「バスケを文化に」「地域の誇りとなるために」川崎ブレイブサンダースが“クラブ一丸”となって『&ONE』を推進。元沢伸夫社長・篠山竜青選手インタビュー~後編~
B.LEAGUEでもトップクラスの競技力と人気を誇る川崎ブレイブサンダースは、「MAKE THE FUTURE OF BASKETBALL~川崎からバスケの未来を~」とのクラブミッションを掲げています。同クラブは、より地域の人たちの誇りとなっていくことを目指し、積極的に地域課題と向き合っていくために、2020年9月にSDGsプロジェクト「&ONE(アンドワン)」を発足。立ち上げから2シーズン目にして約50種類ものアクションを実施しています。その背景には、フロントとチームが同じ理解のもとで活動を推進し、自治体やパートナー企業と一緒に創り上げている実態がありました。今回は、『&ONE』の中心となって推進されている株式会社DeNA川崎ブレイブサンダースの元沢伸夫社長と、同クラブ在籍11シーズン目で『&ONE』のアンバサダーを務める篠山竜青選手にお話を伺いました。
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――クラブ内、自治体、パートナーなど、本当に多くの方々と推進されていらっしゃいますが、これまでに一番大変だったことなどがあれば、教えていただけますか。
元沢「立ち上げ当初ですね。僕自身SDGsに対する知識不足が多々あって、誤解も沢山ありましたし、簡単ではないことも沢山ありました。書籍やセミナーはもちろんですが、外部の方に教えていただいたり、厳しいご指導をいただくことも沢山ありました。その中で何からやっていけばいいのか、やるべきなのか、SDGsは17の目標があって全て同じ優先度でやるわけにもいきませんし、どういう方向でどんな施策をやっていくかという点は悩みました。
今は色んな方々に教えていただき、色んなアクションを実施してきて一定のベースができてきたので、前よりも新しいチャレンジを好んでやっています。一般的に取り組まれている施策も勿論やりますが、僕らの取り組みのサブタイトルには『SDGs CHALLENGE』という文言があります。まだあまり取り組まれていない新しい施策をやって、『こういうやり方もあるんだ』と色んな方々に共有していく役割も必要だと思っています。そうなると当然ながら、事例がないことにも取り組んでいくので、色んな申請や許可が必要であったり、法的な問題があったり、『これを一つ進めるのにそんなに大変なの!』ということが沢山ある。それを一つ一つ乗り越えていくことが結構大変だなと思いました。
例えば、今シーズン2月5・6日に開催した『&ONE days』では、『THE LIGHT HOUSE KAWASAKI BRAVE THUNDERS』( */以下、『THE LIGHT HOUSE(ザ・ライトハウス)』)で子ども食堂を実施しました。その時も衛生面など、地元の方々と何回も話しました。当然ながら食中毒を起こしてはいけないので、衛生管理の問題とか、どこでどんなメニューを作るのかとか、最初は厳しいインプットをいただいていました。課題を全部クリアするのには間に合わないから、一回辞めようと話が出たぐらい大変でした。本当に色んな方々にお力添えいただいて何とか実現できました。
(*)『THE LIGHT HOUSE KAWASAKI BRAVE THUNDERS』は、2021年11月にオープンした、子どもたちが安心して過ごし、気軽にバスケットボールに触れることができるバスケットボールステーション。詳細はこちら。
昨シーズンの『&ONE days』では、ファンの方からご自宅で揚げ物をした後に捨ててしまうような使用済み食用油を会場で回収し、株式会社ユーグレナ様のご協力で環境負荷の低いバイオ燃料に変える取り組みを実施しました。本当はその燃料を選手が移動するバスに利用するところまで実施したかったのですが、僕らが油を集めて何かを実施するには免許が必要で、顧問弁護士に相談したら『免許がないからダメだ』と。『いや、そんな免許なんてすぐに取れないから間に合わない』と。そういうのが沢山あるんですよね(笑)この時はリスクを回避できる方法が見つかりましたが、場合によっては許認可を取りに行くこともあります。約50施策を実施していますが、半数くらいがこのように大変なことがあります。
この取り組みでは、2日間で88名の方に使用済み油を持参いただき、約36L分を回収できました。油って正直持ってくるのが大変だと思うんですけど、これだけ多くの方が持ってきてくださって、ファンの方々も『イベントをやるのであれば自分たちも何かしら参加したい』という想いで一緒にできた取り組みであったと思います。普通にやっても2日で100本近くは集まらない、『スポーツ×SDGs』だからこそできることだと思いますし、僕らスポーツクラブがやる意義だと感じています。」
――ファンの方々と一緒に取り組むお話がありましたが、印象に残っているファンの反応などはありますか。
