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COLUMN

ポゼッションの栃木、短時間攻撃の千葉
アナリスト視点でB.LEAGUEを見よう(6)

編集◎スポーツナビ(元記事)

初年度のB.LEAGUE(以下Bリーグ)がいよいよクライマックスを迎えようとしている。スポーツナビではBリーグ初代王者が決まる5月13日からのB.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2016-17(以下、CS)に向けて、大会ナビゲーターに就任したバスケットボール解説者・NBAアナリストの佐々木クリス氏協力のもと、プレーデータを活用したCSの楽しみ方を連載形式でご紹介する。最終回では、準々決勝で相まみえる栃木ブレックスと、千葉ジェッツのシーズンデータから、チームの特徴を解説してもらう。

本記事で扱うデータは、Bリーグが競技力向上のためにB1に導入したバスケットボール専用の分析ツール「Synergy」の数値を元にしている。Bリーグ初年度のクライマックスを、データとともに楽しんでいただきたい。

文◎佐々木クリス

■ リバウンド重視で攻撃権を得る栃木

バスケットボールの試合において対戦する2チームが1試合を通じて、必ず1回のシュートで攻守が交替した場合、お互いに攻める回数=攻撃権は同数になることをみなさんはご存知だろうか。さらにこの場合シュート成功率が共に50%の決定力であるならば、互いに100回攻撃すると100-100の同点で延長にもつれる。そして再延長、再々延長へと続く……ならば試合を決める要因は?

攻撃権を強奪し、ポゼッションゲームを制するのだ。この攻撃権の奪い合いにおいて、日本で栃木の右に出る者はいない。

自チームの攻撃権を増やす方法は大きく分けて2つ。オフェンスリバウンド(ORB)を取得することと、相手のミス=ターンオーバー(TOV)を誘うことだ。ポゼッションゲームという表現になじみがなくとも、人気バスケアニメの「リバウンドを制する者は試合(ゲーム)を制す!!」という名台詞はご存知だろう。かつてNBAでマジック・ジョンソン擁するロサンゼルス・レイカーズを率いて3連覇を成し遂げた名将パット・ライリーの名言“No Rebound, No Rings”=「リバウンドなしに、(チャンピオン)リングはなし」にインスパイアされているという説もある。

制するという言葉の意味を「数で上回る」と解釈してしまうと誤解が生じる可能性があるが、制するとはすなわち「支配すること(=実数ではなく取得率で上回る)」ということだと、僕は長い年月を経てようやく理解できた。

栃木は全60試合を通じて、自身のポゼッション総数が5165回とリーグ最多。さらに相手のポゼッション数は4744回で最小である。当然その開きは「+421」とリーグ最大だ。シーズンを通じて自らのポゼッション総数よりも相手のポゼッション数が上回ったチーム(=開きがマイナスに転じたチーム)は11チームで、栃木以外でプラスに転じているチームは6チームで彼らの開きを合計して「+366」とお伝えすれば、栃木のポゼッションを掌握する力がこのリーグでいかに大きいかお分かりいただけると思う。この差は、太陽系の広さと宇宙の広さぐらい違うと言ってもいい。

まずリバウンドから説明すると、ディフェンスリバウンド(DRB)を取ることに栃木がプライドを持っているのは言うまでもない。ここを抑えない限り、常に攻撃権を相手に与え続けることになるので優位に立つことは難しい。相手に与える1試合平均9.3本のORBはリーグ最小だ。その上でシーズンを通じてORBの取得数は平均15.6本と規格外。これだけで1試合平均約6回以上、相手より攻めの回数を増やしたことになる。外角の決定力に欠けるという課題もあるので、ORBの機会も確かに強豪チームにしては多いのかもしれない。しかしそれでも驚異的な数字だ。

■ ポゼッションで上回ることが生命線

次に目を向けたいのはTOVで、相手の攻撃権100回あたり相手のTOVは16本を記録しており、リーグで2番目に多い。大事なのは対戦相手との差異で、自らは100回の攻撃権あたり11.9回のミスにとどめており、攻撃権4回分の差を生み出している。

ORBや相手から誘うTOVに共通することは、攻撃権を増やすばかりでなく、即高確率な攻撃につなげられるという特徴がある。4~6点分のインパクトを試合に与えることで“勢い”というコート上の魔物さえ味方にしてしまう。

事実、ORB直後に得点に結びつけるセカンドチャンスポイントも11.6点とリーグ最高で、その頻度も栃木の攻撃12回に1回の頻度で起きる水準である。攻撃全体の得点効率はリーグ7位、CS進出チーム中6位であることを考えれば、ポゼッションで上回ることが栃木の生命線でもあるかもしれない。

リバウンドやスティールを連発してマイボールにするのは、平均ORBが4.28本、スティールが1.5回のライアン・ロシター、そしてORB2.78本、スティール1.32回のジェフ・ギブスだ。外国籍選手には出場枠制限があるため、ジェフは出場時間が1試合あたり20.5分に限定されるが、彼の出場時をライアンの出場に近い30分に合わせると、ORBは平均4.1本にまで到達し、その支配力が浮かび上がってくる。

またポゼッションの重要性が理解できると、田臥勇太のルーズボールへの執念が数字に表れなくともいかに大きな意味を持つのかもご理解いただけるだろう。

栃木の代名詞がディフェンスであることはご存知の方も多いと思う。そのディフェンス力に補足をするならば、彼らのスティールはギャンブル性のものではないということだ。相手に許すタイプのシュート、また相手に許す決定力もディフェンスとしては素晴らしい数字を残している。彼らに対して攻撃が停滞してしまえば、圧倒的な重力の力で銀河の海に藻くずと散る覚悟をしなければならない。

