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【プレイバックW杯】残り0.5秒の熱狂。開催国のトルコがセルビアを破って決勝進出

2023.01.23

ワールドカップ

 

 

2010年世界選手権 準決勝 トルvsセルビア 83-82

死闘であり劇的――。ワールドカップ屈指の名勝負は、2010年トルコで生まれた。

2010年の世界選手権は本命なき大会と呼ばれたが、それでもNBA選手が揃うアメリカの存在感は試合をこなすごとに増していた。そんな中でアメリカの対抗馬となったのが、2006年大会の覇者であり、世界選手権前年(2009年)のユーロバスケット(ヨーロッパ選手権)でチャンピオンになったスペイン。2006年大会準優勝でユーロバスケット3位のギリシャ。2000年に入って世界のトップクラスに定着しているアルゼンチン。そして2008年の北京五輪から若返りを図りながら、ユーロバスケットで準優勝へと躍り出たセルビアなどが有力候補にあげられていた。

 

 

 

 

中でも、大会連覇を目指すスペインの前評判は高かったが、この大会は大黒柱のパウ・ガソル(元ロサンゼルス・レイカーズ他)が不在。その不安要素は準々決勝で露呈され、若いセルビアに92-89の僅差で敗れ、最終的には5位に終わっている。セルビアは大会前にギリシャとの親善試合で乱闘による処分を受けたセンターのネナド・クリスティッチ(元オクラホマシティ・サンダー他)が3試合、22歳の若き司令塔ミロス・テオドシッチ(元ロサンゼルス・クリッパーズ)が2試合の出場停止処分を受けるアクシデントに見舞われる。そして2人が復帰後の大会中盤からはアルゼンチンやクロアチアとの接戦を制し、さらにはスペインを破ったことで一気に優勝候補へと浮上した。

 

 

 

 

その注目のセルビアの準決勝の相手となったのが、2010年大会の主役となったホスト国のトルコである。

トルコは前年のユーロバスケットでは8位だったが、長期にわたる大型選手の育成やNBAに選手を送り出していたことで、強化が実を結んだのだ。中でも全盛期を迎えていたヒド・ターコルー(元オーランドマジック他)は208㎝のサイズで3ポイントからインサイドまでこなすオールラウンダーとして君臨。ロシア、ギリシャ、フランス、スロベニアといったユーロバスケットでトルコより上の順位だった国々をなぎ倒して準決勝に駒を進めている。

 

 

 

 

試合はセルビアが僅差ながらも主導権を握り、残り5分半で8点のリードを奪う。ここからトルコがホスト国の威信を見せて反撃に出る。

ポイントガードのケレム・トゥンチェリがドライブと3ポイントを立て続けに決めて残り3分13秒に76-75で逆転。ここからは両者が5連続でフリースローの入れ合いとなり、そのたびに逆転、再逆転と互いに譲らぬ展開となる。フリースロー合戦に終止符を打ったのは残り16.8秒。トルコがトゥンチェリの突破から成長株のセンター、セミー・エルデン(元ボストン・セルティックス他)につなげて豪快なダンクでバスカンを奪う。しかも、セルビアのエースであるクリスティッチを5ファウルに追い込むプレーに地元ファンで埋め尽くされたアリーナのボルテージは最高潮に達した。カウントワンスローは入らなかったが、81-80でトルコが1点のリード。

 

 

 

 

しかし、ドラマは終わらない。最後のオフェンスに賭けたセルビアはテオドシッチの緩急をつけた中央突破から連携プレーが決まって残り4.3秒で逆転。ここでトルコはタイムアウトを請求。このとき、中継では天国から地獄へと突き落とされた地元ファンの姿が次々と映し出されていた。終盤の一進一退の攻防に、両者ファンの心情は、歓喜と落胆をいったりきたりと揺れ動くしかなかった。

 

 

 

 

タイムアウト明けのトルコの攻撃は、スローインからボールはエースのターコルーへ。そして終盤にビッグプレーを連発していたトゥンチェリに渡り、スピードからの突破で逆転レイアップを成功させる。このとき時計は0.5秒だったが、クロックが進んで0秒を示すと、選手たちはコートに飛び出して歓喜のときを迎える。しかし審議の結果、クロックは0.5秒に戻されて試合再開。まだ決着はついていなかったのだ。

 

 

 

 

タイムアウト後のセルビアはスローインから直接アリウープを狙う作戦に出る。パスは見事にゴール脇まで通るも、トルコのエルデンが手を伸ばしてブロック。わずかではあるがボールが指先に当たって弾いたのだった。トルコがセルビアを83-82で下し、史上初となる世界選手権の決勝に駒を進めた。

母国である旧ユーゴスラビア勢のセルビアを破ったトルコのボグダン・タンジェヴィッチヘッドコーチは喜びもひとしおで「幸運以外の何ものでもない。素晴らしい試合だった」と興奮しながら選手をたたえていた。残り3分からは何度もリードが入れ替わり、互いにビッグプレーを連発。残り0.5秒まで作戦が遂行されるほどの死闘だった。だが、指先まで神経を研ぎ澄ましたトルコの執念の前に、若きセルビアのラストシュートは届かなかったのだ。

アメリカとのファイナル。試合前のセレモニーでは、選手もファンも一体となって国歌を合唱するトルコ国民の声がアリーナ中に響き渡っていた。