2025/04/28B.HOPE STORY#59

FE名古屋・内尾聡理選手が進める“ひとり親家庭の子どもへのきっかけづくり”「プロとして子どもたちに還元できたら」

S.U future立ち上げの背景と活動への思い

ファイティングイーグルス名古屋(以下、FE名古屋)の内尾聡理選手は、プロ1年目から児童養護施設の訪問やお金の教育教室の実施など、オフコートでも活躍を見せています。そして満を持して社会貢献プロジェクト「S.U future」を立ち上げました。プロジェクトを立ち上げたきっかけと、今後の活動について語っていただきました。

――昨年11月に「S.U future」というプロジェクトを立ち上げられました。プロ1年目というタイミングで立ち上げたきっかけは何だったのでしょうか?

内尾)元々プロとして子どもたちに還元できたらいいなという思いがあり、僕がひとり親家庭ということもあって、同じ境遇の子どもたちにアクションを起こしたいと思ったのがきっかけです。当時在籍していた千葉ジェッツ(以下、千葉J)のスタッフの方に話をしたところ、クラブと縁がある児童養護施設を訪問する話をいただき、伺ったのが最初ですね。特に誰かの影響はなかったのですが、原修太選手や同期の小川麻斗選手などプロジェクトをやっている方がいたので相談しやすかったですし、スタッフの方も積極的に動いてくれたのは大きかったですね。また、来年もここにいるという保証がない世界なので、プロ選手として個人的にプロジェクトを立ち上げることで継続しやすいという考えがひとつありました。

――長く続けたいという思いからだったのですね。

内尾) そうです。幸い協力してくれる方がいて実現できました。もちろんクラブとも連携します。12月にイベントをやったのですが、その際もS.U futureとクラブの方とで入念に打合せをさせていただき、ブースを作ってもらったり、宣伝に協力してもらったりしました。個人的にやってはいますがクラブとも密接に連携し、FE名古屋にも貢献したいという思いです。
僕の場合は周りの方に恵まれてバスケットボールを続けてこられたのですが、やりたいことを続けられなかった人も身近で見聞きし、問題や課題も感じていたので、「Shoot for the Unlimited Future(追い求めている目標には、無限の可能性が詰まっている)」をテーマに掲げました。S.U futureというネーミングはここから来ています。また、意訳すると「最高の未来を目指せ!」で、この活動が子どもたちの未来にとって良いきっかけとなって、明るい未来につながることを心から願い、子どもたちを応援しています。

©FE NAGOYA

――児童養護施設の訪問は、どんな経験だったのでしょうか?

内尾)僕が行った時は年代がバラバラで園児と小学校低学年の子たち、高学年の子たちがいて、それぞれとプロ選手になるまでの過程や経験を話したり、低学年の子にはクイズを出したりしました。その後にバスケットボールやボール遊びを外でやったのですが、体を動かすことは、距離が早く縮まる手段なのだなと思いました。年齢が近いので、仲良くなりやすかったとは思いますが、それでも、実際に行かないと分からないことも多かったですね。子どもたちとスポーツを通じて触れ合う中で、パワーをもらい、バスケットボールに対するモチベーションも上がる素晴らしい体験でした。

――子どもたちに伝えたいことはありましたか?

内尾)僕が行くことをきっかけにして、ひとつでもポジティブな思いが生まれてくれたらいいなという思いはありましたが、何を感じるかは自由なので、特にこれをということはなかったですね。あとで何かをやってみたいとか、バスケットボールの試合を見てみたいなと思ってくれたらうれしいです。訪問後、今後の参考にするためにフィードバックをいただいたのですが、「いつもは外に出ない子どもたちが、訪問後、楽しそうに運動するようになった」という話を聞いてとても良かったと思いました。

――子どもたちにとっては、それだけ充実した時間だったわけですね。

内尾)僕は教員免許を持っていて、教育実習にも行ったのですが、学校での勉強は点数を取るためのものがほとんどですよね。僕としては、何らかの理由でやりたいことができない子どもたちに生きていく上で必要なこと、例えば「お金について」教えてあげるのが一番いいかなと考えていました。受験勉強も大切ですが、他にも大切なことはたくさんあります。僕が行ったことで何か感じてもらえればいいと思います。

――今後も定期的に子どもたちと触れ合う機会を設けていくのでしょうか?

内尾)そうですね。昨年から「FRaU SDGs eduこども プレゼン・コンテスト」の審査員を務めています。12月に「未来を担う子どもたちが笑顔で過ごせるように」をテーマに、同じ志を持つ化粧品会社の社長とイベント限定FEカラーパッケージの洗顔フォームを販売して、売り上げの全額を「ひとり親家庭の子ども支援活動」に充てるというイベントを実施し、300人以上の方が賛同してくれたおかげで、6月にひとり親家庭の親子を対象にした料理教室を開催することが決まっています。また、アエラスタイルマガジン藤岡編集長がナビゲーターを務める「アエラスタイルマンスリー」というトークイベントで「アスリートの社会貢献」をテーマに講義させていただきます。更に、中学生時代を過ごした熊本の子ども第三の居場所を訪問して、子どもたちと触れ合う機会を作ることができるよう日本財団さんと話を進めています。

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――料理教室はおもしろいですね。内尾選手は料理上手ですか?

内尾)料理教室では、ひとり親家庭の子どもたちが親の留守中でも自分ひとりで作れて、材料費を控えめにしつつも栄養価が高くお腹いっぱいになるメニューを考えてもらい一緒に作りたいと思います。僕はそれなりには上手いですよ。結構何でも作れます。物心つく頃から母は、朝から晩まで働いており帰りが遅かったため、ご飯を炊いたりして、最低限のことは手伝っていたので、そのおかげですね。

――内尾選手の懸命なプレーを見てエネルギーになっている方もいると思いますが。

内尾)プロバスケットボール選手としてやっていく中で、そういう方がいるのはうれしいという思いですね。僕はただただ一生懸命にやっているだけで、それを見て、元気になってもらえたんだと思うと、自分自身へのエネルギーにもなります。先日、小児がんと闘っているお子さんから「治療と受験を同時に頑張り無事にやりとげました!」とメッセージをいただきました。このような知らせは本当に嬉しいですし、逆に元気をもらっています。これからさらに、子どもたちに対しても、ファンの方に対しても、試合を観てくださった方に対しても、少しでも生きる活力になれるように、日々頑張っていきたいです。

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――選手がオフコート活動をやる意義はどんなことにあると思いますか?

内尾)前提としてやりたい人が自分のやれるタイミングでやればいいと思います。気持ちが大切だと思うので、無理にというものではないと思います。やはり本業はバスケットボールであり、僕もそこで結果を出さないといけないと思っています。気持ちがあるのなら、バスケットボールをしっかりやりつつ、活動できるのが一番いいと思います。意義としては、活動の内容やその人の想いによって異なってくると思いますが、僕の場合はより多くの子どもたちが将来に対して今日よりも少しでもプラスの感情や行動が生まれるようにするという意味合いがあると思います。

――最後に今後に向けて、どんな活動をしたいかを教えてください。

内尾) まずは先ほど言ったように、中学生時代を過ごした熊本で子どもたちを対象としたイベントをやりたいですね。僕が直接訪問し一緒に触れ合うこともプラスに働くとは思いますが、金銭的にも支援ができる仕組みを作りたいなと考えています。経済的に成り立つ仕組みを考えることが、サポートが続く秘訣だと思います。そうやってプロジェクトを長く続けていきたいなと思います。

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