「バスケを文化に」「地域の誇りとなるために」川崎ブレイブサンダースが “クラブ一丸” となって『&ONE』を推進。元沢伸夫社長・篠山竜青選手インタビュー~前編~
B.LEAGUEでもトップクラスの競技力と人気を誇る川崎ブレイブサンダースは、「MAKE THE FUTURE OF BASKETBALL~川崎からバスケの未来を~」とのクラブミッションを掲げています。同クラブは、より地域の人たちの誇りとなっていくことを目指し、積極的に地域課題と向き合っていくために、2020年9月にSDGsプロジェクト「&ONE(アンドワン)」を発足。立ち上げから2シーズン目にして約50種類ものアクションを実施しています。その背景には、フロントとチームが同じ理解のもとで活動を推進し、自治体やパートナー企業と一緒に創り上げている実態がありました。今回は、『&ONE』の中心となって推進されている株式会社DeNA川崎ブレイブサンダースの元沢伸夫社長と、同クラブ在籍11シーズン目で『&ONE』のアンバサダーを務める篠山竜青選手にお話を伺いました。
――まず最初に『&ONE』を立ち上げた背景や、SDGsに力を入れていこうと決めたきっかけを教えていただけますか。
元沢「まず、『SDGsを頑張ろう』ということがスタートではありませんでした。2018年に東芝から川崎ブレイブサンダースの運営を引き継がせていただいた頃から、バスケットボールは野球やサッカーと違って、プロスポーツビジネスとしては後発でまだ”文化” となっていなく、これからそのスタートを切れるタイミングだと感じていました。
バスケットボールクラブがより地元の人たちに愛され誇りに思ってもらえるようになりたいと思ったときに、当然チームが強くないといけません。優勝して地元を巻き込みたいのは勿論のこと、ファンやスポンサーを増やしていくために人気のあるクラブになっていくこと。この2つは絶対にやらなければいけないと思っていました。ですが、野球やサッカーより後発のバスケが、地域の皆さんに誇りに思ってもらうためにはこの2つだけでは足りず、地域が求めていることを自発的に取り組んでいくことが必要なのではないかとずっと考えていました。
一般的なCSR活動やボランティア活動だけだとなかなか続かず、どうしたらいいかと考えていたときに、たまたま外部の方からSDGsを教えていただく機会がありました。そこで『地域や社会に対してアクションを起こしながらしっかり経済を回していく』という持続可能な理念に強く共感しました。川崎ブレイブサンダースがSDGsに力を入れることで、街の中での存在価値を獲得していこうというのが経緯でした。」
※『&ONE』とは、バスケット用語で「得点後にもう1本シュートを打てるビックプレー」を意味する。本プロジェクト名においては自分とは別の他者と向き合い共生・共栄していく姿勢も表し、人と人とのつながりがビッグプレーを生むという希望も込めて命名された。
――『&ONE』の立ち上げから2シーズン目となりますが、クラブとして推進する上で、スタッフや選手に向けてどのように伝え、巻き込んでこられたのでしょうか。
元沢「スポーツクラブの主役は選手たちです。フロントだけではなく、選手をどれだけ巻き込めるかということが、このプロジェクトの成否を決めると当初から思っていました。選手への伝え方としては、毎年新チームがスタートするタイミングの7-8月に、クラブの現状を伝える会があります。昨シーズンの事業の振り返りと今シーズンクラブとして力を入れていく事業、売り上げや利益など、『クラブの現状はこうだ』と全部伝えています。その中で『今年はこれをやるんだ!』という取り組みを、数を絞って伝えていて、『&ONE』は2年連続で伝えています。過去にはYouTubeも入っていました。
最初SDGsについて話した時はほとんどの選手が知らなかったと思いますが、『SDGsとは何か』『なぜ力を入れていくのか』『それが選手やクラブにとってどんな意味があるのか』『具体的にこういうことをやってほしい』ということを話しました。当然ながら一度話しただけで、選手が『よしやろう!』となったわけではありません。継続的にいろんな施策をやるときに、選手にも協力依頼をして、その都度一緒に学んで一緒に取り組んでもらいました。