元沢「アンケートのコメントでもよくいただくのですが、『試合を見に行くついでにSDGsのアクションができるのはいいよね』と仰る方が結構いらっしゃいます。何もないところではなかなかアクションを起こしにくいと思いますが、例えば試合を見にいく時に、ご家庭で『これそんなに食べないよな』と、お菓子や缶詰やカップラーメンなどを1つ持ってくることは多くの人が気軽に出来ること。そういうちょっとしたアクションを、試合を見に行くついでに出来ることが凄く大きくて、それが積り積もるわけです。2月の『&ONE days』で実施したフードドライブでは、約400食も集まりました。それが必要としている人に届けることができるわけで、ファンの方々も凄く理解して下さっています。”ついでに” できるというのが僕自身も好きですね。僕らのアクションがそれ1つだけで世の中を変える大きな力があるかというと、そうでは無いと思っていますが、ちょっとした気づきや意識の変化、行動の変化を変えるきっかけには充分なりうると思っています。
我慢をしたり制限をしたり頑張ってするアクションも勿論大切ですが、楽しく活動できるというところも『スポーツ×SDGs』の凄くよいところなんじゃないかなと思います。そこにプロ選手や自分が応援している選手が『一緒になってやりましょう!』と言ってくれるだけで『自分もやろう』って思いますしね。篠山選手もだいぶ詳しくなってきましたから。選手から『こういうアクションどうですかね』『こういうことをやったらいいんじゃないですかね』とか提案をもらったりすることもあります。」
――『&ONE』を担当されているスタッフ、そしてアンバサダーの篠山選手ともに、「川崎の取り組みが他クラブや他競技にとっても参考にしてもらえるようなモデルを目指したい」と仰っていました。この点に関してはどうお考えでしょうか。
元沢「新しい取り組みを積極的に実施していることに関しては『もっと色々とできる、チャレンジできるよね』と思ったのがきっかけです。失敗してもいいし、失敗事例も共有していくことで、他の地域やスポーツクラブのお役にも立てるのではないかと思っているので、比較的チャレンジングなことをやるようにしています。それをレポートとして対外的にもどんどん発信して共有しています。Jリーグの川崎フロンターレ様は地域貢献の分野でずば抜けて素晴らしい活動をしていらっしゃいますが、最近『SDGsの形でも力を入れていきたいので、凄く先行している川崎ブレイブサンダースの話を聞きたい』と声をかけて下さって、本当に嬉しかったですね。川崎フロンターレ様とは仲良くさせていただいて、我々がお世話になることも多かったので、これまでやってきたことをお話できたことは凄く良かったと思っています。いろんな形でどんどん広がっていけば嬉しいです。」
※株式会社DeNA川崎ブレイブサンダースの元沢伸夫社長。
本インタビューはZoomにて実施。
――最後に、『&ONE』の今後の展望やより力を入れていきたいことを教えてください。
元沢「僕らがなかなかアプローチしにくかった分野を学んで、また新しいチャレンジをしていきたいですが、SDGsの中では目標3の『すべての人に健康と福祉を』の部分です。いろんな人にスポーツを通じて健康になっていただきたいという凄くシンプルではありますが、絶対に僕らがやらなければいけない領域です。バスケットボール以外のスポーツも含めて、ファンの方々、川崎市民の方々と一緒に取り組みが出来たらいいなと思っています。」
選手も一緒にクラブ一丸で推進していることが特徴の一つである『&ONE』。ここで、『&ONE』のアンバサダーである篠山竜青選手にも話を伺いました。
※川崎ブレイブサンダースの篠山竜青選手。
本インタビューはZoomにて実施。
――『&ONE』が立ち上がって、篠山選手ご自身や選手たちの中で変わったことはありますか。
篠山「個人としては、日常生活や練習場、クラブハウスやとどろきアリーナの中で、『SDGsに繋がることは何かな』と、視野を広く持つようになったと思います。クラブの取り組み方として、フロントだけが頑張るのではなくて、選手たちが主体的に自分たちで考えてアイデアを出していくことを大事にしてくれています。フロントと上手くコミュニケーションを取ってやれているので、選手もみんな前向きにSDGsに取り組めていると思います。ここ最近は、色んなテレビ番組でもSDGsという言葉を耳にするようになり、世界的にも広がりのあるアクションですが、それをいち早くクラブ全体で取り組みができています。『スポーツ界のSDGsといえば川崎ブレイブサンダース』と言われるようにみんなで取り組んでいければな、というよいエネルギーは生まれていると思います。」
――篠山選手ご自身の中で関心が生まれた具体的な取り組みや、印象的に残っている取り組みはありますか。
篠山「1つは、増田選手の食品ロスの取り組みですかね。クラブハウスに居住している選手の中で『チーム活動がないときの食事の観点で、何かいい方法はないか』という話が出ました。ホームゲームで販売している飲食で余ったものをいくつか持ち帰ることで、自分たちの補食に充てることも出来るし、SDGsにもつながる。増田選手にとっても意味のあるラッキーなことだったと思うし、身近な選手が食品ロスのアクションをすることによって、ファンの人たちにとってもわかりやすいと思います。増田選手が自分でアイデアを出してアクションしていることですが、インパクトもあるし、シンプルだし、いい取り組みだなと思っていますね。
