2022/06/09B.HOPE STORY#014

『バスケットボールクラブ×社会貢献活動』でつながる風景を広島から世界へ~前編~

「平和があるからこそのスポーツ」「スポーツがあるからこその平和」をコンセプトに、広島ドラゴンフライズが取り組んでいる社会貢献活動『バスケでつながる風景プロジェクト』。現在6年目を数える本プロジェクトで取り組んでいる活動や、今後の展望について株式会社広島ドラゴンフライズ代表取締役社長浦伸嘉様と株式会社広島マツダ代表取締役会長兼CEO松田哲也様にお話を伺いました。

そして、広島在籍7年目の朝山正悟選手と、今シーズン広島に加入した辻直人選手、寺嶋良選手の3選手からは、取り組まれている社会貢献活動やプロバスケットボール選手が社会貢献活動をする意義等をお話し頂きました。

前編では、『バスケでつながる風景プロジェクト』発足経緯や本プロジェクトの活動の一環である「おりづるリレー」の実施の背景や想い、そして現在『育成の広島』をキーワードに子どもたちと交流を重ねる朝山選手の社会貢献活動についてご紹介します。
 

『バスケットボールクラブ×社会貢献活動』でつながる風景

現在広島県には、プロ野球球団の広島東洋カープや、プロサッカークラブのサンフレッチェ広島などのプロスポーツクラブがあり、スポーツ観戦の土壌は豊かです。そんな中広島ドラゴンフライズは、広島県第3のプロスポーツクラブとして、広島県民の生活の一部になれるクラブを目指すために社会貢献活動の『バスケでつながる風景プロジェクト』に取り組んでいます。

B.LEAGUEが開幕した2016年から取り組まれている本プロジェクトは、広島ドラゴンフライズを創設時から支援している株式会社モルテン代表取締役社長最高経営責任者民秋清史様が命名されたものでした。社会貢献活動にプロジェクト名を付けているクラブがまだ少ない中、「バスケットボールを通じて、地域の方々とつながっていく」ことを目標に、プロジェクトが始まりました。

代表的なプロジェクトの1つが、「ピースプロジェクト(おりづる賞)」です。この活動は2018-19シーズンから取り組まれているもので、ホームゲームの試合開始前に両クラブ間で、平和の象徴とされるおりづるの交換を行うものです。試合後には、「おりづる賞」としてその日1番フェアプレーをした選手を両クラブから1名ずつ選出し、表彰を行います。平和都市のクラブならではのプロジェクトとなっています。
 

※コート上でおりづる賞を受賞した選手を表彰

「広島は戦後から、並々ならない努力を重ねて現在のように復興できています。『屈しない魂』と私たちは呼んでいますが、そういった思いや、歴史を背負っていくことは広島のクラブとして当然のことだと思っています。また、恨みつらみを語ることなく許していこうという心もご先祖の方から受け継いできたものです。そういった2つ心の持ち方でクラブ運営や試合運営をしています」(浦社長)

「おりづる賞」の表彰後にアウェークラブが退場する際は、広島ドラゴンフライズの選手やスタッフ、観客がスタンディングオベーションになって見送るなど、常に相手クラブへのリスペクトを忘れない心は、クラブだけではなくブースターにも伝わっています。

この「おりづる賞」には、クラブスポンサーである広島マツダ様が協賛されています。広島マツダ様は、平和のシンボル原爆ドームの隣におりづるタワーと呼ばれる第2の平和の象徴を設立されるなど、平和への思いが強い企業です。株式会社広島マツダ代表取締役会長兼CEO松田哲也様と親交があった浦社長が、「平和へのプロジェクトを一緒にやりませんか」とオファーしたことがきっかけでした。広島ドラゴンフライズの後援会副会長も務められている松田様は、「広島に育てられた会社として、世界平和に貢献できることに取り組んでいます。広島マツダは、2045年、つまり戦後から100年後をターゲットに社会貢献活動や平和への活動に取り組んでいます。2045年に、また新たなスタートを切るために活動に取り組んでいる中で、ドラゴンフライズが、平和につながる活動やSDGs活動などに積極的に動いていることを知りました。浦社長と情報交換を重ねる中で『おりづる賞』のアイデアが生まれました」と当時を振り返られました。

「世界平和都市広島と、メジャーなスポーツであるバスケットボールをかけ合わせることができれば、ドラゴンフライズとしての価値は上がっていくと考えています。また日本のバスケットボールの価値を上げるためにも、まずは国内からさまざまな活動を通して平和への希求をしていきたいです。そしてそれが国境を越えて、世界につながってほしいと思います。そこは、使命感を持ってリーダーシップを取り、どこのクラブよりも真剣に取り組んでいきます。広島という環境で育っていますから」と浦社長は思いを口にしました。  

 

※株式会社広島ドラゴンフライズ 浦伸嘉代表取締役社長

 

「松田様は、「スポーツを身近に楽しめる環境である広島には、非常に街としてのレベルの高さを感じます。だからこそ広島を愛し、誇りに思う人が多くなってきていると思います。B2から始まった広島ドラゴンフライズが、地域と一緒に育ち昇格し、地域の人が日々の試合の勝ち負けに一喜一憂する。そういった思い出を一歩ずつ積み上げ、新アリーナの設立に向けて支えてくれる市民が増えていき、リーグを優勝したときには、広島カープやサンフレッチェ広島とならぶもう1つの誇りに必然的になってくれると思います」と期待されています。また続けて、「おりづる賞に限った話ではありませんが、現在取り組んでいる活動を全国に広げていきたいです。勝っても負けても相手に拍手を送るという考え方は、広島にふさわしいものですし、日本にとってもふさわしいものだと思います。そしておりづる賞の考えが、バスケットボールの本場アメリカにも広がっていければいいなと心から願っています」と大望を語ってくださいました。 