例えば太陽光発電所への見学。神奈川の相模原市の山奥にあるんですが、車で3時間くらいかけて行きました。選手にも現地に来てもらって、発電所を見て説明を聞いたり、選手にも時間を使ってもらい、想いを共有しました。そして『クラブはこういうことをやっているんだな』と分かってもらった上で、選手が自分たちで考えて、いろんな場面で発信してもらう機会をたくさん作りました。発電所以外にも、ペットボトルのリサイクル工場の見学も実施しました。
去年のオフシーズンには、『&ONE』のアドバイザーである慶應義塾大学大学院の蟹江憲史教授に川崎市内の練習場まで来ていただいて、2時間くらい一緒にSDGsの勉強会とグループワークを行いました。それが選手たちにとっては凄くよいきっかけになったみたいで、驚くぐらい良いアイデアも出ました。そのアイデアを僕らもなるべく実現させていこうと動いて、実際にいくつも実現しています。こういったサイクルが回り始めて、自分事として受け止めてくれる選手が増えてきているなと感じています。」
※前田悟選手が日本環境設計グループの「再生PET樹脂製造工場」を訪問した時の様子。
※太陽光発電所には、元沢社長、北卓也ゼネラルマネージャー、綱井勇介選手が現地を訪問した。
※選手・チームスタッフによるワークショップにて、アイディアを発表する篠山選手。
詳細はこちら
――活動を推進する上で大事にしていることはありますか。
元沢「フロントスタッフのコアメンバーは5人いて、毎週いろんな話をディスカッションしながら進めています。その中で重要だと思っていることは、クラブの事業として『意義のあるアクションかどうか』を、企画設計の段階で見極めていくことです。やった方がよい活動や街の人に求められてやる活動も沢山ありますが、やるからにはしっかり取り組みたいし継続してやりたいと思っています。そういった意味でも、クラブとして取り組む意義を見出して、そうなるように企画設計をしていくことは大事だと思っています。例えば『川崎市内の小学生たちにもっとクラブのことを知ってもらえるか』とかですね。ただなんとなく世の中のためにやるという、曖昧なことだけはしないようにしています。」
――50種類もの多岐に渡る活動をされていますが、その中でも意義がありかつ企画設計が上手くいった活動はありますか。
元沢「地域ごとに課題は多少違いますが、例えば川崎市の小学生や中学生は全国共通の体力測定が、政令指定都市の中でも低いという課題があります。色々な原因があると思いますが、幼稚園くらいから運動をする楽しさを知ってもらって、体を動かしていけるお手伝いをクラブとしてできればいいなと思っていて、川崎市内の幼稚園や保育園にオリジナルのゴールを寄贈しました。
リクエストをいただいた園に順次送っていますが、さらにスクールコーチに来てもらいたいという園には必ず行くようにしていますね。寄贈だけではただの置物になってしまうので、選手やスクールコーチがボール遊びやバスケットボールクリニックをしに行くんですが、選手もコーチも参加者に楽しく遊んでもらうことが得意なので、子どもたちは凄く楽しそうにします。子どもたちや園の先生、そして親御さんに『川崎ブレイブサンダースっていう人たちがいるんだ』ということを知ってもらうきっかけになりました。
※川崎市の小峰幼稚園において、篠山竜青選手、長谷川技選手による幼児用バスケットゴールの贈呈式を実施。
――地域活動では自治体の存在も欠かせないと思いますが、自治体の方々とはどのように推進されていますか。
元沢「川崎市が『SDGs未来都市』に選定されていて、川崎市がSDGsに力を入れていらっしゃるというのは前提として知っていました。僕らもSDGsをやる方向は同じなので是非ご一緒させてくださいと、『&ONE』の推進をお手伝いいただくという協定を川崎市と締結しました。クラブとしてもこの発表をさせていただいたことは非常に大きかったです。毎月定例会をやらせてもらっていて、川崎市のSDGsを推進するチームの方々と1~2時間ぐらいみっちりミーティングをして、お互いが取り組んでいく方向性の共有をしたりします。
取り組みの一つとして、市内の法人向けのSDGsフォーラムを半年に1回開催していて、フォーラムのコンセプトや登壇者の検討も一緒にしています。あとは、僕らがやりたいことの相談もさせてもらっていて、推進に必要な方を繋いでいただくという観点では、もの凄く力になっていただいています。川崎市様には、裏で本当に支えてもらっています。」
※SDGsフォーラムは「川崎ブレイブサンダース」「川崎市SDGsプラットフォーム」「川崎市」による共催。
