2025/03/13B.HOPE STORY#054

長崎ヴェルカ「バスケットボールと共に築く地域創生の未来」
~伊藤拓摩社長兼GMインタビュー~

地域創生は、長崎ヴェルカにとって最も重視するものです。2020年に立ち上げとなった長崎ヴェルカは、単なるプロスポーツチームにとどまらず、地域社会に根ざした活動を展開しています。その中心にいるのが伊藤拓摩社長兼GM(以下、伊藤社長)です。社会貢献活動の一つである 「VELCARES (以下ヴェルケアーズ)」は、バスケットボールを活用し社会課題の解決に取り組むプログラムです。乳がん啓発活動や離島の子どもたちへの支援など、多岐にわたる取り組みの背景には、スポーツの枠を超えた地域への想いが込められています。今回は、伊藤社長に活動への様々な想いを伺いました。

――一昨年10月に新たなプログラム「ヴェルケアーズ」を設立されました。どういった経緯で立ち上げに至ったのでしょうか?

伊藤)前段として、クラブの話をさせていただきますと、元々親会社のジャパネットホールディングスが V・ファーレン長崎 (Jリーグ)を運営しています。そのホームとなる長崎スタジアムシティを作る話が現実化している中に、アリーナの建設も含まれていました。バスケットボールはそこを使用するスポーツ競技の候補となり、GMになる話をいただいて2020年にクラブ設立に至りました。

長崎県は以前から全国トップクラスの人口流出という問題を抱えています。ジャパネットホールディングスとしては、同じ問題を抱える地方都市に先駆けて地域創生を成功させようという想いがあります。“バスケットボールを通して、長崎、そして世界に「今を生きる楽しさ」を広げていく”というクラブの理念にあるとおり、選手やスタッフ、社員のみんなが「私たちはエンターテインメントを通して地域創生を実現する会社である」という共通認識を持っています。影響力、発信力のあるプロクラブとして、少しでも問題解決に貢献したいという思いを込めて形にしたのが「ヴェルケアーズ」になります。

――クラブとしては「ホームタウン活動」という枠組みもあります。違いはどんなところにありますか?

伊藤)重なる部分もありますが、「ホームタウン活動」は、クリニックやイベント参加のようにファン、クラブ双方にメリットが生まれるものです。他方「ヴェルケアーズ」はクラブが主体となり、バスケットボール自体や試合を通して社会問題を改善しようというイメージです。追近で言うと乳がんへの意識を高め、予防や早期発見の重要性を広く啓発する「ピンクリボンデー」を実施しました。早期発見が生存率を向上させるとされていますが、長崎の検査率は全国でも下位でした。ピンクリボン活動を通じて検査の重要性を周知する目的で実施し、その後、県内での検査数が上がったとうれしい報告も届いています。

ピンクリボンで一活動レポートはこちら: https://www.velca.jp/news/detail/id=47470

特設ブース(左)

来場者全員に配布されたオリジナルTシャツで会場がピンク一色に(右)

離島の子どもたちにアプローチする「B-RAVE ONE 2025」も「ヴェルケアーズ」の範疇に入りますか。

伊藤)そうですね。スタートは2022-23 シーズンに B2に昇格し、私がGM専任となった頃になります。長崎は日本で一番離島が多い場所で、そこに住んでいる子どもたちに長崎ヴェルカを知ってもらうためにクリニックを行うというのが当初の目的でした。その際、現地の先生から伺ったのが、「離島に生まれた子どもたちは、経験できることがとても限られる」という悩みでした。バスケットボールで例えるなら5対5の練習ができないケースもあるわけです。そのような状況で、いきなり試合をしても実力を発揮するのは難しいですよね。離島の現状を知って、子どもたちを呼んでトーナメントをやりたいと企画したのが、B-RAVE ONEになります。

――その過程では、ソフトバンクの「AIスマートコーチ」を使って、選手がリモートコーチングをされていたそうですね。

伊藤)昨シーズンも使用していましたが、今季はより本格的に実施しました。「体験機会の多い都市部の子どもたちと相違ない環境を作るためにはどうすべきか?」というところで、今回はまず私が教える内容を現地に行ってクリニックを開催。子どもたちには教えた内容を練習してもらい、川真田(紘也)選手や高比良(寛治)選手、狩俣(昌也)選手、松本(健児リオン)選手には地域ごとの担当コーチになってもらいました。それも一方的なものにならないように、子どもたちから選手に気軽に質問できるようにし、さらに動画や音声などでわかりやすく回答する形にし、互いに積極的に取り組める仕組みにしました。

