像できないくらいボロ負けでした。それが今ではBリーグができ、NBAプレーヤーが2人もいて、当時は誰も想像していなかったほどいい方向に強化が進んでいます。これからも若い選手がたくさん出てきて、ダントツでアジア1位になれるようになれば、ワールドカップやオリンピックでメダルを狙うようなチームになっていけるんじゃないかなと思います」

――2023年のワールドカップがきっかけになって、さらに強くなっていく可能性がありますね。NBA選手も増えていくかもしれません。

「可能性は十分あると思います」

――改めてこれまで世界の舞台で勝てなかった日本がどうして3勝できたと思いますか?

「やっぱり経験ではないでしょうか。これまで出場できなかったワールドカップでのプレーは、1回目と2回目とではかなり違うと思います。親善試合でも一流国とマッチメイクしてもらえることも増えてきて、この経験も大きいと思います。また、個人的には雄太や塁のようにNBAでプレーする選手が出てきて、(富永)啓生のようにアメリカの大学でもまれる選手も多くなってきました。これらの経験がすべて財産になり、自信も得ていったと言えると思います」

――男子のアンダーカテゴリー代表も世界大会に出られるようになってきて、若い年代から世界の舞台での経験ができるようになってきました。

「はい。世界には色々なプレースタイルを持つ国があって、かなり癖のある選手がいるものです。それらに対してどう戦っていくのか、その経験は若いうちからしたほうがいいですね。留学もそうですが、日本人以外の選手とプレーする経験はプラスしかないと思います」

勝負強いシュートで相手に傾いた流れを幾度となく呼び戻した【(c) fiba.basketball】

――アジア競技大会は若手中心に臨んでいましたが、各選手がパリ2024オリンピック出場への意欲が感じられたと思います。Bリーグも楽しみです。

「ワールドカップを見て、悔しく思った選手がたくさんいるのではないでしょうか。だから『オリンピックには何としても出たい』と思う選手が何人もいると思います。その中で、自分としてはしっかり競争に勝ってロスターに選ばれなきゃいけないなと思うし、ケガなくやっていきたいなと思います。まだ負けませんよ」

――その意味では楽しみなシーズンとなりそうですね。

「自分の実力が下がっているとは思っていませんが、負けたくないという気持ちは当たり前にあります。一方、楽しみな選手がたくさん出てくるのはうれしいことなので、その競争を勝ち抜いて、開幕までもう1年もないオリンピックは出場したいと思います。今シーズンもいいパフォーマンスが出せるように頑張ります」

――パリ2024オリンピック出場は意識しますか?

「20歳のころ、正直オリンピックに2回も出られるチェンスが持てるとは思えませんでした。実際そのチャンスが目の前にあるのですから、もちろん頑張ります」

――最後に千葉ジェッツのブースターにメッセージをお願いできますか。

「今シーズンも優勝目指して頑張りますので応援してください。ワールドカップの盛り上がりが、Bリーグでも続いて、さらに盛り上がるように頑張っていきたいと思います」

――日本代表を応援してくれたファンの皆さんにメッセージをいただけますか。

「本当に皆さんの応援が、現地やテレビの前で応援してくれた皆さんのおかげで、とても選手を後押しして結果につながりました。本葉に熱い応援、感謝しています」

富樫は今シーズンも千葉Jのエースであり司令塔も務める【(c) B.LEAGUE】

 

(取材・文=バスケットボールキング/入江美紀雄)

その他インタビューはこちら:河村勇輝(横浜BC)が振り返るワールドカップ

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