2024/11/29B.HOPE STORY#046

ライジングゼファーフクオカが進めるホームタウン活動「積み重ねこそが大切」

日本屈指のバスケ処である福岡県をホームタウンに持つライジングゼファーフクオカ。経営ビジョン、ミッションのそれぞれに“地域”という言葉を使っている同クラブは、2022年3月にホームタウン事業部の設置、並びにプロジェクトスパイラルの発足を発表しました。それを推進したのが、わずか2ヶ月前の同年1月に代表取締役社長に就任した古川宏一郎氏です。2年半強という中で、広がりを見せている活動について、古川社長に思いを伺いました。

古川宏一郎代表取締役社長インタビュー
「地域に身近で社会に貢献するという経営ミッションを達成する手段です」

©RIZING ZEPHYR FUKUOKA

――2022年1月に社長に就任、2ヶ月後にホームタウン事業部を設置し、プロジェクトスパイラルを発足しました。これだけのスピード感で着手されたのはなぜでしょうか?

古川)クラブに来たのが前年の10月で、1月に社長に就任しました。その間、各所にご挨拶をしていた中で「ライジングはお願いばかりで地域に何も貢献しとらんね」という厳しいお言葉をいただきました。 確かに県から受諾した事業もある一方で、スポット的な活動もやってはいたのですが、定常的に何かをしているわけではない状況でしたし、専任の部署も存在しませんでした。人員の問題もありましたが、部署がなければ活動も行うことはできません。それが立ち上げた理由の一つです。

スポーツクラブのファンを増やすための3原則として、①人気選手の存在、②観戦環境の良さ、③地域ロイヤリティ(忠誠心)の高さ、があるといわれています。人気選手や良い観戦環境をすぐに生み出すことはできませんが、ホームタウン活動の一環として地域のためになるような活動を始めることは今日明日から始めることが出来ます。ホームゲームで選手を見る機会は年間30試合だけ。ホームタウン活動の中でクラブや選手と触れ合っていただくこと。それがアリーナで応援したいという思いにもつながるのではないかと考えました。

――プロジェクトスパイラルは個人、法人問わず誰でも参加でき、「健康」「福祉」「教育」という共創アクションテーマの社会課題解決を目指すものです。“一緒に”というところは、通常のホームタウン活動とは異なりますね。

古川)それも就任当初の各所へのご挨拶の中でヒントを得たものでした。パートナーになっていただいている美容室を運営されている会社さんに訪問した際、同行した社員がお礼を言っていたので話を聞いてみたら、高校生の娘さんが長期入院されていて、シャワーを浴びる時間が限られるし時間も短いということで困っていたところ、洗い流す必要がないシャンプーやトリートメントを頂き、娘さんが大変喜ばれたということでした。

我々は定期的にこども病院に選手やマスコットによる訪問活動をしています。選手やマスコットが訪問すると多くの方々の笑顔を見ることが出来ます。ただもし美容師の方々と一緒に訪問し、メイクやカットなどをしてあげることが出来たら、我々の訪問だけで得られる笑顔とはまた違った笑顔を産むことが出来るのでは、と考えました。

スポーツクラブには社会の公器としての側面がありますので、入口を作るのは我々が行った方が良いと思いますが、そのうえで我々とは異なる専門性を持った方と活動することで、さらに多くの笑顔を見られるのではないか、より意義深い大きな活動にできるのではないか。そう考えたことが、プロジェクトスパイラルのきっかけになりました。

©RIZING ZEPHYR FUKUOKA

――プロジェクトスパイラルのロゴに、思いが込められていると伺いました。

古川)プロジェクトスパイラルとしてどんな活動に取り組んでいくべきか、社内で議論を行いましたが、様々な「テーマ」が上がった一方で、「課題」として見ると、「健康」・「福祉」・「教育」に集約されていくなと感じました。一朝一夕で解決できる簡単な課題ではありませんが、始めないことには何も変わらない。最初は小さい活動だったとしても、多くの人、企業や団体を巻き込んでいくことでより大きく、より深く、より強い色になっていく。この活動を多くの人たちの自分ゴト化を促し、世の中ゴト化していきたいという思いをこのデザインで表現しています。

ご賛同いただける方や法人も増えている状況で、一昨年度が72回の活動で3,090人の方に参加いただき、昨年は160回で8,459人と規模が大きくなっています。このまま回数、人数が増えていけば、活動やそもそもの課題に目を向ける方を増やすことに繋がっていくのではと考えています。