五島でのクリニックの様子(左)

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リモートでスキルのフィードバックを行う高比良選手(右)

その集大成として、今年1月にはHAPPINESS ARENAに離島の子どもたちを招待し、試合を観戦してもらい、そのコートでプレーする機会を提供しました。また、プロバスケットボールに関わる仕事を学ぶ機会を設けるなど、規模を拡大して開催しました。※

※1月3日に4つの離島から約150名の中学生がHAPPINESS ARENAに集まり、佐世保(米軍基地)にいる同世代の子どもたちも含めて、トーナメント戦を実施。1月4日には離島男子選抜チームとヴェルカ U14の対戦、子どもたちとファングラブ会員向けのフェスを開催。フェス内では1on1決定戦、ダンスや音楽の演出、各種表彰も行われた。

対馬、壱岐、五島、上五島の子どもたちがHAPINESS AREAに集結した(左)

プレー中の様子(右)

――活動に対する、選手やスタッフの意欲や熱量はいかがでしょうか?

伊藤)そこは、ヴェルカのトップとして大変誇らしく思います。プロバスケットボール選手として、どのように子どもたちや社会に良い影響を与えられるか、地域に還元できるかをよく意識している選手がとても多いと感じています。B-RAVE ONE にしても率先して選手がベンチに座り選手たちにアドバイスを送ったり、悔しい負け方をした子どもたちに言葉を掛けたりといったシーンを見ることができました。

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実はフェスを開いた日は、非常に悔しい敗戦の直後でした。申し訳ないなという気持ちもあったのですが、選手たちはしっかり切り離して子どもたちに向き合ってくれましたし、馬場雄大選手をはじめ、担当ではない選手も参加して子どもたちとコミュニケーションを取ってくれました。子どもたちにとっても忘れられない時間になったはずです。選手たちが現状を理解することはクラブとして非常に重要ですが、この活動を通じて彼らの人間性をより強く感じることができました。

馬場選手と壱岐の中学生

――さまざまな活動をする中で、地域との結び付きがより深いものになったという体感はありますか?

伊藤)さまざまな面で実感します。B3からB2、B1へと昇格する過程で、選手の知名度も向上 しました。人気や注目度が上がることで、協賛していただける企業さんも増えます。B-RAVEONEでは、子どもたちにかかる費用のすべてをパートナー企業が負担してくれました。それは、パートナー企業が、ヴェルカが本気で取り組んできたことに対して信頼してくれているからでもあると捉えています。

――「B-RAVE ONE」では、そういったことも説明されたと伺いました。

伊藤)やはり人間は1人では頑張り続けることは難しいんです。自分についても、関わってくれた多くの方がいたから今の私があると考えています。ファンの方がヴェルカに可能性を見出して応援してくださるように、サポートしてくれた企業は子どもたちに対して可能性を感じているわけです。自分を後押ししたいと思ってくれる大人がいる。それを知ることが励みになると考えて子どもたちに伝えました。

――来季は長崎がBリーグオールスターゲームのホストクラブになりますね。

伊藤)新制度(B、革新)になる前、最後の開催ですので、ホストクラブとしては主催される B.LEAGUE が達成したいことをしっかりサポートしようというのが一番です。そのうえで行政を含めて県民の皆さんがすごく期待してくれるイベントですので、たくさんの方にワクワク、ドキドキできる機会にしたいですね。会場にいらした方に興奮をお届けするのはもちろんですが、来られなかった方にもどう楽しんでもらうかも模索したいです。いずれにせよ、日本のトッププレーヤーが長崎に集まるこの開催は、地域創生の観点からも絶好の機会です。できることをしっかり実行したいと思います。

――最後に、ヴェルケアーズとホームタウン活動をどのように進めていきたいか、未来像を教えてください。

伊藤)私たちは設立4年目で、まだまだ発展途上のクラブです。全ての面でどのように成長し、向上できるかを考え、プロジェクトをしっかりレベルアップさせていきたいと思います。皆さんに問題を気付いてもらい、自分事にしてもらい、アクションに繋げていただく。そのために我々はクラブとしてもっと成長しなければいけません。コンテンツを磨いていくことをしっかりやっていきたいですね。

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