選手のHope活動~多嶋朝飛選手編~
小児がんで苦しむ子どもたちへ、支援の輪を広げたい――。レバンガ北海道の多嶋朝飛選手(31)は2019-20シーズン、クラブのスポンサー企業と協力して、社会貢献プロジェクト「ASAHI 8 プロジェクト」を立ち上げました。多嶋選手は3年間キャプテンを務めた後、2019-20シーズンは「オフコートキャプテン」として、コート外でも奮闘しました。1年の活動を多嶋選手に振り返ってもらいました。
プロジェクトの立ち上げは、何がきっかけだったのでしょうか。
「昨年7月、2019-20シーズンのオフコートキャプテンを任され、新人選手と一緒にBリーグの研修を受けに行きました。その中に、Bリーグが立ち上がった時に全選手が受けた『プロフェッショナルとは』という講習会もあり、そこで改めて社会貢献活動の意義や価値を感じました。プロバスケットボール選手として、そういった活動を自分でも何かできればいいな、とぱっと思い浮かびました。一人で行動できるわけではないので、クラブの方に活動をやってみたい、と投げかけたところからがスタートでした」
「Bリーグでは、各クラブにオフコートキャプテンを置くようになって、実際に自分がその立場になると、正直何をすればいいのか分からないところもありました。おそらく、その立ち位置はクラブによって様々だと思いますが、僕自身は、新人選手たちとリーグの研修を受け、社会貢献活動を行うことによって、オフコートキャプテンの意義が出てくるのではないかと考えるようになりました」
そして取り組んだ活動は、小児がんの子どもたちへの支援でした。
「レバンガ北海道のスポンサーである『ポッカサッポロ北海道株式会社』は元々、小児がんの子たちを支援する『レモネードスタンド活動』という活動をやっていました。その縁で、ポッカサッポロ北海道さんから、『多嶋選手と一緒に』とクラブを通じて依頼してくださり、クラブと話し合い、このプロジェクトをスタートしようと決めました。具体的には、レバンガの試合会場で小児がんの子どもたちへ100円以上の寄付をしてくれた方に、レモネード1杯を配るというものです。それに加え、僕が試合で活躍することが支援につながるようにと、僕の総得点に1000円をかけた額をポッカサッポロ北海道さんからも寄付をいただきました」
試合前にもかかわらず、多嶋選手自身が実際にレモネードスタンドに立って寄付を呼びかけました。
「レバンガ自体、今までもいろいろな社会貢献活動をやってきたクラブです。寄付の呼びかけが、イベント感の強いものになってしまわないかという心配はありました。実際にやってみると、ホームゲーム開催の試合前に、たくさんの方々が活動に参加するために並んでくれました。毎試合並んでくれて、この活動を応援してくれる方々がたくさん来てくれてありがたいなと感じました。もしかしたら、活動の中身を知らずに寄付をしてくれた方々がいたかもしれません。でも、僕がレモネードをお渡しすることで、その意味合い、このレモネードってなんなのだろうって考えてくれればいいのかなと思っています」
反響や手応えは小さくなかったようですね。
「少しでも多くの方々に活動自体を知ってもらうという点では、本当にたくさんの方々に触れあうよい機会をいただけました。僕からお願いをして寄付してもらい、その感謝の証しとしてレモネードを渡しています。それにもかかわらず、逆に『ありがとう』と言ってレモネードを受け取ってくれる方がいました。すごく不思議な感覚でしたけれど、この活動をやってよかったな、と感じる瞬間でした」
「小児がんではないけれど、お子さんが病気を抱えている方々からの反応もすごくありました。プロジェクトを応援してくれる声が多くありました。いまは、小児がんで苦しむ子どもたちを対象にしていますが、他の病気がある方とか、いろいろな環境の中で生活している方々にとっても、この活動の存在が少しでもプラスになれるのかなと感じられました。本当に皆さんに支えられ、皆さんと一緒にできた活動だったと思います。新型コロナウイルスの影響で、Bリーグはシーズン途中で終わってしまい、予定していた活動を全うすることはできませんでした。でも、『また来シーズンもやらないのですか』、とか、『あのプロジェクトはどうなったのですか』、と気にしてくれているファンの方々もすごく多かったです」
この活動を通して、コート上での意識にも変化はあったでしょうか。
「僕の得点に応じて、ポッカサッポロ北海道さんから寄付していただけることになっていたので、ファンの方々からは『そのためにもたくさん点を取ってね』という言葉をいただきました。今までには聞けなかった言葉でした。ファンの方が、試合での活躍と社会貢献活動を絡めた見方をするのだなと。予想外のことでした。今まで『たくさん点を取ってね』『試合に勝ってね』といった応援の言葉をたびたびいただきましたが、それとはまたちょっと違う意味合いが含まれていると感じました」