■ 「ペース&スペース」を具現化する千葉

千葉の試合を観戦しても、シュートの分布を分析しても、彼らの戦い方は「ペース&スペース」と呼ばれる考えに合致していると言える。「ペース&スペース」とは、1990年代に米国バスケはつまらないとユーゴ圏の国々が発展させ、巡り巡って2010年頃から再びNBAが昇華させる形で現在世界のバスケットボールを席巻しているピック&ロールをベースにしたもの。

ペースと言う言葉は少しトリッキーでもあるので解説しておくと、バスケットを分析するアナリストの言葉では「1試合で何回攻撃するか」を指す。そして、ペースを早めることは、攻撃を短時間に終了することを意味する。しかしNBAのチーム関係者に話を聞くと、ペースとはハーフコートに入った後の攻撃にも求められるもので、選手やボールが流れを止めないこと、といった感覚的なものにも使われるそうだ。

世界で主流になっているピック&ロールの目的は、ハーフコートの中で数的優位の状況やトランジション(攻守の切り替え)を生み出すこと。ピック&ロールの絶対数はNBAでも比較的少ないが、最大効果を生み出すゴールデンステイト・ウォリアーズの選手は自分たちの攻撃を「組織化されたカオス」と呼び、アナリストの世界で言うところのペースも極めて速い。

また攻守の切り替えが起きて、守備側の体制が完全に整わないアーリーオフェンスの状況とピック&ロールの相性は極めて良い。ピック&ロールを守るためのシフトやローテーションはおろか、コミュニケーションの準備すら整っていない状態で一撃をお見舞いすることができるからだ。

ペースを速めて、ハーフラインを早く超えることにはもうひとつ効果がある。それは5対5よりも4対4、3対3、2対2、1対1とコート上に立つ選手の人数が減り、1人の選手が自由に使えるスペースが広ければ広いほど、バスケットボールは攻撃が優位になる性質があるということ。

ディフェンスがスクランブル状態に陥る数的優位(=カオス)は、ペースとスペースの相乗効果で生まれる。ピック&ロールを行う際、コートを実際のサイズよりも広いとディフェンスに感じさせる3Pの効果にも通じる。このスペーシングの概念については、あらためて「3Pシュートの価値は1.5倍!?」のコラム(※1)を一読願いたい。

■ シュートセレクションはリーグNO.1

前置きが長くなってしまったが、ここで千葉のデータをいくつか紹介したい。まずペースを押し上げる速攻の頻度は100回に16回(リーグ平均12.5回)で、決定力も3本の指に入る。さらに質×量でみると、千葉のピック&ロール効果は得点エリアの分布に大きく表れている。近代バスケットで最も得点の期待値が高いと言われるペイント(エリア)内得点と3Pシュートによる得点の合計が得点総合計の実に76.9%とリーグ最高の数字だ(リーグ平均は70.6%)。また3Pシュートによる得点は全体の34.5%でこれもリーグ最大。最もコートを広げることに成功しているチームと言えよう。

逆にリーグ平均が0.737PPP(=Points Per Possession)と得点の期待値が最も低いミドルレンジからの得点は総得点の8.3%にすぎず、リーグで唯一の一桁台にとどめている。攻撃の目的の半分は「誰にどこで打たせるか」ならば、千葉のシュートセレクションと遂行力もまたリーグNO.1と言える上に決定力も十分だ。

これらの特徴を際立たせる選手を挙げるならば、リーグで2番目に多く速攻に繰り出した切り込み隊長タイラー・ストーン(216回)ともう1人。今季3Pシュートを100本以上、アシストを150本以上、ペイントエリア内得点が200点以上という3つの条件をクリアした2人のうちの1人、富樫勇樹だ。ストーンも出場時間を富樫に合わせると154.5アシストを記録していることに加え、キャプテン小野龍猛もシーズン141アシストと高水準。千葉はピック&ロールのみならず、多彩な手段でディフェンスを解体できることを物語っている。

この両雄の対戦は、見どころやマッチアップの面白さを挙げると切りがない。あえて最初に挙げるならば、今季主にベンチから出場してきた外国籍選手達の中で最も試合に影響力を及ぼしてきた両クラブの2人、ジェフ(栃木)とストーン(千葉)だ。

ディフェンシブなジェフとオフェンシブなストーンの対比は、陰と陽、矛と盾などどう形容してもいい。彼らの出来が優勝すら左右するという意味では、2人のうちどちらがリーグのmost impactful player(最もインパクトのある選手)かを決める対決でもある。

そして、栃木と千葉は守備で拮抗(きっこう)した高い数字を出している。一番の特徴は外角のシュート力だろう。ここに課題がある栃木は攻撃権を増やして補う必要がある。対して千葉は3Pシュートで攻撃権の少なさを相殺できる。例えば相手よりも5本多く3Pシュートを決めればそれだけで15点差がつくが、相手が同じ本数だけ2Pシュートを決めていれば5点差。これをポゼッションの数にすれば5回分。ということで、栃木はORB、千葉は3Pシュートの成功数が鍵を握っている。さらには、お互いにどう相手の強みを消すのかにも注目するとより面白いはずだ。

(データ提供:B.LEAGUE、グラフィックデザイン:相河俊介)

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