あとは、川崎市立平間小学校でSDGsの勉強会をやらせていただいたことです。平間小学校はSDGsについて凄く学んでいる学校で、僕ら選手よりももっと詳しく調べていました。川崎の街の商店街でSDGsにつながるアクションを探して発表をしたり、川の清掃をして川の歴史を知るという話を聞かせてもらいました。僕らがクラブとしてSDGsに取り組んでいる一方で、小学校でもここまでSDGsが広がり、理解が深まっているんだなと感じました。」
※増田選手が考案した食品ロス対策のためのアクション
※平間小学校の子どもたちとSDGsについて交流する様子
――ご家庭で篠山選手ご自身が、日頃から行っている取り組みはありますか。
篠山「本当に簡単なことかもしれないですけど、家を空けるときは電源を切るだけではなくコンセントを抜いてみたり、ごみの分別に関しても、リサイクルを意識したり、少しでもゴミを減らしたり。そういうアクションがSDGsにつながっていることを家族で話し合いながら取り組んだりもします。最近は自分の私服を選ぶときも、長く使えるものを選んでいます。身近なことでも少しずつ考えて、SDGsに繋げて生活するようになったかなと思います。」
――クラブの取り組みに話は戻りますが、川崎ブレイブサンダースではバスケットボールステーション『THE LIGHT HOUSE KAWASAKI BRAVE THUNDERS(以下、THE LIGUT HOUSE)』が設立されました。実際に訪問されたこともあると伺いましたが、いかがでしたか。
篠山「まず、率直に嬉しいという思いが凄く大きかったですね。日本でバスケットゴールが少ない現状の中で、『どこでもバスケができる』『競技人口が増える』ことに繋がるアクションだと思いますので、選手としても本当に嬉しかったです。武蔵小杉駅からあれだけ近い距離で子どもたちが自由に利用できる施設がつくられたことは本当にインパクトのあることだと思いますし、クラブとしても成長を感じる出来事であったと思います。
『THE LIGHT HOUSE』が開設して一ヶ月くらいたった頃に、家族でお忍びで行きました。もちろんバスケットを楽しんでいる子どもたちもいましたし、それだけでなく、テーブルで折り紙をしたり、宿題をしていたり、貸し出しされているタブレットでプログラミングをしている子もいました。街の子どもたちがこんな風に集まれる場所をもっともっと増やせていければいいなと率直に感じます。」
※東急武蔵小杉駅高架下にオープン。バスケコート以外にも、B.LEAGUE・NBAの試合映像の放映をはじめ、バスケやスポーツに関連する漫画本やプログラミング体験ができるタブレット・書籍を設置している。
※オープン初日のセレモニーには、篠山竜青選手とニック・ファジーカス選手が出席した。
――以前はお忍びでということでしたが、コロナが落ち着いてクラブとしてイベントができるようになったら、子どもたちと一緒にやりたいことはありますか。
篠山「『THE LIGHT HOUSE』はバスケットコートがあって、子どもたちがバスケットボールをしてくれるというのはもちろん1つありますが、『なんとなく集まれるような場所』になってくれればいいなと思っています。小学生は習い事をしてない子だと学校のクラスだけがコミュニティで、例えばクラスで嫌なことがあったり、友達と上手くいかなくなることだってあると思います。そういったときに、『THE LIGHT HOUSE』に行けば違う学校の子どもたちがいるとか、普段は遊ばない子どもたちと一緒に入れるとか、そういう場所にも繋がってほしいなと個人的には思っているんですね。だから『THE LIGHT HOUSE』でもしやるとすれば、選手みんなで大々的に集まってイベントを開くというよりは、1日店長とか、さりげなく子どもたちのそばに寄り添えるような取り組みができていければいいのかなと思います。」
――最後に、1選手、そして『&ONE』のアンバサダーとして、『&ONE』をどういうものにしていきたいと考えていますか。
篠山「Jリーグの川崎フロンターレがSDGsに本格的に取り組むというリリースを出していて、川崎市も人口が増えていて、凄く勢いのある街になっていると思います。川崎市長も仰っている通り、スポーツの街になりつつあると感じています。もちろん、川崎フロンターレがいて、女子バスケやバレーでも強いチームが沢山あるので、スポーツの街というイメージにしていくとともに、『川崎は地球に優しい』といういいイメージで活気のある街にしていきたい。それをスポーツクラブから、また川崎ブレイブサンダースが引っ張っていけるような存在になれたらいいなと思っています。」
本インタビューの前編はこちら
「&ONE」に関する情報は特設サイトでもご覧いただけます。
https://kawasaki-bravethunders.com/lp/and-one/