「2019-20シーズンは、内海知秀ヘッドコーチ(20年5月に退任)から『点を取りにいけ』と求められていました。その言葉で、自分のプレーを割り切れたところがあって、このプロジェクトを始めるにはよいタイミングだったと思います。僕自身、今までガードとして、所属したチームに適した、そのシーズンにあったプレースタイルでやってきました。でも、やっぱり自分は点を取るタイプの選手なので、そこに特化できるような選手になれればいいな、と思っていました。改めて、自分がどういうプレイヤーなのか実感できるよい一年にもなりました」
今回の活動をしたことで、チームメイト、特に若い選手に対して影響はありましたか。
「『また、朝飛さんが何かやっているな』と思っているかもしれませんね。僕も大学を出てリーグに所属してから長くなりましたし、レバンガに来てからもある程度長い年数が経ちました。チームには、若い選手も増えてきました。無理に社会貢献活動を勧める気はありません。でも、プロ選手としてこういう活動があるのだと、ちょっとでも若い選手に知ってもらえるきっかけになればいいなと思います」
「Bリーグができて4年目を終え、選手の環境も変わりましたし、認知度も変わりました。プロの価値がどんどん変わってきていく中で、Bリーグで、 B1でやれているからいいやという感覚だけは持ちたくないと思ってきました。これからどんどん環境が良くなっていった時、若い選手には、自分の価値はコートの中だけではない、コートの外でも高め方はたくさんあるんだと気付いてもらえるとうれしいですね」
Bリーグ全体で取り組んでいる「TEAMMATES」事業にも、レバンガ北海道の選手として参加しました。長期治療を必要とする子どもの復学支援プロジェクトで、阿部真楓(まなか)さんがチームの一員に加わりました。
「月に数回か、週に数回、練習に来てマネージャーのお手伝いをしたり、試合当日に来て、試合前、ロッカーに来たりしてくれました。たくさん話すような子ではなくて、どちらかというと人見知りでした。最初はなかなか一人でどうしたらいいんだろう、わかんないという感じで、マネージャーや選手が助けていましたが、最後の方は、『今日私この仕事ね』みたいな感じで、普通にチームの練習の中にいました。僕自身は深い交流があったわけではありませんが、真楓ちゃん自身の良い経験というか、成長しながらこの期間を使ってもらえたのかな、と感じました。自分たちもいままで、そういう子たちと関わることはあんまりなく、プロチームにいて、プロ選手だからできた経験なのかもしれません。これから僕もこうした活動を通じていろいろな経験を積んでいければいいのかなと思っています」
日本バスケットボール界のレジェンドであり、レバンガの看板選手だった折茂武彦さんが引退しました。地元・北海道出身の多嶋選手の役割は、これからますます重要になってきます
「北海道に来てから、ありがたいことにたくさんの方々に応援されていると日々感じています。それをどうにか、コートの中での結果に、チームとしての結果に、つなげたいなというのが一番にあります。もちろん簡単にはいかないことも理解しています。戦っている姿というか、もがいている姿を、しっかり見せていかなければなりません。年々、選手は変わっていき、レバンガに長く在籍する選手は本当に数少なくなってしまいましたが、レバンガが大事にしているものを、しっかり自分がコート上で体現していきたいです」
「オフコートでの活動も、レバンガはとても多くあります。若い選手もどんどん増えてきているので、何か言葉で教えるというわけではないですけど、自分が社会貢献活動やイベントをしっかりやることで、それが必要なのだよ、レバンガはこういうチームなのだよ、と若い選手に感じてもらえればいいかなと思っています」
「僕自身は自分がいまできることにフォーカスしてやりたいと思っていますし、いまはコロナの状況で、地域貢献活動を何かすると言っても、なかなか動きづらい時期だと思います。でも、活動時期、活動内容、やり方などをクラブと連係を取りながら、来期に向けてASAHI 8 プロジェクトを継続するのか、新しいもの考えるのか、しっかりと考えて、活動を続けていければいいのかなと思っています」
「ASAHI8プロジェクト」活動詳細はこちら
https://www.levanga.com/news/detail/id=13284
https://www.levanga.com/news/detail/id=13591
※インタビューは朝日新聞との連載企画です。
・該当ページURL
https://www.asahi.com/articles/ASN6X73J6N6NUTQP01N.html?iref=pc_ss_date