中高生の部活動競技者数はバスケットボールが野球、サッカーを抑えて最多です。我々が取り組む活動を知ってもらう気かけを作りたいと考えています。まずは我々が単体でできる活動をやる。そのうえで広くアイディアを募集して付加価値を付ける。参画企業の方々でも、何ができるかというのを検討いただいていて、試行錯誤しながら繰り返しているという状況です。継続してやっていくことこそが一番大切ですので、今後も範囲や回数を増やしていきたいと考えています。

©RIZING ZEPHYR FUKUOKA

――クラブが起こしたアクションに多くの方が参加することで、活動の幅が広がるわけですね。

古川)プロジェクトスパイラルとは少し離れてしまいますが、谷口光貴選手は、保護犬に対して3Pシュートを決めた本数だけワクチンを寄贈するプロジェクトを昨季からやっています。その寄贈に行った際、実は保護犬だけでなく保護猫も多い状況や、必要なワクチンも一つではないとか、殺処分もされてしまう現状もあると把握し、周知する活動もしています。その中で、ある企業から一緒に何かできないかというお話をいただき、話を進めています。これも活動の幅が広がった一例だと思います。

©B.LEAGUE

――そのほか、ホームタウン活動として人権啓発活動や健康運動教室など、様々なことをやられています。

古川)今は年間を通じて常に複数のプロジェクトを進められています。クラブで時期を決め、企画実施していくものが多いのですが、中にはより大きな効果を見込んで時期を選んで実施する企画のも当然あります。例えば、福岡は女性の乳がん検診率が低いという課題があり、マンモグラフィ検査を推進しているのですが、これは毎年3月8日の国際女性デーに合わせてホームゲームでの告知や体験会などを行っています。我々の力は決して大きいものではありませんので、世の中の関心が集まるタイミングも考えて年間を通じて計画を作っています。。

©RIZING ZEPHYR FUKUOKA

――ホームタウン活動に関しての選手やスタッフの熱量は、どのように感じていますか?

古川)活動自体は私が就任時に各所を回った際に感じたこともあり、自分の思い先行でスタートした部分も大きかったかもしれません。参加回数や参加人数が積みあがっていくのは分かりやすい成果でもありますので、回数を重ねるごとにスタッフからの提案も生まれていきました。また、昨年から設定したオフコートキャプテン制度で加藤寿一選手、中田嵩基選手が就任したことも活動を進めるにあたっては非常に大きかったです。今では選手から自発的に企画したり、意見を交換したりと浸透してきている印象です。直近でも選手の発案で、近隣の小学校であいさつ運動を行うなど熱量も高まっていると感じます。

©RIZING ZEPHYR FUKUOKA

――今後、新たに進めたい活動があったら教えて下さい。

古川)一つは谷口選手の活動がきっかけで始めたワンヘルス活動(ヒトと動物、環境/生態系が相互につながるものを守るという考え方)です。モデル地区となって福岡県が推進しているのですが、我々にもできることがあるということでお話を進めています。
もう一つは、高齢者の社会還元活動です。ホームゲームではお子さま、ご両親、祖父母など3世代で応援いただく事も多いので、高齢者と若い世代を繋ぐ場として、何かできないかと提案しているところです。
最後が、小学生が考えるライジングの集客施策の実現です。社会学習授業の一環として、ライジングの試合をどうやったら満員にできるかを考えてもらい、そのアイディアを我々が実現するという社会学習を提案しているので、こちらも実現したいですね。

――最後に、ホームタウン活動の理想像について教えて下さい。

古川)プロのクラブとしては、もちろんご来場頂いた皆さまに喜んでいただくために、試合に勝つための準備に力を入れていきます。 BリーグもJリーグもホームタウンという基盤の上で活動を行うクラブとしては、ただ勝つことに集中するだけでは、地域に根付かないと思っています。 地域に根付くというのは、認知されるだけでなく必要とされ愛される存在であることと同義であり、応援して頂ける方々が多いということを意味していると思います。つまり、我々は、ホームタウン活動はファンを増やすための手段の一つだと考えています。 クラブの活動や発信が、福岡のいいところ、抱える課題など地元について知る機会、意識する機会につながってくれたらうれしいなと考えています 。