2022/07/01B.HOPE STORY#015

『バスケットボールクラブ×社会貢献活動』でつながる風景を広島から世界へ~後編~

「平和があるからこそのスポーツ」「スポーツがあるからこその平和」をコンセプトに、広島ドラゴンフライズが取り組んでいる社会貢献活動『バスケでつながる風景プロジェクト』。現在7年目を数える本プロジェクトで取り組んでいる活動や、今後の展望について広島ドラゴンフライズ浦伸嘉代表取締役社長と株式会社広島マツダ代表取締役会長兼CEO松田哲也会長にお話を伺いました。

そして、広島在籍8年目の朝山正悟選手と、2021-22シーズンに広島に加入した辻直人選手、寺嶋良選手の3選手からは、取り組まれている社会貢献活動やプロバスケットボール選手が社会貢献活動をする意義等をお話いただきました。

後編では、積極的に社会貢献活動に取り組む、辻選手と寺嶋選手の2選手がこれまで取り組んできた活動をお聞きしました。また、浦社長が思い描く広島ドラゴンフライズの今後の姿についてもお話しいただきました。

バスケットボールで命を救う 辻選手が取り組む社会貢献活動

2021-22シーズンに広島ドラゴンフライズへ新加入し、得意の3ポイントシュートでチームを多くの勝利へと導いた辻選手は、オフコートでも社会貢献活動を通じて子どもたちを支援しています。それが、「スリーピース バスケットボールを通じて、社会貢献を!」です。自身の3ポイントシュートの成功数に応じて、病気により長期入院している子どもたちや、児童養護施設に入所している子どもたちを支援する活動で、前所属クラブである川崎ブレイブサンダース在籍時の2019-20シーズンから取り組んでいる活動です。

※広島ドラゴンフライズ 辻 直人選手

「スリーピース バスケットボールを通じて、社会貢献を!」を始めるきっかけとなったのは、辻選手の熱烈なファンという少年との出会いでした。プロジェクトを始める前シーズンの2018-19シーズン中、そのファンの少年のご両親からクラブへ連絡がありました。内容は、脳の病気によって長期の入院をすることになったので、励ましのビデオメッセージをいただけないかといったものでした。辻選手はビデオメッセージで、「(試合会場で)待っているから」とエールを送りました。その後、治療を乗り越えた少年とともに試合会場へ訪れたご両親は、「あのビデオメッセージが無ければ、ここには来れていなかったと思います」と感謝を口にされたそうです。その言葉が辻選手の活動に大きく影響を与えました。

「今までファンの方々のためにバスケットボールをプレーしてきましたが、人の命に携わっているというか、初めて命を救えた気持ちになりました。このときに、バスケットボールの影響力を再認識し、ファンの方々はもちろん、より多くの人に良い影響を与えていきたいと思いプロジェクトを始めました」と辻選手は当時を振り返りました。

2020年に実施した「スリーピース バスケットボールを通じて、社会貢献を!」では、辻選手が3ポイントシュートを1本決めるごとに3,333円を積み立て、貯めた資金でオリジナルのタオルを作成して児童養護施設の子どもたちへ寄贈をし、子どもたちとのふれあいの時間を作ることができました。2021-22シーズンは、新天地ということもあり活動の準備期間にあてた辻選手。オフ期間から、広島ドラゴンフライズと連携し、「スリーピース バスケットボールを通じて、社会貢献を!」活動の再開を目指しています。

「最近は若い選手も社会貢献活動に興味を持っていると思います。僕も『スリーピース バスケットボールを通じて、社会貢献を!』の活動を通じて、多くの現役選手を巻き込んだ活動ができればいいなと考えています。ゆくゆくはバスケットボールの大会の開催等を目標にやっていきたいです」

 

※本インタビューはZoomにて実施

 

小さな幸せを感じて 寺嶋選手が取り組む社会貢献活動

辻選手と同じく2021-22シーズンに広島ドラゴンフライズに加入した寺嶋選手は、プロ1年目から現在に至るまで、社会貢献活動に熱心に取り組んでいます。昨シーズンまで在籍していた京都ハンナリーズ時代に、趣味である読書からつながった認定NPO法人あおぞらと連携し、カンボジアへの浄水器を寄贈や、ラオスのコーヒーを買い取り日本で販売する活動を行っています。

 

※広島ドラゴンフライズ 寺嶋 良選手

幼少期は消防士を夢見るなど、人の役に立ちたいという思いが強かった寺嶋選手。2020-21シーズンに、認定NPO法人あおぞらの代表が執筆した、社会貢献をテーマとした本と出会い、「僕にもできることはないか」と同団体へ直接メールを送信し、活動が始まりました。寺嶋選手は、ホームゲームで最も活躍した選手に贈呈されるHERO賞などの賞金を同団体へ寄付し、活動に協力していました。ある日、同団体から浄水器寄贈とコーヒー販売の提案があり、当時所属していた京都ハンナリーズも巻き込んで取り組むことになりました。「(連絡をとった)その時はもう勢いで。あとは周りの関係者の方々が支えてくれて。僕自身が、こういった未来を描いていると話せば、みんなが協力してくれている。僕1人では全然できないけれど、きっかけとなる最初の一歩が踏み出すことができれば、誰でも社会貢献活動はできるんだなと感じました」