 

※株式会社広島マツダ代表取締役会長兼CEO 松田哲也会長
本インタビューはオンラインで実施

『育成の広島』をテーマに 朝山選手が取り組む社会貢献活動

『バスケでつながる風景プロジェクト』の中でも、「育成の広島」をコンセプトに、クラブが取り組んでいる活動があります。そのうちの1つが、「ドリームカード」です。このカードは現在、広島県内の小中高生に配布されているもので、ホームゲームへの無料招待券となるものです。この取り組みは、2018-19シーズンから開始され、バスケットボール観戦を通じて夢を持ってもらうことや、広島の街に住み続けられるまちづくりを目指しています。本プロジェクトに対して、広島県教育委員会教育長の平川理恵様は、「観戦することで、子どもたちにスポーツの楽しさや、体を動かすことの大切さを感じ取ってもらいたい。また取り組みを通じて、バスケットボールの魅力が若者を中心に広がり、B.LEAGUEを盛り上げる一助になってほしい」と期待されています。

「ドリームカード」の取り組みは、子どもの来場者数No.1を目指すものにもなっています。「No.1戦略で、小さな規模のものから1番を目指していく。SDGs活動でも、質や回数で日本一を狙っています。1番になることで影響力が、2番、3番の時よりも格段に上がります。現在目指しているB.LEAGUEでのNo.1は、社会貢献活動No.1になることと、子どもの来場者数をNo.1にすること。この2つを明確に掲げています」と浦社長は言います。

 

※広島県内の小中高生に配布されているドリームカード

他にも学校訪問や、地域のスクールへ選手を派遣し、選手と子どもが接点を持つことができる環境作りを目指しています。そういった活動に、最前線で熱心に取り組んでいるのが朝山選手です。

2015年に加入してから現在に至るまで、広島ドラゴンフライズの顔としてチームをけん引してきた朝山選手。最長の在籍年数を誇るベテランは、「バスケットボールプレーヤー朝山として、自分が培ってきたものを、もっともっと子どもたちに知ってもらい、夢を持つ大切さなどを伝えたい」という思いから、広島県内への学校訪問や講演会を実施しています。

浦社長がNo.1戦略で目標設定されている、子どもの来場者数リーグNo.1に対しては朝山選手もさまざまな場所で奮闘し、貢献しています。「子どもたちと触れ合うことはとても重要なことだと考えています。ただカードが配られるだけでは、実際に試合会場まで行ってみようとはなりづらい。けれど、自分たち選手が学校などで子どもたちの前で話をしたり、姿を見せるだけでイメージを持ってくれると思います。『大きい人だな』とか、『あんなこと話していたな』とか、選手の背景を知ってもらうことが大事です」と朝山選手は話します。

現在はリモートでの学校訪問が多い中ではありますが、少しの時間だけでも子どもたちに姿を見せたいと、廊下から教室にいる子どもたちの様子を見てみるなど、直接触れ合うことを重視しています。「コロナ禍でも、自分はこの取り組みを続けていきたいです。もちろん制限はありますが、自分にどんなことができるだろうかと考えることをやめないようにしています」と朝山選手は日々工夫を凝らしながら、子どもたちと触れ合う機会を作っています。

講演後、実際に子どもたちと触れ合った際には、さまざまな反応を見せる子どもがいて、時には「朝山選手、今日からこういったことに取り組みます」と直接目標や夢について語ってくれることもありました。「直接思いを話してくれることって、オンラインではなかなか言葉で言いづらいじゃないですか。でも初めて教室に行って、夢や目標のことを伝えてくれたとき、自分にとって最高の瞬間でした」と訪問時を振り返りました。
 

※生徒たちへ講演する朝山選手

 

社会貢献活動のきっかけは『ブログ』

 

子どもたちへの活動に多く取り組む朝山選手が、社会貢献活動を始めるきっかけとなったのは、プロの世界に入って2年目のときに始めたブログでした。ブログでは主に、自身のプロ生活をつづったり、ファンからの質問に返事をするなど交流の場となっていました。

「バスケットボールが好きだからプレーして、今はお金を頂いている。こんな幸せなことはないと思っています。だからこそ、ファンの方々にはもちろん、バスケットボール全体へ恩返しがしたい。現在取り組んでいる活動も、バスケットボール自体を盛り上げて、ファンの方々に恩返しをするためというのが1番にあります」

最後にプロスポーツ選手が社会貢献活動をすることの意義を聞くと、「影響力の大きさ」と答えてくれました。「若手選手には、『自分はこういうことが好きで、こういうことがやりたいんだ』と熱い思いを持ってさまざまな活動に取り組んでほしい。その活動は、プロスポーツ選手という影響力で大きく広がっていくと思いますから。今の時代の、今の視点から自分がやりたいことを見つけて、自分で決めて、自分で行動してほしい」とエールを送りました。
 

※広島ドラゴンフライズ 朝山 正悟選手

後編では、辻選手と寺嶋選手が取り組んでいる社会貢献活動について紹介。浦社長が思い描く今後の広島ドラゴンフライズの姿についても伺います。