2021年7月に実施した第2回目には、オンライン配信も含め約200名が参加した。
――クラブパートナーやスポンサーとの取り組みはいかがでしょうか。
元沢「ファンの方々に『&ONE』を体験してもらうイベントとして、毎シーズンホームゲームで2試合、『&ONE days』を開催しています。現在スポンサードいただいている株式会社UPDATER様(再生可能エネルギー事業を展開)とは、このイベントに協力していただいたことがきっかけで、他の取り組みの話でも盛り上がり、結果としてスポンサードいただくことに繋がりました。
先ほどお話したSDGsフォーラムでも、地元企業様のSDGs活動を紹介するコーナーがあって、企業の社長さんや担当者の方にプレゼンテーションをしていただく機会があります。そこで登壇してくださった企業様も、結果的に川崎ブレイブサンダースにスポンサードいただくことになったりもしました。SDGsでなんらかのアクションをきっかけにお付き合いが始まり、応援してくださるようになるケースは多いですね。
今年2月には味の素株式会社様と『&ONE』オフィシャルパートナー契約を結ばせていただきましたが、契約までに1年近く色んなディスカッションをしてきました。川崎市に自社工場を持つ味の素様が、川崎市の健康領域でアクションをしていきたいという思いがあり、何か一緒に出来ることはないかというのがきっかけでした。
味の素様は『企業の志として、食と健康の課題解決を掲げており、2030年までに10億人の健康寿命延伸に取り組みながら、環境負荷の50%削減を目指している。地元地域でSDGsに注力されている、川崎市様・川崎ブレイブサンダース様の取組に非常に共感したという理由もありますが、当社の栄養・運動・ヘルスケア等の知見を活かし、地域の課題解決を目指す、さらに大きな取組にもつながると考えた。』と、本締結に関してお話をいただいています。
今回に限ったことではありませんが、パートナー様はバスケの試合を見たことがない方がほとんどです。僕たちもまだまだ頑張らないといけないのですが、『B.LEAGUE』という言葉を知っていても、『川崎ブレイブサンダース』を知らない人はいて当然。なので、まずはB.LEAGUEのクラブがどんなもので、その中で川崎ブレイブサンダースがどんなクラブで、どんな想いでやっていて、どんな選手やファンがいるのか、まずは僕らのことを知って理解いただけるよう動きました。お忙しい中何回も試合を見に来ていただきましたし、選手とのインタビューを組んだりもしました。1つ1つやっていくことでお互いの理解が深まっていく感じです。
味の素様ともそういう時間を経て、『こういう領域だったらできるね』とか色んなアクションを議論する中で、『&ONE』のオフィシャルパートナーになっていただきました。お互いのやりたい方向をどんどんすり合わせていくことが、プロセスとして大変ですが、大事なことだと思います。
この検討段階について味の素様は『当社事業とご縁の深い場所で食と健康の課題解決に取り組み、当社ならではのやり方で地域に貢献することを重視した。その第一歩が、&ONE daysでの栄養と運動をからめた「勝ち飯」のパネル展示や、当社の健康支援アプリ「アミノステップ」を活用したウォークラリーの企画。そして、地域の健康課題解決に向けた取組に広がりを持たせることを重視した。』とおっしゃっていました。
また『&ONE days』の開催に関しても『当社とご縁の深い川崎の地で『&ONE days』を開催することができ、改めて川崎市とのきずな、つながりを実感した。また、会場の雰囲気・一体感や、アリーナ内外のSDGsのメッセージから、スポーツの持つ大きな力や、それと地域の取組との親和性の高さといったことを感じた。 当社としても、運動・スポーツと栄養を組み合わせた取組や、SDGs活動を通して地元に貢献できればこれに勝る喜びはありません。』とのご感想もいただきました。」
※『&ONE days』はSDGsの17のすべての目標にチャレンジするイベント。
詳細はこちら
※株式会社DeNA川崎ブレイブサンダースの元沢伸夫社長。
本インタビューはZoomにて実施。
本インタビューの後編はこちら。
「&ONE」に関する情報は特設サイトでもご覧いただけます。
https://kawasaki-bravethunders.com/lp/and-one/