「僕1人のキャリアで多くの人を救えることができるかと言ったら、たかが知れていますし、数十人、数百人救えたとしても、世界にはもっと困っている人がいます。なので、僕が取り組んでいる活動を、試合を見に来ている子どもたちに知ってもらうことで、さらに幅が広がり、僕に続いてくれる人が多くなるかなと。子どもたちが僕に続いてくれると、成果や救える人の数ももっと増えていく。こっちの方が大事かなと思います」

そして2021-22シーズンに移籍を決断し、広島ドラゴンフライズへ加入した寺嶋選手。加入の決め手の1つとなったのも、クラブが取り組む社会貢献活動だったといいます。「自分の活動に対しても支援してくれると話を聞いて(広島ドラゴンフライズへの)移籍を決めました。また、『おりづる賞』のことは前から知っていましたし、誇りに思えます。プレーヤーとしての意義を感じられる素晴らしいプロジェクトだと思います」と話しました。

 

※おりづるを持つ寺嶋 良選手

オフシーズンには、前回同様に浄水器の寄贈をはじめ、広島ドラゴンフライズとの新たな取り組みを視野に入れる寺嶋選手。現在は、自身の社会貢献活動について発信するホームページを作成中とのこと。「コロナ禍になりイベントなどが減ってきた中で、自分の活動や考えをたくさんの人に知ってもらいたいと思いホームページの立ち上げに至りました。やりたいと思うことは早くやる方が良いので。今しかないと思って作りました」と寺嶋選手の行動力をここでも垣間見ることができました。

「浄水器を寄贈した現地から送られてきた動画を見たときに、子どもが笑顔になっている姿があって本当にやって良かったと思いました。今までにない幸福感と生きがいを感じることができました。この活動から、小さな幸せを感じていければいいなと思っています」
 

※本インタビューはZoomにて実施

 

つながる風景のこれから

 

広島ドラゴンフライズは2022年4月7日に、個人や団体への創造的な研修を通じて、よりよい未来のために世界レベルでの意思決定を促進する国連の機関「国連ユニタール広島」とSDGs達成に貢献するための協力覚書を締結しました。今後は、『バスケでつながる風景プロジェクト』に取り組むクラブが国連ユニタールと提携を行うことで、幅広いSDGs活動に取り組むことになります。また、B.LEAGUEのクラブが国連機関と提携することは初の試み※であり、注目を集めています。「国連機関を背負ってプレーすることは、非常に価値が高く、身の引き締まる思いです。今後はより社会への関心を高めることができ、大きな効果が期待できると思います」と浦社長は締結について話しました。
※2022年4月時点

また広島ドラゴンフライズは、行政からも大きな支持を得ています。『バスケでつながる風景プロジェクト』によって社会貢献活動に取り組むクラブの姿に、広島県知事の湯﨑英彦様は、「広島にとってスポーツは、身近なものであり生活の一部といっても過言ではありません。広島3大プロスポーツの一角として、広島を全国に発信し、地域の活性化に貢献するとともに、チームの勝敗や選手の活躍が普段の会話になるような、日常に溶け込む存在となってほしい」と期待を寄せられています。

また、選手の練習場や寮となるクラブハウス「ドラフラベース」の設立に伴い、昨年9 月に廿日市市と包括連携協定を結びました。協定締結に関して廿日市市市長の松本太郎様は、「協定を結ぶことで、バスケットボールのトップレベルの技術に触れる機会を作り、本市の未来を担う子どもたちに夢や希望を与え、健全育成につなげたいと考えています。さらに、市民がチームを身近に感じ、まち全体で応援する機会を生み出し、街の賑わいや発展につなげたいと思う」とお話しいただきました。そして今年11月に完成が予定されている「ドラフラベース」について松本市長は、「『ドラフラベース』の完成を機に、より一層市民が愛着を持って応援するクラブになることを期待しています。そして、広島ドラゴンフライズの存在を通じて、バスケットボール人口の増加や、地域の活性化が促進され、選ばれる街、住み続けたい街としてのポテンシャルをさらに高めてくれる存在になることを期待し、その一翼をになってもらいたい」と激励されました。

『バスケでつながる風景プロジェクト』は、地域だけではなく世界とのつながりも見え始めてきました。現在浦社長は、脱炭素といった新たな課題に対しても取り組みを進めようとしています。今後のクラブの姿について浦社長は、「広島県民の人生の一部になりたいと思っています。広島東洋カープさんのように、日々の会話の中で試合結果について話し合ったり、クラブに関わる人の人生を豊かにできる存在を目指しています。そのためにもより一層、社会貢献活動や、広島らしさという考えを誠実に続けていきます。そういった思いで、トップチームもフロントもつながっている活動ができれば、きっと皆さんの元気の源になっていけるのではないかなと思っています」と思いを口にしました。

広島ドラゴンフライズがファンやブースター、県民とバスケットボールでつながる風景は、ますます広がりを見せ、感動と希望を与えていきます。

本インタビューの前編は以下よりご覧いただけます。
https://www.bleague.jp/b-hope/hope-story/story_detail/id=233425